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神喰いさまの契約花嫁 ―桃色吐息に秘めた恋―  作者: たかつど


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17話 災厄の花嫁

 異変が始まってから三日後、花蓮は父の薬草を求めて町に出かけた。焔の警告を覚えていたが、父の体調が心配で、どうしても薬師に会う必要があったのだ。


 しかし、町に足を踏み入れた瞬間、花蓮は異様な雰囲気を感じ取った。人々の視線が、これまでとは全く違っている。畏敬や恐れを通り越して、明確な敵意が込められていた。


「あそこにいるのが……」


「災厄の花嫁だ」


「あの女のせいで……」


 ひそひそ声が花蓮の周りに響く。災厄の花嫁——そんな呼び方をされているとは知らなかった。


 薬師の店に着くと、店主は青ざめた顔で花蓮を迎えた。


「お、奥方様……」


「父の薬をいただきに参りました」


「それが……申し訳ございませんが……」


 店主は困り果てた表情を見せる。


「皆が……皆が奥方様を……」


 その時、店の外から大勢の足音が聞こえてきた。花蓮が振り返ると、店の入り口に村人たちが集まっている。その表情は、怒りと恐怖に満ちていた。


「ついに現れたな、災厄の女め!」


 先頭に立つ男性が声を荒げた。


「あなた方……」


「我々の村に災いをもたらしたのは、貴様だ!」


 男性の声に、他の村人たちも同調する。


「子供たちが病気になったのも!」


「井戸が汚れたのも!」


「すべてお前のせいだ!」


 花蓮は震え上がった。人々の怒りが、すべて自分に向けられている。


「神喰いなどと契りを結ぶから、こんなことになるのだ!」


「村から出て行け!」


「二度と戻ってくるな!」


 怒号が店内に響く。花蓮は言葉を失っていた。


「待ってください」


 花蓮は必死に弁明しようとした。


「私は何も悪いことは……」


「悪いことをしていないだと?」別の男性が怒鳴った。


「神喰いの封印を解いたのは誰だ?」


「それは……父を救うために……」


「父親一人のために、村全体を危険にさらしたのか!」


 人々の怒りはさらに激しくなった。


「子供たちが苦しんでいるのを見ろ!」


「お前の身勝手のせいで!」


「許せない!」


 その時、誰かが石を投げた。小さな石が花蓮の頬をかすめて飛んでいく。


「あっ……」


 花蓮が頬を押さえると、手に血が付いていた。


「それでも足りない!」


「もっと思い知らせてやれ!」


 次々と石が飛んできた。花蓮は慌てて身を守ろうとしたが、石の雨は容赦なく彼女を襲う。


「やめて……お願いします……」


 花蓮の懇願も、人々の耳には届かない。


「災厄の女に情けをかけるな!」


「村から追放しろ!」


 石の一つが花蓮の額に当たり、血が流れ始めた。別の石が肩を打ち、彼女は痛みで身を屈めた。


「お願いします……私は……私は……」


 花蓮の声は震えていた。これまで見守ってくれた人々が、今では鬼のような表情で自分を攻撃している。


 薬師の店主は、申し訳なさそうに奥に引っ込んでしまった。誰も花蓮を助けてはくれない。


「神喰いと共に、この村から消えろ!」


 最後の石が花蓮の背中を打った。彼女はよろめきながら、店から逃げ出した。


 町を出て祠への道を歩く花蓮の姿は、痛々しいものだった。額から流れる血、擦り傷だらけの腕、泥にまみれた着物。しかし、身体の傷よりも心の傷の方が深かった。


「災厄の花嫁……」


 花蓮は自分にかけられた言葉を反芻していた。


 確かに自分が焔の封印を解いたことで、異変が始まったのかもしれない。子供たちの病気も、井戸の異変も、すべて自分のせいなのかもしれない。


「私が……私が悪いのでしょうか……」


 涙が頬を伝い落ちる。血と混じり合って、地面に落ちていく。


 歩きながら、花蓮は様々なことを考えていた。父を救いたい一心で行動したが、その結果として多くの人々を苦しめているのかもしれない。


「お母様……私は間違ったことをしたのでしょうか……」


 胸の桃色吐息の花に向かって語りかけたが、答えは返ってこない。


 足を引きずりながら歩き続ける花蓮の背中は、小さく震えていた。人々の怒りの声が、まだ耳に響いている。


「出て行け」「災厄の女」「許せない」——そんな言葉が頭の中を駆け回る。


 祠まであと少しというところで、花蓮の足がもつれた。疲れと痛みで、もう歩くのも困難になっていたのだ。


「焔様……」


 小さくつぶやいて、花蓮はその場に座り込んだ。もう一歩も歩けない。


 夕日が花蓮を照らしている。血にまみれた彼女の姿は、哀れで美しかった。


「花蓮!」


 焔の声が響いた。いつの間にか彼は花蓮のそばに現れていた。


「何があった!」


 焔は血まみれの花蓮を見て、激怒した。その瞳が、これまで見たことがないほど赤く燃え上がっている。


「焔様……」


 花蓮が弱々しく微笑もうとしたが、うまくいかない。


「誰がこんなことを……」


 焔が花蓮を抱き上げる。その手は優しかったが、全身から恐ろしい怒気が立ち上っていた。


「町の人々が……石を……」


 花蓮の報告を聞いた焔の怒りは、頂点に達した。


「人間どもめ……よくも……」


 焔の周囲に黒い炎が立ち上がった。それは彼の怒りの象徴だった。


「よくも我の愛する者に手を出したな!」


 焔の声が山に響く。その声には、神としての威厳と怒りが込められていた。


「焔様……怒らないでください……」


 花蓮が焔の腕の中で言った。


「怒らないだと? 貴様がこんな目に遭わされて、黙っていろというのか?」


「お願いです……人々を責めないでください……」


 花蓮の言葉に、焔は困惑した。


「彼らは……怖かったのです。子供たちが病気になって、不安だったのです」


「だからといって、貴様に暴力を振るっていいわけではない!」


 焔の怒りは収まらない。


「我は許さない。絶対に許さない」


 焔の瞳に、復讐の炎が燃えていた。


「やめてください……」


 花蓮は必死に焔を止めようとしたが、彼の怒りはあまりに深かった。


 愛する人を傷つけられた神の怒りは、制御できないほど激しいものだった。


 祠に戻ると、焔は丁寧に花蓮の傷を手当てした。神の力で傷は癒えたが、心の傷は簡単には治らない。


「花蓮」


「はい」


「もう二度と、一人で町には行くな」


 焔の声は静かだったが、そこには強い意志が込められていた。


「でも……」


「あの人間どもは、貴様を害する気でいる。もう油断はできない」


 焔の言葉は正しかった。人々の怒りは深く、花蓮への敵意は消えないだろう。


「私のせいで……みんなが苦しんでいるのでしょうか」


 花蓮の問いに、焔は首を振った。


「貴様のせいではない。旧き神々が悪いのだ」


「でも、封印を解いたのは私です」


「それは父上を救うためだった。間違ったことではない」


 焔は花蓮を抱きしめた。


「たとえ全世界が貴様を敵に回そうとも、我は貴様の味方だ」


「焔様……」


「我にとって一番大切なのは貴様だ。他の人間のことなど、どうでもよい」


 焔の言葉は力強かった。しかし、花蓮の心は複雑だった。


「でも……子供たちのことを思うと……」


「子供たちは我が守る」焔が言った。


「旧き神々を倒せば、すべて解決する」


「本当でしょうか?」


「ああ。必ず解決してみせる」


 焔の決意は固かった。愛する人を守るためなら、どんな敵とでも戦う覚悟ができていた。


「でも、それまでは危険だ」焔が続ける。


「貴様は我のそばを離れるな」


「はい」


 花蓮は頷いたが、心の奥では別のことを考えていた。


 人々を救うために、自分にできることはないだろうか。たとえ自分が犠牲になっても、子供たちを救えるなら……。


 そんな思いが、花蓮の心に芽生え始めていた。


 夜が更け、祠は静寂に包まれた。しかし、その静寂は嵐の前の静けさのようだった。


 旧き神々の脅威は確実に迫っており、人々の怒りも収まることはない。


 愛し合う二人の前に、最大の試練が立ちはだかろうとしていた。


 月が雲に隠れ、闇が祠を包んでいる。その闇の中で、花蓮は静かに決意を固めていた。


 焔を愛している。だからこそ、彼を困らせるような存在にはなりたくない。


 そして何より、罪のない子供たちを救いたい。


 たとえそれが、どんな犠牲を伴うとしても……。

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