11 幼馴染 3
紫荻を弟として紹介したのは訳がある。
それは、彼らの紫荻に対しての好感度を、できるだけ下げておくためだ。
この世界は、俺がどうしようともゲームの筋書きをなぞり、攻略対象に出会う手はずになっているらしい。俺が攻略対象者に合わせないと決めたとたんに、彼らが登場したのだから、きっとそう。
ゲーム通りならば、目には見えないが好感度もあるはず。
バットエンドを目指すのなら、全キャラの好感度は低くてはいけないのだ。
しかし、この出会いをきっかけに、幼馴染の関係が生まれたなら。それは危険だ。
好感度なんて、ぐんぐん上がることこの上ない。
だから、最初から男として紹介しておく方が楽。つまり――。
異性としてのフラグを追っておこう、という冴えた考えである。
今この状況。
この兄の心を、紫荻が少しでも通じることを今は願うしかない。
「――。はい、だてまさむねの弟、しおぎといいます」
――通じたー!!!
さすが紫荻!早くも心が通じ合っている!
「男どうし、めんどう事なくなかよくしてください」
あ、違うなこれ。
これ、たぶん面倒になっただけだな。
面倒な異性で過ごすよりも、同性で過ごした方がいいとか思ったんだろ。
――さすが、俺の紫荻だぜ☆
そんな紫荻に、一番に歓迎の笑顔を向けたのは幸村だった。
「紫荻殿、良い名前だな。俺は真田幸村だ。よろしくたのむ!」
人懐っこい笑顔で、握手を求めるように手を差し出して。
とりあえず、俺がその手を取っておくことにした。
「――政宗殿、これはいったい」
「触るな、つってんだろ。はッ叩くぞ」
「うーん。ブラコン!」
一応笑顔だったのにな。
完全に幸村からはブラコン認定されてしまったが、紫荻を守れるならもうそれでよい。
ただ、三成と佐助は違う。二人でこそこそと何やら話をして、数分。
三成が紫荻に近づいたのは、そのあと。
「俺は石田三成だ。よろしく頼む」
「……みつなりさま、ですね。よろしくおねがいする」
紫荻はちょっと男口調で挨拶を返した。
こいつは握手を求めるような性格ではないので安心だ。
「ところで。政宗の弟だといったが、男であれば相撲とかもできるよな?ここは、男らしく。裸で――」
――ぜんぜん安心じゃなかった――!!!
なに、そこ意地悪い笑みでいってんだよ!出来る訳ないだろう!
「何言ってんだよ!!ロリコンの変態!!」
「ろ、ろり!?――だ、だれが変態だ!お前の弟なのだろう!なにが問題だ!」
俺が叫べば、三成も真っ赤になって返す。
問題だらけだろう!紫荻の裸見たいって、同年代でも変態だよ!
いや、まて!ようやくここで、はと勘づく。
きっと三成はこちらが素直に降参するのを待っているのだ。そうに違いない。そうじゃなきゃ変態だ!
確実に三成――。それと佐助は、紫荻が女だと気が付いている!
くっそ!さっきはジェンダーレスとか抜かしていたくせに!
何が何でも紫荻を女にしたいらしい!女だけど――!
俺は焦る頭であたりを見渡す。
何か、何か回避できるいい策はないか――。
そこで、すでにシャツを脱ぎ、上半身裸の幸村の姿を見つけた。
「――何やってんだよ!!」
「え、相撲であろう?」
「この馬鹿!!馬鹿野郎!!すけこまし!!!」
「な!!」
行動が早いんだよ、お前は!
口元に手を当てていたが、佐助が完全に笑っていた。止めろよ!!
俺はジャングルジムにかけてあったシャツを手に取り、幸村へと投げ飛ばす。
顔でキャッチしながら、ここで幸村が反撃してきた。
「政宗殿こそ何をそんなに慌てているのだ!ただの相撲だろう?」
「服を脱ぐのが問題なんだよ!」
「相撲は上半身裸でやるモノだろう!それに、なにも全部脱げとは言っていないではないか!」
「別に服を着ててもいいだろ!?それに全部脱げだったら、お前らとは絶交だよ!」
何も気が付いていない馬鹿が、何を反撃している!
本当は気が付いているんじゃないか此奴!!
「いや、相撲は裸でやるものだろう?」
「……ごほ。そうっすよ。何が問題あるんですか?」
三成がすでに勝ち誇った笑みを浮かべている。
佐助に至っては笑いすぎて咳してるし。咳するぐらいなら隠すな!!笑えよ!!いや、笑うな!!
何が楽しくて幸村に加勢するというんだ!
其れにくわえ、先ほどから紫荻が何も言わないのが気になる。
嫌な予感がして、彼女の方を見れば。
紫荻は、もう腹に決めたような表情を浮かべていた。
「……わかりました」
「分からないで!!」
なんでそんなに物分かりがいいんだよ!
今の年齢ならばれないとでも判断したの!?だめだよ!!
「だめだよ!?だめだからね!!」
「ここはかくごですよ兄上」
「覚悟なんていりません!!やめなさい!!」
シャツをまくり上げ、おなかを出す紫荻の手を止める。
めちゃくちゃ力強いけど、ここは兄貴の意地だ!違う!!意地じゃない!!なんて言うんだこれは!!
なんにせよ、そんなことしてみろ!!俺が死ぬ!!俺が母さんに殺される!!
――キキっー。
――ふと、自転車が止まる音がして、誰かの視線を感じる。
やばい!誰かは分からないが、この状況を見ている奴が増えた!!
これ以上人が増えるのはダメだ、絶対!
だれか、誰か助けてくれ――!!
「――――うわああああああああああああ!」
そんな俺の声を代弁するように、誰かが叫びながら走ってきたのは直後の事。
すさまじい土煙とともに、俺の目の前から紫荻が消えたのも、同時の事。
あまりの事に、呆然とする中。
俺達からおおよそ2メートルほど離れた場所で。
「――お、おま!!うちのお嬢になにしてんだ!!」
紫荻を抱きかかえた、その男――。片倉小十郎は肩で息をしながら俺達、嫌。
俺を含めた幸村たちを、睨んでいた。




