第19話 親バカ魔王 慢心
特殊個体――ユニークモンスターは、一匹だけではなかった。
思い返せば当然だ。最近になって被害が出始めたばかりなのに、すでに十数箇所もの村が襲撃されている。
魔物も生き物である以上、移動はする。だが被害の広がり方が早すぎる。
つまり――群れの規模が異常に大きいのではなく、群れそのものが複数存在していたのだ。
「ナリッサ!」
名を叫び、振り返る。
そこには、龍のごとき覇気を纏い、鬼神の形相を浮かべたナリッサの姿があった。
「お前ら! さっさと片付けて援護に向かうぞ!」
部下たちに怒号を飛ばしながら装備を整え、こちらへと向き直る。
「私とお前で先行する。飛べるな?」
声は落ち着いている。だが、その奥に焦りが潜んでいた。護衛の面々は腕利きばかりだが――今まさに、我らが王が危機に瀕しているのだ。
「ああ、もちろんだ。行くぞ」
二つ返事で詠唱に入る。
「――術式展開、《飛行》!」
魔法を唱え、同時に上昇。森を抜け、目的地である平原へと飛ぶ。
(犬畜生ども……誰の娘に手を出したか、思い知らせてやる)
心の中で吐き捨てる。だが隣でとんでもない殺気を放つナリッサに圧倒され、とても口には出せなかった。
「……?!」
一瞬、影が差す。
空を飛んでいるにもかかわらず、だ。つまり――
「上だ!」
「くそっ!」
上空から数匹の翼竜が急降下してきた。
「なんでこんな所に翼竜が……さっきまでいなかっただろ!」
――翼竜。
巨大なトカゲに翼を生やしたような魔物で、通常は山脈や渓谷に生息する。つまりここにいること自体が異常だった。
「《炎弾》!」
ナリッサの魔法が一体を直撃。思わぬ反撃に翼竜たちは一瞬怯み、隊列を乱す。
「先に行け! こいつらはすぐに片付けて、私も向かう!」
突然の奇襲にもかかわらず即座に応戦しながら、ナリッサが叫ぶ。
「いや、ここは俺が抑える。お前が向かった方が確実だ!」
突進してきた翼竜を槍で受け流しながら答える。
本当は、自分で直接娘のもとへ駆けつけたい。だが、今の自分では足手まといになる可能性が高い。倒すにせよ救出するにせよ――ナリッサの方が確実だ。
「馬鹿言え! 今のお前じゃこの数は捌ききれない。それに、片付いたらすぐに向かう!」
彼女は振り返らず、鋭い魔力弾を放ちながら言い放つ。
周囲を見れば、十数匹の翼竜がすでに二人を取り囲んでいた。
「それにさっきも、一人で一体を倒しただろ。なら――さっさと行け!」
「だが……」
「自分の手で守りたいんだろ! 行け!」
「……!」
どうしてこういう時ばかり、心を読まれたかのように察しがいいのか。
ナリッサの反撃で乱れた隙間を縫い、その場を離脱する。
「それじゃあ、ここは任せたぞ!」
彼女は拳を掲げて応える。
次々に響く詠唱を背に受け、私は視察団のもとへ急いだ。
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それが耳に届いたのは、ユニークモンスターらしき巨影を朧げに視認した直後だった。
「ヴァゥゥゥゥゥォォォオオオオオッ!!」
「?!」
一声聞けばわかる。先程の相手とは比べものにならない。
近づくにつれ、その事実がさらに重くのしかかってくる。
「デカいな……」
先程倒したユニークモンスターより一回りは大きい。しかも、その巨躯を相手に、視察団の魔族十数名が必死に応戦していた。
「グゥゥゥゥ……ゴゴゴゴ……ッ!」
まずい。あれは――ブレスの予兆。しかも、規模は桁違いだ。
「ふぅ……」
槍を構え、意識を一点に集中させる。付与された風属性を意識し、投擲。
「ヒュッ!」
矢のように飛ぶ槍は、その巨体の眼を正確に狙う。
「ガウァァァッ!」
だが、信じられない反応速度で爪が槍を弾き飛ばした。
「くそっ……!」
それでも目的は果たした。ブレスの動作は中断された。
弾かれて戻ってきた槍を回収し、視察団から注意を逸らすべく立ち回る。
「グゥオォォォンッ!」
今度は突進――!
「しつこい奴だな!」
必死に槍を構え迎撃の体勢に入る。
だが、巨体が唐突に足を止め、こちらを振り返る。
「ガァッハァァァッ!」
鋭い爪が閃き、迫る。
「まじか!」
この槍では受けられない。身体を捩り、どうにか飛行の軌道を逸らして回避する。
「ゴォッ!」
「くっ……!」
だが風圧までは避けられず、空中で姿勢を崩し吹き飛ばされる。胸を殴られたような衝撃が走り、視界が跳ね、背中が地面を擦った。
「ぐっ……」
どうにか勢いを殺して立ち上がる。
「はぁ……はぁ……」
肋骨に響く鈍痛。呼吸が詰まり、勝手に息が漏れる。
運がいいのか悪いのか――ユニークと視察団の間に割って入る形になった。つまり、背後には娘がいる。
戦う前からすでに満身創痍。それでも――
「あんだけ元部下が期待してくれてるんだ。なら、応えてやらねぇとな!」




