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夜の電話

作者: 十司新奈

よくあるセリフで申し訳ないんですが、全部本当にあった話です。細部は省略してるとこもありますけど…

これは、僕が大学の研究室に居た時のお話。



僕が在籍していたのは化学系の研究室で、

その手の例に漏れず、深夜まで実験をしていた。

その日はもう11時近くになっていたので、

ウチの学生や教授は勿論周りの研究室も帰った後で、

実験をしているのは僕と、直属の先輩の二人だけだった。



普段のように、先輩と研究の雑談をしながら

日中にかけた化学反応の後処理をしていた時のこと。

もう使わない実験器具の電源を落とした後で、

話し声以外の音が無かった研究室に置かれた電話が、

唐突に鳴り出した。



Prrrrr…Prrrrr…



正直に言って、こんな時間に掛かってくる電話の主が

まともであろう訳もない。僕はそう思った。



「えっ…?……出た方がいいかな?」と先輩。



「こんな時間に掛けてくる奴なんて、どうせ悪戯ですよ、別にいいんじゃないですか?」



「うーん…教授が研究室に忘れ物して掛けてるのかも知れないし、一応出るよ」



まぁ、アイツならやりかねないか…と思いながら

僕は未だ鳴る電話を取った先輩の様子を見ていた。



受話器を取った先輩は、相槌も打たずに直ぐに戻した。



「無言電話だったよ」



「ウチの教授は嫌われてますし悪戯でしょうかね」



「それにしても低レベルだけどね」



「本当に…そもそもこんな時間に掛けてきて、教授がもう帰ってることぐらい想像つくだろうに…」



そこまで言って僕は突然、ある可能性に気付いた。



「誰かいることを期待して」電話を掛けたのではなく、

「誰もいないことを期待して」電話を掛けたのではないか?



誰も居ない可能性の高い深夜に電話を掛けて、

全員帰ったのを確認して研究室に来るつもりだったのでは?



僕は、鍵の掛かっていない毒物・劇物・PRTR指定試薬の保管庫を見た。



「先輩、もしかしてですけど…」



僕はその想像を先輩に話した。

そして、二人で早く戸締まりをして帰ることにした。



幸い、学部棟の入り口まで怪しい人間に出会うことはなかった。

家に帰った後で、僕は思った。



もし、先輩が帰った後で僕が一人で実験をしていて、

「どうせ悪戯だ」と電話に出なかったなら、

一体僕はどうなっていたのだろう?




………


結局、あの電話が一体何の目的で掛かってきたのかは今も分からない。

しかし、大学の研究室で青酸カリが一本行方不明、といったニュースを見る度に、この時のことを思い出す。


僕が遭遇したのはこの一回切りで、それ以降は深夜の研究室に電話が掛かってきたことは無いです。

単に想像力の無い人が、深夜に誰かいるかもと思って電話掛けてきただけなら平和でいいんですけどね。

深夜の電話はきちんと出て、鍵はしっかり掛けましょうという話です。

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― 新着の感想 ―
泥棒狙いの人間が留守の時間を調べるため電話をかけるというのは実際あるようですね。 研究室はよそでは手に入らない品も多いでしょうし、何事もなかったようで何よりです。
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