第20話 親バカ魔王 決死
「ヴゥゥゥォォォ……ッ、グルルルルル……!」
「援護感謝する。しかし貴殿は」
親衛隊の騎士隊長と思しき鎧をまとった騎士が声をかけてくる。
「細かいことは後です。もうすぐで四天王のナリッサ様が援軍で来ます。それまで何としても魔王様を守り抜くんです。」
騎士の方を振り向き口では答えつつ、目線は娘を探す。
(……いた!)
隊列の後方、護衛の騎士に囲まれた娘・ミランの姿を見つける。見た限りでは負傷はなさそうだ。胸の奥に熱い安堵が広がる。
(もし無事でなければ――例えあの狼に食われても腹の中から引き裂いてやる……!)
娘の無事を確かめ、再び眼前の巨獣に視線を戻す。
通常種のクルトカランより四、五倍は大きい巨狼――毛皮の隙間から覗く鱗が光を反射し、全身がまるで鎧のように硬そうだ。
「それで取り敢えずどうしますか」
「正直なところ情けない話ではありますが、ナリッサ様が到着するまで持つかどうか分かりません。敵を引き付け、その間に魔王様以下数名を逃がすのが最適だと思うが……」
「恐らくやめた方がいい。先程翼竜を見かけた。既にこの土地は異変の只中にある。下手に戦力を分散すれば潰走する。」
ここで抑えられなければ、逃したところで追いつかれてしまうだろう。
「私は機動力がありますので、向こうの死角から攻撃します。それでどうにか時間を稼ぎます。ですが先程のこともあります、防御は万全に」
「……分かりました。防御陣形!」
娘の周囲で控えていた騎士数名が盾を構えながら前進する。
――術式展開、脚力強化、腕力強化。
騎士たちが次々と自身にバフをかけ、迎撃に備える。
巨大な狼が地を蹴り、咆哮と共に突進した瞬間、鋭い爪が盾列を薙ぎ払わんと迫る。火花が散り、衝撃が走る。その隙を縫い、俺は槍を構え死角から回り込むように一気に地を蹴った。
刃先が獣の眼を狙い、矢のように突き込まれる。
「オオオオッ!」
しかし、分厚い毛並みが刃を受け止め、手応えは皮膚を裂いた程度。血がにじむが、巨体はほとんど怯まない。
すぐさま槍を引き抜き、体勢を変えて再突撃。今度は首筋へ、鋭い突きを叩き込む。刃先が肉を抉りかけたが、獣が身をひねり尾を振るう。槍の柄ごと弾き飛ばされ、間一髪で受け流すも、衝撃が腕を痺れさせた。
「……まだだッ!」
三度目の突撃。今度こそ目に狙いをつけ突進する。
「グルゥゥアアアアアッ!!」
突然の咆哮と共に、巨爪が薙ぎ払われる。
避ける間もなく槍を盾代わりに構えるが――。
「ッぐぅ!」
衝撃が槍を通じて全身に叩きつけられ、骨ごと軋む音が響く。次の瞬間、身体は宙を舞い、空気が肺から押し出される。
「かはっ!」
地面に叩きつけられ、土煙の中で転がる。
視界は揺れ、槍は手から離れていた。
全身が痺れるようで骨が折れているかどうかも分からない。視界も揺らぎ思考も鈍ってきた。
(……まぁ、上出来じゃないか。身を呈して娘を守れたのなら)
だが薄れゆく意識の中、炎と轟音が頭上を駆け抜けた。
「火竜拳ッ!」
炎を纏った紅の拳が龍のごとき軌跡を描き、巨獣の頭部を撃ち抜く。
「術式展開・炎弾三連鎖!」
続く炎弾が爆ぜ、巨体を焼き裂く光景が視界の端に映る。
朦朧とした意識の中、かすかな声が聞こえた。
「上出来だ、こっから先は私の仕事だ……」
そこで、完全に闇が訪れた。




