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第13話 親バカ魔王 魔物討伐

翌朝、森の中で目を覚ました私は、簡単に野営の跡を片付けると、軽く身体を伸ばして深呼吸をひとつ。


「さて、帰るか」


私は周囲に気配がないことを確認し


「術式発動──飛行」


淡い光が身体を包み、ふわりと足元が地面から離れる。昨日と同様、魔力の節約と発見リスクを避けるため、高度は抑えたまま森の上を滑るように飛ぶ。冷たい朝の風が顔をかすめるたび、意識が冴えていく。


朝霧の中、城壁を越えて着地する瞬間、ふと自分の姿を思い出す。かつて魔王と呼ばれた者が、まるでこそこそと泥棒のように帰ってくるのもどうかと思うが、今さら堂々と正門をくぐるわけにもいかない。


「……なんかもう、色々と情けないな」


一人ごちてため息をつきながら、裏口から執務棟へと向かう。そして足早にアレヴの執務室の扉を叩き、入室する。


「おはようございます。アレヴ殿」


既に机に向かい、書類と格闘していたアレヴがこちらを見上げる。


「おはようございます、メリク殿。それと──来て早々申し訳ないのですが、昨日の件で少し……」


──あっ。


そういえば昨日、アレヴには何の連絡も入れていなかった。これはまずい、怒られるやつだ。


「その、事情があってですね……」

何とか言い訳を組み立てようとする私に対し、アレヴは苦笑しながら言った。


「ナリッサ様のお使いを引き受けてくださり、ありがとうございます。……あの方、わがままなのはいつものことなんですが、頼み事がいつも唐突すぎて……!」


おや、この感じはナリッサが事前に手を回していたらしい。だがにしてもアレヴのナリッサに対しての怒りが相当なもののような気がする。


「実は先日も、午後から書庫での会議を予定していたのですが、気がついたら書類に『外出』の判子だけが押されていまして……」


アレヴの顔には、長年理不尽に耐えてきた者だけが持つ静かな怒りが浮かんでいる。


「……四天王の一人なんだから、もう少し計画的に動いてくれてもいいんですけどね。突然『あっ、今日は遠出したい気分!』って馬で出かけてしまった時は、正直倒れるかと思いましたよ」


アレヴはボソボソとした声ながらも、次から次へと愚痴を吐き出していく。普段は冷静沈着な彼女が珍しく感情的になっているのを見ると、こっちが慰めたくなるくらいだ。


「……まぁ、そういうやつだよな」


そう苦笑した矢先──


「おーっす! お、いたいた!」


朝っぱらから元気いっぱいの声と共に、問題の張本人が執務室に登場した。


「悪かったなー、急に頼んじまってよ。まぁこれも新人教育の一環ってやつだ!」


相変わらずのノリと声量だ。アレヴの眉がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。


「そうですね、ははは……」


とりあえず曖昧に笑ってその場をやりすごす。心の中では(また借りが増えたな)と嘆きながら。


しかしナリッサが何とか誤魔化してくれていたのはいいものの普段から部下をそんなにこき使っているのかこいつは。


「それはそうと、我が領土北西にある複数の村から、魔物討伐の要請が来ております。既に十数箇所が被害あっているようです。」


気を取り直したアレヴが、今度は真面目な報告に切り替える。


「ユニークか?」


ナリッサの表情が鋭くなる。


「いえ、斥候の報告では確認できていません。ただし、群れの数がやや多く、通常より活発化している兆候が見られます」


『ユニークモンスター』──その名の通り、特異な特徴を持つ魔物だ。並の個体より圧倒的に強く、魔力や耐性、知能も高いものが多い。その個体が群れのリーダーとなった場合、討伐の難易度は一気に跳ね上がる。


「確認できてないとはいえ、いる前提で動いた方が良いな」


二人の会話が途切れた瞬間、ナリッサが私の方を向いた。


「そうだ、これも仕事のうちだ。お前も一緒に来い」


──ああ、やっぱり来たな。


「いや、その……私は今戻ってきたばかりでして、先日アレヴ殿と話した農地改革の計画書を──」


「大丈夫だ! この程度の群れなら一日で片付くだろうし、どうせならお前の初陣ってことで!」


完全にノリで決めたな、この人。


もはや何を言っても無駄な空気を察した私は、黙ってうなずいた。


「……分かりました。付き合いますよ」


借りは借り。さっさと返して、これ以上振り回されないようにするしかない。


ナリッサは満足げに笑い、アレヴは無言で天を仰いだ。

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