第2話 親バカ魔王 目覚める
木々の木漏れ日が差し込む中、私は目を覚ました。
ここは……魔王城ではないな。どうやら屋外のようだ。
術式発動、【鏡の盾】
術式を使い、自分の姿を確認する。
…良かったスライムではないな。
私の姿は人間族――年齢にして10歳前後の少年、といったところか。体格は小柄である。どうりで着ていた衣服もぶかぶかのはずだ。
「……よし」
身につけていたマントをローブのように纏い、軽く周囲を見回す。森と小さな村があるが魔王城は見当たらない。ならば魔法で魔王城まで行くか。
術式発動、「転移」
「ん……?」
術式が発動しない。
これも転生の影響か。他にもいくつか魔法が使えなくなっている気配がある。一時的なものなのか、それとも永続的なものなのか、確認しておかねばならないな。
ここが魔族領か人間の支配領域か分からないがとりあえず近くに村がある。まずはそこへ向かうか――。
―――――――――――――――――――――
「お前、人間か?」
いきなり声をかけられた。振り返ると、そこには一体のオークが立っている。
なるほど、つまりここは魔族領か。
だとすれば、人間がいるのは不自然だ。さて、どうごまかしたものか……。
「いや、お前から魔力を感じるな。さては半魔か?」
――なるほど、その手があったか。
確かにただの人間なら魔力は感じられないだろうからな。
「捨て子か孤児かは知らんが、憐れなもんだな。こんな辺境の村まで辿り着くとは」
「辺境の村、ですか……。ここはどこなのでしょう?」
「ここか? ここは魔王領の四天王の支配下にある辺境の村・ソンバハルだ」
そうか……随分と遠くへ飛ばされたものだ。転生術というのは、これほどまでに転生地点が不安定なものだったのか。にしても…
(辺境の村だ、じゃねーよ!!
娘に会うために転生したってのに、こんな辺境に飛ばされたら意味がないじゃないか!おい、どうするんだこの間に何かあったら!?)
「教えてくれてありがとうございます」
(……とりあえず急いで魔王城に向かわなくては)
「おいおい、この後どこへ行くつもりだ?」
再び歩き出そうとしたところで、また声をかけられた。
「今外をうろつくのは危険だ。この村にしばらく留まっておけ」
「どうしてです?」
「魔王城で大きな戦いがあったらしい。その事後処理やら何やらで、この辺りを守っていた四天王も城に戻ってしまったそうだ。ここら辺は魔獣も出るし。悪いことは言わん、大人しくしておけ」
―― なるほど、今の口ぶりだと四天王は無事のようだな。私は魔王とはいえ、善意で忠告してくれる相手を無下に扱うつもりはない。まずはこの村で情報収集を――
(んなわけないだろ!速攻で魔王城に向かうに決まってる!!
この間に娘に何かあったらどうするんだよ!)
「分かりました、ご忠告ありがとうございます。」
そう言って村の門をくぐるふりをして、人気のない場所に移動する。
術式発動、「飛行」
足元から突風が吹き上がり、一気に空へと舞い上がる。よし、飛行魔法は使える。
(ここの場所さえ分かればあとはこのまま魔王城へ一直線だ!待っていろ、我が愛娘よ!!)