第6話 親バカ魔王 秘書になる
ようやく魔王城にたどり着いた。
「よし、じゃあ挨拶がてら新しい魔王に会いに行こうか」
(とうとう……久しぶりに愛しい娘に会える!最後に会ったのは、あの勇者との戦いの前だから、実に74時間32分58秒ぶりだ! いや、現実ではそれから3ヶ月経っているのだから、これはあくまで私の主観でしかないのだが……)
昂ぶる気持ちを抑えきれずに歩き出そうとすると、ナリッサがぽつりと言った。
「ああ、娘ちゃんなら今、城にはいないよ」
「……なんだと?」
思わず足を止め、声を低くする。
「復興支援の視察で外出中。言ってなかったっけ?」
(いや、聞いてない!それならわざわざここまで来る必要もなかったではないか!)
そう思ったが、さすがに四天王の前で声を荒らげるわけにはいかない。
「そうか……それなら先に、四天王の部下としての立場を確立しておこう」
「じゃ、まずは秘書として私の執務室に行くか」
本当はすぐにでも会いに行きたい。だが、部下の手前そんなわがままを言い出せるわけもない。私は仕方なくナリッサについていくことにした。
城門の方へ向かうと門番がナリッサに敬礼する。彼女は軽く手を挙げて答礼し、そのまま重厚な門をくぐった。
赤いカーペットが敷かれ黒を基調とした廊下を歩きとある部屋の扉の前で立ち止まる。
「ほら、着いたぞ」
ナリッサが扉を開ける。
執務室は広いが、豪奢というより機能美が際立つ。無駄のない配置に、まさに「仕事部屋」という印象を受けた。
(おそらくナリッサ自身、部屋にいるより戦場や視察で外に出ていることのほうが多いのだろう)
「ナリッサ様、こちらが新しく雇われた魔族でしょうか?」
声の主は、整然と並べられた書類の山を処理している女性――アレヴ、ナリッサの秘書だ。
「ああ、そうだ。こいつ、頭は切れるから、しっかりしごいてやってくれ」
調子のいいことを言いやがって……
「四天王であるナリッサ様のご期待に恥じぬよう、全力で努力いたします」
「ではまずは簡単な事務作業から覚えてもらいましょう」
アレヴは微笑みながら手際よく資料をまとめた。
(事務作業か……まさか元魔王の仕事がこれとはな)
私は内心苦笑しつつ、与えられた役割を受け入れることにした。