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転生したら猫でした

作者: ミミササ


 これはわたしが猫に転生した時の話だ。


 ――転生したら猫でした――。


 当時のわたしは人間で生きることに苦しみを感じていた。そんな時だった、一台の車が信号待ちしているわたしに向かって突っ込んできた。わたしはそのまま亡くなってしまった。


 次に目が覚めたのは薄汚いゴミ箱の中だった。匂いがきつく目が自然に瞑る程、悪臭の放つ真っ暗なゴミの山から頑張って頑張って這い出すと金属状の薄い何かに手が触れた、蓋だ。

 押して押して、どれだけの力を入れても蓋は外れない。かき乱される悪臭とびくともしない状況に段々と腹が立ってくる。しばらくたっても変化の無い状況にやがて暴れ始めたわたしは全身を駄々をこねる子供の如く動かすとゴトンッ!と何かが倒れる音とともに景色が変わる、蓋が外れたのだ。


 外へ出て振り返る、黒い袋に敷き詰められたゴミ袋と共にゴミ箱が転がっていた。

 そこでわたしはここがゴミ捨て場なのだと言うことに気が付いた。同時に自分がゴミ箱の中で暴れていたと言う事実に疑問を覚える。

 確か、わたしは車に轢かれて亡くなったはずだ。その後のことは覚えていないが気が付いたらここに居た。

 これは所謂転生と言うやつなのだろうか、だとしたら何故ゴミ箱の中にいたのか何故ゴミ箱の蓋を外せない程力が弱いのか、わたしは多くの疑問を感じつつその場を離れようとした。


「…………」


 目が留まった。地面には大きな水たまりができていた。そこには小さな黒い影の様な物が写り込んでいた。よく見るとそれは猫だった。


「ミャ、ミャー!?!?」


 思わず驚きの声を上げる。それは紛れもないわたしの姿だった。生まれて初めて見るわたしの姿は全身が黒く黄色の瞳を持つ黒猫だった。


「ミャー!ミャー!ミャー!ミャー!ミャー!」


 これが転生であると言う事を即座に理解したわたしはすぐに助けを求めた。例え転生したとしても人間以外になるのは嫌だ。ましてや転生場所がゴミ捨て場なんてのは生涯の終わりを約束されているようなものだ。

 だけれど、いくら助けを呼んでも誰も来ない。それもそうだ、猫が鳴いていたって声量は人間より弱い、聞こえなければ誰もわからない。それでも泣き続けるが人どころか同族一匹だって来ない。


「ミャー……ミャー……ミャー……」


 わたしは理解した。ここは底辺なのだと、人間の人生に例えるのなら人生のどん底を味わった奴らが集まるゴミの掃きだめなのだと、絶望した。

 ただでさえ猫と言うハンデを負いながら転生得点の様なチート能力すら持っていない、生きる術がないのだ。


「ミャー……」


 俯く。水溜りには今にも泣きそうな黒猫が悲しそうに写り込んでいた。

 なにも無い、何もできない。わたしは己の前世を後悔した。生きるのが苦しくても人間だったわたしには生きれるだけの力があった、だが猫に転生した今のわたしには生きれるだけの術も知識も経験も無い。


「…………」


 なにもできない無力なわたしはその場を離れた。鳴いていたって誰も来ない、行く当てもないわたしはとぼとぼと歩く。

 絶望を知り、人生のどん底を味わったわたしには生きる希望なんてない。それでも死にたいなんて思わなかった。人間であった前世から転生した今の人生が最悪であるのなら、次の人生はもっと最悪なのだろう。だからわたしは生きるしかない、底辺にいようが生きるしかないのだ。


「……………………ミャ?」


 しばらく歩くと一筋の光が見えた。わたしはその光が気になり光のさす方へと歩き出す。

 空高く昇る太陽から差し込む光は眩しく熱かった。


「ミャー…………!?」


 日差しに目が慣れ、目の前にある光景が鮮明に映し出された。

 そこは街だった。多種多様な種族の生物が発展した工業化した街を練り歩き、色とりどりの服装に机の上には豪華な食事が並べられていた。前世に居た時とは違う異世界の街だ。

 感動した。ゴミ捨て場から始まったわたしの人生がちっぽけに見えるほど広く大きなその街には色々なものがあった。わたしの人生は終わってなんかいない、終わっていないんだ。

 きっと小説や歌を書く人はこういった感動をみんなに知ってほしかったのだろう。


 こうして私の人生、もとい猫生が始まった。

 街の中で3年すごしたわたしは街を出て旅に出た、荒れ狂う山道や広大な大地に広がる一面の花、地平線にまで広がる大きな海、時には命の危険があったけど危ない友達や優しい友達、険しい道だったけど色んな人と出会って来たこの旅はわたしにとってはかけがえのない思い出となった。

 そんなわたしにも運命の出会いが起こった。

 ある一人の人間と出会ったのだ、その人間は怪我をしたわたしを病院にまで連れて行き、飼い猫として家に連れて行ってくれた。長旅に疲れ、家も金も無かったわたしは甘んじてその人間の家に住み着いた。

 その人間は探偵をしていたそうで、長年の経験を持ち合わせたわたしもたびたびに推理に協力していた。

 そんね猫生を送ってもう十数年、わたしも年になった。

 昔の様にどこへでも行けるほどの体力も無ければ足も動かしにくい、今は主である人間の膝の上でおぼろげな意識の中、目をつむりかけている。


「クロ……今までありがとうな……」


 なにか言っているが……撫でるこの手は気持ちがいい。まあ、この猫生も悪くはなかったかな。


――転生したら猫でした――。


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