第16.5話 閑話 珍妙な武器達
話は少し遡り、私が宝物庫で装備を選んでいたときのことだ。
この宝物庫には、世界にひとつしか存在しない――もしくは、それに近い――希少な武器や防具、装飾品などが保管されている。だがその中には、なぜそんなものを作ったのか職人を問い詰めたくなるような、奇抜すぎる“珍品”もちらほら混ざっている。
今回は、そんな実戦向きとは言いがたい武具たちの一部を紹介しよう。
「一度は目を通しているはずなんだが、やっぱり記憶にないものも多いな…」
そう呟きながら私は、自分の体格に見合った装備を探して宝物庫の棚を巡っていた。すると、柄だけの剣のようなものが棚に立てかけられているのが目に入った。
「それか。使用者が魔力を込めると、属性ごとの刃を形成するタイプの武器だな」
いつの間にか背後に来ていたナリッサが、興味なさげにそう言いながら柄を手に取る。すると、柄の先から炎が伸び出し、刃の形をかたどった。
「おお、これは便利だな。使用時以外はかさばらないし、軽い。魔力さえあれば……」
と、感心していたところにナリッサの声がかぶさる。
「あー、見た目はな。確かに格好はいい。でもな…」
そう言うなり、彼女は炎の刃で自分の腕を切ろうとした。が、まったく傷ひとつつかない。
「実体がないんだよ。属性によってできた刃ってのは、言ってしまえば自然現象そのまま。攻撃魔法のような強制力も指向性もない。ロウソクの火で切りつけるようなもんだと思えばわかりやすい」
「なるほどな……じゃあ岩属性とか、物理寄りのやつなら使えるんじゃないか?」
「石の塊と、よく鍛えられた鋼の刃。どっちが戦場で強いと思う?」
「……結局、ただの鈍器ってわけか」
肩を落としつつ、別の棚に目を移すと、真っ赤に塗られた棍がひときわ目を引いた。
「あぁ、それか。これは面白いぞ。魔力を込めると棒の長さが伸びるんだ」
ナリッサが私の視線に気づき、そう言って棍を手に取った。彼女の身長の半分ほどしかなかったそれは、彼女の魔力が注がれると瞬く間に倍近い長さに伸びた。
「戦闘中にリーチを自在に変えられるのは、近接武器としては魅力的だな…」
またもや感心しかけたその時、ナリッサが口を開いた。
「まあ、そこまで自由自在ってわけでもないけどな」
棍を軽く振り回しながら続ける。
「伸縮の幅は魔力の量に比例してるんだが……これがまた魔力をバカ食いする。普通の兵士が使おうもんなら、戦う前に魔力が尽きるぞ」
そう言いながら壁に棍を立てかけると、棍はじわじわと元の長さに縮んでいった。
「戻るには魔力を放出しなきゃいけないんだが、この発散速度がまた絶妙に不安定でな。一瞬で戻るわけでもなけりゃ、完全に伸びきったままってわけでもない。中途半端に縮んでいくから、実戦じゃ調整が地獄だ。そんな細かい操作をしてる暇があるなら、最初から普通の槍でも使った方がマシってな」
「……そいつは残念だ」
本当に、心底残念だ。この小さな身体にとって、リーチの変化は大きな戦力になり得ただけに。
ナリッサと共に宝物庫の奥へ進むと、異様に輝く一体の人型が視界に入った。
「なんだこの鎧……やけに主張が激しいな」
銀に金、そして宝石のような飾りが全身にあしらわれた全身甲冑。肩当ては空気力学を無視した大ぶりな羽飾り付き、胸にはどこかの貴族の紋章のようなデザインが彫り込まれている。目を引くどころか、目を刺してくるレベルで派手だった。
ナリッサが苦笑しながら紹介する。
「それな、《栄光の煌鎧》って名前がついてる。現場の兵士たちからは“的”って呼ばれてるな」
「的……?」
「派手すぎて、まず森では100%バレる。夜間行動は自殺行為だな。しかも装飾のせいで重量がとんでもなくて、動くたびにジャラジャラ音が鳴るんだ。おまけに関節の可動域も狭いし、熱がこもって夏場は即熱中症だ」
「もはや鎧というより罰ゲームだな」
ナリッサは苦笑しつつ、鎧の胸元を指で軽く叩いた。金属音が、無駄に響く。
「ちなみに素材は高純度の魔導金属で、物理防御力だけはトップクラスなんだ。ただ、あまりに硬すぎて着たまま自分では脱げない。だから着脱用の補助要員が必要になる」
「なんだそれ。どうやって戦えって言うんだ……」
「着て突っ立ってる分には最強かもな。ただし、動くなって感じだ」
私は思わずため息をついた。こんな鎧を作ろうとした職人の顔が見てみたい。
このような“惜しい”武具の数々は、いわば職人たちの実験作・試作品だ。未完成ゆえに実用性は低いが、それでもこの宝物庫に収められているのは、そうした試作の果てにこそ《最強》や《伝説》と呼ばれる武器が生まれるからに他ならない。
つまりこの宝物庫、確かに貴重ではある。が、実は保管されている武具の半分近くは、戦場ではまったく役に立たない代物なのだ。




