第18話 親バカ魔王 撃破
数匹いるクルトカランのうち、1匹が地を蹴って突進してきた。
風属性を帯びたショートスピアを構え、あえて迎え撃たず、じっとその動きを見極める。
クルトカランは鋭く光る牙を剥き出しにし、「ギャアァゥッ!!」と咆哮を上げながら跳びかかってきた。まるでこちらの頭を噛み千切らんとするように。
(今だ……)
飛びかかるクルトカランの大きく開いた口を狙い、すかさず槍を突き出す。空中にいる以上、奴はもう身動きが取れない。そのまま勢いごと槍の穂先に突っ込み、脳天を貫かれた。
この非力な身体では真正面からぶつかれば勝ち目はない。ならば、奴の突進力を利用するまでだ。
槍を抜きながら身を翻し、後方へ着地する。
ドサッ、ズサァ――
突き刺されたクルトカランの死骸が地面を滑って転がった。
「グルゥル……」
残った個体たちは警戒の色を強め、低く唸り声を上げている。さすがに、先ほどのように無謀に突っ込んでくることはなさそうだ。
「さて、どうしたものか」
そう呟いた瞬間――
「グルルルル……ヴァアォォーーッ!!」
背後から、ひときわ巨大な個体――ユニークが咆哮を上げた。空気が震え、耳鳴りがするほどの重低音が森全体に響き渡る。
「……ぐっ!」
その威圧感は尋常ではない。まるで体全体が痺れたかのように、動きが鈍くなる。
「キャンッ!」
すると突然、周囲のクルトカランが吹き飛ばされた。
「くっ……!」
身体を無理やり動かし、跳ねるようにその場を離れる。直後、立っていた場所が抉られるように破壊された。
「……ブレスか」
魔物の中には人間や魔族のように、魔法に似た特殊な攻撃を行う個体が存在する。口から発するそれは『ブレス』と呼ばれ、威力・範囲ともに侮れない。今のは咆哮に風属性の魔力を乗せたものだろう。
「前に戦った時はそよ風程度にしか感じなかったんだけどな……」
今の身体で直撃すれば、ひとたまりもない。しかも奴のブレスは風属性ゆえ、目視が困難。
だから――
「術式展開、《脚力強化》」
とにかく、動き続けるしかない。
ユニークのような大型個体になると、俊敏性に乏しくなる。つまり、奴の強みはその巨体では活かしきれないはずだ。
「グルルッ……ガウッガウッ!!」
目の前でちょこまかと動き回る標的に苛立ったのか、鋭い爪で必死に振り払おうとするが、この深い森ではその巨体はむしろ邪魔になっているようだ。
「……出来れば一撃で仕留めたい」
手負いの獣ほど危険なものはない。冷静さを失い、命の尽きるまで暴れ狂う。そうなれば周囲の被害は計り知れない。
「となれば……狙うは口か、あるいは……」
おそらく、どの種族にも共通する弱点――
「目だ」
その時、ユニークが一瞬動きを止め、再び咆哮を上げる。
「今だ!」
強化した脚力を使い跳び上がる。ブレスを吐く直前、狙いを定めるため頭の動きが止まる――そこが狙い目だ。
「ヴァアアアアオオオーーッ!!」
耳を裂くような咆哮と共に放たれたブレスが、森の地形を抉るほどの威力を見せる――だが、その頭部へと向かって、俺は真っ直ぐに槍を振り下ろした。
「……俺の勝ちだ」
槍の穂先が眼球を貫き、そのまま脳へと達する。
「ガウッ!アォーーーンッ!!」
ユニークは痛みにのたうち回り、巨体を揺らして暴れ狂う。
一撃では仕留めきれない。だが、それも想定のうちだ。
「術式展開、《雷電》!」
槍から雷撃が走り、眼窩から脳天を焼き尽くす。
「ガアァッ……グォッ……ッ!」
断末魔のような咆哮を最後に、ユニークはぐらりと身体を傾け――
ドシンッ!!
その巨体を地に沈めた。
「ユニークが倒されたぞ!」
「やったぞ!」
「すげぇ、小さいのにあいつ何者だよ!?」
「知らねぇのか、ナリッサ様の新しい側近だってよ」
「……マジか、聞こえてたら首飛ぶぞ」
兵士たちは歓声を上げながら、戦いの終わりを喜んでいた。その中心にいる俺を指差しながら、驚きと称賛が入り混じった声が飛び交っている。
「よう、お疲れさん」
戦況を見守っていたナリッサが、のんびりと歩み寄ってくる。
「最初から倒せると思っていたんですか?」
この小さな身体になって初めて出会ったあの時、俺が魔物に手も足も出なかったのを見ていたはずだ。
「んー? ま、これぐらいやってもらわないと、四天王の秘書として威厳が立たないからねー♪」
……たぶん、半分も考えてなかっただろうな、この人。
「では、名付けの儀式といこうか」
ユニークを倒した功労者が、その個体に名前を与える――それが名付けの儀式。ある種の勲章のようなものである。
「……そういえば、そんなのあったな」
ネーミングセンスなんて持ち合わせていないが、とりあえず無難な名前を考え――
「報告します! 迂回経路上に新たな群れを確認! 視察団がクルトカランの群れと交戦中です! 規模も大きく、ユニークがリーダーの可能性あり!」
「……マジか」




