第16話 親バカ進軍する
馬を駆り、北西の森を目指す。
目的地までは近くの街道を通るため、比較的安全かつ短時間での移動が可能だ。
それにしても、被害が出ているとはいえ、魔物討伐にしては随分と用意周到だ。自分で娘が心配だと言った手前、こうして討伐に同行しているわけだが……。
移動には馬を使い、しかも本隊の出発前から斥候を何度も送り出している。
また先程視察団に伝令を送っていた。
内容は
『四天王の名に恥じぬよう、全力を尽くして討伐にあたる所存。しかしながら、万が一、最悪の不測の事態が起こった場合に備えただちにこの森を迂回されたし』
「問題ない」とはナリッサは口にしたが、実際は“万が一”をしっかり想定しているのだろう。魔王の側近、四天王として何かあれば面目が立たなくなるからだろう。
そんなことを考えているうちに、半刻ほどが過ぎた頃、早朝に出立し本隊より先行していた斥候が戻ってきた。
「報告いたします。北西の森にて、魔物“闇狼クルトカラン”を約三十頭確認。ユニークモンスターやその他の魔物は確認できませんでした」
“闇狼・クルトカラン”――。
漆黒の毛並みを持つ中型の魔獣で、狼に酷似した姿をしている。名の通り“闇”に紛れることを得意とし、薄暗い森や湿地などの入り組んだ地形に潜む。毛の色と生息域ゆえに視認が難しく、奇襲を受けやすい厄介な相手だ。
ナリッサの隣で馬を走らせている斥候の報告を聞きつつ思う。
「……やはり数が多いな」
通常、クルトカランの群れは十頭前後。しかし今回はその三倍。短期間で複数の村が襲われたという情報からして、何かあるとは思っていたが……案の定、群れの異常発生か。
群れが大きければ、その分被害も拡大する。今回、兵を多めに連れてきて正解だった。
斥候が報告を終え、馬を返して隊列に戻るのを見届けたところで、ナリッサに声をかける。
「魔物の数は想定以上のようだが、どう動く?」
「数ではこっちが有利だ。なら、シンプルにいこう。二手に分かれて挟み撃ち。森での乱戦はできるだけ避けたいしな」
確かに、長引く戦いになれば地の利がある魔物が優位になる。森の中での混戦は避け、短期決戦を狙うべきだ。
話が済むとナリッサは大声で指示を出す。
「これより部隊を二分する。各兵種、戦力が偏らないように均等に分けろ!」
ナリッサの号令で部隊が二手に分かれ、素早く陣形を整えていく。
「第二秘書、お前は私についてこい」
わざわざ偽名を作ったというのに、せめて名前で呼んでほしいものだ――心の中でそう思いつつ、
「承知しました」と素直に返事をする。
その途端、ナリッサがにやりと笑みを浮かべ、何か言いたげに私を横目で見る。だがすぐに表情を引き締め、後続に指示を飛ばした。
「先陣は私の隊が切る。一度魔物の群れを突破し、反転。時間差で突撃するもう一隊と挟撃する!」
「「「了解!!」」」
兵士たちの力強い返答を背に受け、ついに目的地である北西の森が視界に現れる。
ナリッサが右手を高く掲げ、そして――
「それじゃあ、突撃開始!!」
「「「おおおおおーーーーーっ!!」」」
号令と共に馬が地を蹴り、我々は砂煙を巻き上げながら一斉に森へ突入した。




