10 幼馴染 2
名場面――。名場面だったんだよ?
紫荻が政宗の月になって、導くって宣言した場面は。
本当に綺麗な瞬間だったんだよ?それを、おまえ。――黒歴史みたいな!
「誰が何と言おうと、おまえは俺の月です――!ほら、復唱!」
「………………………………」
「せめて目を合わそう?ねぇ、他人のふりするのはやめよう!」
必死にすがって泣き真似をしてみたものの、紫荻は俺と目を合わせることはしなかった。
前世の記憶があるとはいえ、政宗の事、毛嫌いしすぎでは?
「相変わらず、情緒が不安定だな」
「いつもよりひどいのでは?」
と、三成と幸村。
周りの白い目にも気づかないふりをしながら、俺は妹に泣きつくのである。
☆
「――コホン」
俺は咳払い一つをこぼす。
まわりからの冷たい視線と、目も合わせてくれない紫荻。
さすがに醜態をさらしすぎた、と気が付いたのである。
「遅れて悪かった。い――弟が着いていきたいって聞かなくて」
取り繕うように、謝罪を言葉に。笑顔を浮かべて紫荻を紹介。
もう遅いとか、無理やりすぎるとか。――そんなことはない。
そんなことはないはずだ――!
目の前の幸村は哀れな視線を。三成は警戒の眼差し。佐助は冷たい目をしていたが。
三人が目を合わせて、大きなため息をこぼしたのは、次の事である。
「――それで、弟とは?」
仕方が無さそうな表情で、問いただして生きたのは三成だ。
子供ながらに、目元に大きな隈をこさえた鋭い目で俺たちを見ている。
おっと、忘れていた。
ここで、彼らの紹介を簡単にしておく。
左から順に、俺達兄弟をにらむのは、石田三成。
このゲームでは俺より一歳上なので、今は8歳のはず。
肩につかない色素の薄い茶色の髪の毛。
先ほど言った通り、鋭い鷹のような目。目元には大きな隈をこさえた。将来の眼鏡イケメン。
豊臣家が運営する孤児院で育った。属性でいえば、ツンデレ枠である。
――だが、彼の中では秀吉が一番で、随時偉そうな口調。糖分が低いストーリー。
デレのないツン俺様野郎は攻略者の中では、一番不人気なかわいそうな奴である。
「いっただろ?一か月前に養子を迎えたって。で、それがこの弟。名前は紫荻」
そんな眼鏡野郎に視線を向けながら、俺は改めて紫荻を紹介した。
三成の隣にいた幸村が眉を顰める。
「――弟?貴殿の母上からは、女子と――」
「弟だ!!弟だから!!」
そうだった。此奴の真田家と俺の伊達家は交流があったのだった。
でもこいつは馬鹿正直。いや、馬鹿みたいに素直だから適当に言いくるめるだろう。
さて、此奴は真田幸村。
俺と同い年なので今は7歳か。
焦げ茶の手入れしていないツンツンの髪。
髪と同じ色の猫のように大きい目のせいで、年の割には幼く見える。将来は童顔が売りのイケメン。
この世界では有名な歌舞伎座の次男坊。将来は男型でも女形でも活躍する、有名人だ。
古風なしゃべりなのも、これが影響だろう。属性でいえば真面目な子犬君になるのか?
性格はすべてに馬鹿が付く。馬鹿真面目で馬鹿素直で馬鹿正直者。思ったことはすぐ顔や行動に出る。
その影響か、いの一番にくのいちの術中にはまる。
スケベで誰よりも手が早く。騙されやすくて、流されやすい。人気投票同率一位なのは絶対に腑に落ちない。
性格云々に関しては本家本元に謝れ。
――とりあえず、そんな男だ。
思った通りか、幸村は俺の言葉にわずかに首をかしげたが。
まぁ、政宗が言うのなら間違いない、と思ったのだろう。笑みを浮かべた。
「なるほど。実に愛らしい弟君だな。俺は――」
「おい、殴り飛ばすぞ」
「――え?」
「俺の紫荻に気安くさわるんじゃねぇぞ」
「政宗殿……。ブラコンは嫌われるぞ」
「うるさい!!」
お前が当たり前に「愛らしい」とか言うからだ。手を掴むのもだめ!
そんなところも気に食わない点である。
「――ちょ、若。騙されないでください。この子はどう見ても――」
「弟だつってんだろ!」
俺の言葉を、完全に信じてない様子なのは、幸村の隣にいる猿飛佐助だ。
表情の読めない糸のような目に、明らかに呆れを混じらせ、小言をこぼす。
猿飛佐助。年齢は三成と同じなので現在8歳。
将来は適当な敬語を使うお兄さん的キャラ。
耳下までの雪のような白い肌。糸のような細い目。所謂アルビノの糸目イケメンキャラ。
真田家に古くから使える元忍びで、幸村の友人兼世話係だ。
しかし政宗や幸村と違い、ボンボンとかではなく普通の一般家庭の出である。
前作ではただのモブキャラだったが、今作からキャライメを一掃し、攻略対象に上り詰めた一人でもある。
成長後は195センチという高身長に加え。
胡散臭い見た目に、声優も胡散臭く。裏切り待ったなしといわれた輩だ。
だがしかし、此奴は裏切りという期待を裏切ったキャラである。
誰もが、ぐうの音も出ないほどの純愛ストーリー。阿保みたいな一途を貫き。
元忍の一族ということもあり、くのいちの術中にはまることもなく。むしろ、陰ながらに紫荻を守り。
その純愛甘々ストーリーで数多くの女性ファンを掴んだ、人気投票一位のつわものである。
男の俺でも思ったほどだ。
――こいつがメインでは?……と。
そんな作中屈指に感の良い男が、紫荻を疑っている。
いや、実際は女だから、此奴の方が正しいのだけど。
「いや、でも――」
「確かに可愛い顔立ちで、声もかん高くて、華奢な体つきだけど!!こいつは男だよ!男なの!!!」
「……」
俺はとにかく押し通した。
さすがにこれは踏み込んではいけないと、佐助も判断せざるを得ない。
複雑な家庭事情とか、気が回るこいつはそう判断してくれるだろう。
「はぁ……。まぁ、それぞれ……。ジェンダーレスですもんね」
そして、それはうまく嵌ってくれたのである。
俺は心の中でガッツポーズを取った。
ふと、再び服の裾が引っ張られた。
「――。兄上、彼らが兄上のおともだちなのですか?」
今まで黙って三人を見ていた紫荻が、不思議そうに口を開く。
そうだ。彼女にも彼を紹介しなくては――。
しかし、俺は少し困った。困ったが、仕方がない。
嘘を言っても無駄なので、正直に彼らを紹介する。
「紫荻。――。左から石田三成くん、真田幸村くん、猿飛佐助くんだ。俺の友達?みたいな?」
「なんてあやふやな」
「そこははっきり友達といいたまえ」
周りがうるさく騒ぐ。
もちろんなのだが、いや。たぶん見た目で気づいていたと思うが。
紫荻は「やっぱり」というような表情を浮かべるのであった。




