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第15話 親バカ魔王 出陣

「それなら別に問題ないだろ。」


先に宝物庫を出ていたナリッサに慌てて声をかけると、彼女はいつも通り、肩の力が抜けたような調子であっさりと返した。


「…問題ないのか?」


「大々的な視察じゃないから、随行してるのも少数だけど――それでも一国の王だよ? しっかりした護衛は当然ついてるし、私たちはあくまで“念のため”ってやつ。保険みたいなもんさ。」


「そうか…」


言葉では納得したふりをしたが、心のどこかに小さな棘が刺さるような違和感が残った。


大丈夫――そう思いたいのに、脳裏に引っかかる“何か”。

それは風のない場所で揺れる灯火のように、はっきりとは見えないが確かに存在する。


胸の奥が妙にざわつく。視察団のことを聞いた瞬間から、まるで頭の後ろに冷たい指が這ったような不快感が消えない。

単なる親バカの思い込み……ならばいいのだが、感覚がそう言っていない。


ナリッサの足取りは軽く、私とは対照的に何一つ気にしていないようだった。

そんな彼女の背中を見つめながら、私は無意識に拳を握りしめていた。


「……嫌な予感がする」


心の奥底から沸き上がる言葉を、私は誰にも聞こえないように呟いた。


まるで、何か取り返しのつかないことが起こる前の静けさのような、そんな“予兆”が、空気の隙間に潜んでいた。


⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻


武器の選定を終えた我々は地上へ戻り、次の任務のために編成された討伐隊と合流した。


今回の部隊は、森林での乱戦を想定した機動型の編成だ。

金属鎧で身を固めた重騎士は動きが鈍くなるため外されており、主戦力となるのは革鎧を着た軽騎士、それに森での潜伏や索敵を得意とするスカウト部隊、森林戦に特化した猟兵たち、そして支援を担う魔導士が数名――総勢約五十名からなる部隊である。


ユニークモンスターの存在が完全に否定できない以上、迅速かつ柔軟な対応が求められる。そのため、全員が馬を用いての移動となっていた。


部隊へ近づくと、ひとりの兵士が馬から降り、一歩前へと進み出る。


「ナリッサ様、部隊総員、出撃準備完了しております。号令をお願いします!」


おそらく部隊長だろう。礼儀正しくも、どこか熱のこもった声だった。


ナリッサは


「おう、分かった」


と返すと、兵士たちの前へと進み出て、その場に立つ。


「よし、てめぇら! 奴らはおそらく北西の森にいる。数も多くて、もしかしたらユニークも混じってるかもしれねぇが――やることはひとつだ。さっさとぶっ倒して、城に戻って宴だー!」


「「「「おおおおぉぉ!!!」」」」


……言ってる内容はともかく兵士を乗せるのがうまいのはナリッサの良いところである。


力だけが四天王の資格ではない。

部隊をまとめ、戦意を保ち、部下の実力を最大限に引き出す――それができるからこそ、彼女はこの地位に立っているのだろう。


「先陣は我が切る! 総員、続けー!」


号令と共に、部隊長が馬に跨り先導を始める。砂を蹴り、風を切り、兵士たちが次々とそれに続いていく。


「さぁ、うちらも行きますか」


「承知しました、ナリッサ様」


私たちも馬に跨り、その背を追う。


……視察団のことが、どうにも胸に引っかかる。

あの“予感”が杞憂であればいいと、私はただ祈るような気持ちで馬を走らせた。

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