第3話 親バカ魔王 森を往く
飛行の魔法を使い、魔族領の上空を滑るように飛ぶ。
転移魔法が使えない以上、これが最も効率のいい移動手段だろう。
「うっ……」
突如、鋭い頭痛とめまいが襲う。反射的に高度を下げ、木々の枝葉を避けつつ急いで地上へと降り立った。
(……魔力切れ、か)
まさか、とは思っていたが、どうやら転生後の魔力量は以前に比べて格段に減っているようだ。
これでは今後、無闇に魔法を使うわけにはいかなくなる。
「仕方ないな……歩くか」
そう呟きながら歩き出す。
ここは魔樹が生い茂る森、通称「魂の森――ルフラル・オルマヌ」。
魔樹とは、その木自体が魔力を帯びた特殊な存在を指す。そして、ここで育つ植物や動物も当然その影響を受ける。つまり――
「やはり出てくるか」
通常よりひと回り、いや二回りは大きな猪。
「魔猪」。
魔力の影響をその巨体に顕著に受けた、極めて分かりやすい例だ。
(さて、どう相手をするべきか)
いつもなら手こずる相手ではない。だが、今の自分の状態では慎重にならざるを得ない。
戦うにしても、逃げるにしても策を練らなければならない。
「グォッ……」
短く唸ったかと思うと、地面を力強く掻く音が響いた。
そして――
「ブゴォォォォ!」
魔猪が突進してくる。
(この身体能力じゃ、回避は無理かもしれない……魔法も使えないし……)
さてどうしたものかと思考の中、ふと見知った魔力の気配が漂ってきた。
「……ん?」
それを感じ取った瞬間、私は即座に後方へ大きく飛び退いた。
「炎弾!」
目の前が豪炎に包まれる。まさに地を焼き尽くすかのような灼熱。
「よぉ、ガキんちょ。大丈夫か?」
豪炎の向こうから、聞き覚えのある、やや軽薄な声が響いた。