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12.5話 閑話 サバイバル飯

視察団が次の目的地へ移動するのは今日。街道の安全確保のため、既に斥候が周囲に展開されているはずだ。そんな中、魔王城に戻る途中で彼らに見つかるのは避けたい。というわけで、今夜は森で野営することにした。


野営自体は初めてではない。若い頃、後学のために軍に混ざって訓練を受けていた時期があり、その際に設営や夜営も経験している。ただ、争いが激化してからは城を離れることも少なくなり、こうして一人で夜を過ごすのは随分久しぶりだ。


とはいえ、今回は城を出る際に持ち出したナイフ一本のみ。テントも焚き火台も、便利な道具の類は一切ない。完全なる野宿である。


夜が更け、森の静けさが深まってくる。


「はぁ……腹が減ったな」


一日くらい飲まず食わずでも耐えられるが、せっかくならばサバイバルらしいことをしてみたい。先ほどの護衛の様子からして、気配察知に優れた者もいた。今は無闇に魔力を使いたくない。狩りも魔法抜きで行く。


とはいえ、この体格では大型の獣を仕留めるのは難しい。目をつけるなら、小型の草食動物だ。


──その時、草陰でガサッと小さな音がした。


息を潜め、そっと目を凝らす。そこには、警戒しながら草を食む兎の姿が。


(いた……!)


だが、あの素早さを相手に無闇に動くのは得策ではない。こちらに近づいてくるのを待つ。しゃがみ込み、気配を殺す。


そして、兎の視線がこちらから外れた瞬間――


「ヒュッ!」


ナイフを投げ放つ。鋭く空気を裂いたそれは、兎の後頭部へ正確に突き刺さり、トスッと軽い音を立てて倒れた。


「……よし、一撃!」


幸先の良い狩りに満足しつつ、すぐさま火起こしに取りかかる。落ちていた枯れ木を集め、手頃な枝の皮を削って串を作る。仕留めた兎の毛皮を剥ぎ、肉を切り分けて串に刺していく。


やがて焚き火が勢いを増し、肉の表面にじわじわと焼き色がついていく。


「うむ、美しい焼き目だ……」


思わず独り言が漏れる。野趣あふれる兎の串焼き、完成である。


「いただきます」


熱々の肉をひとくち噛みしめる。肉汁がじゅわっと――


……かと思いきや。


「………………まずッ!」


衝撃の味が口内を襲う。鉄のような血の匂いが鼻をつき抜け、苦味のある脂が噛むたびにじわじわと染み出てくる。


「な、なんだこれは……っ!?」


その味たるや、もし料理の神がいたなら即座に神罰が下りそうなレベル。地獄の宴か、これは。


(いや、これは……生焼け? いや、毛の処理不足? それとも内臓系の処理ミス? いや全部か!?)


あまりの味に目が潤む。


それでも私は全て食べきった。命をいただいたのだ、途中で放棄するわけにはいかない。せめてもの敬意として、残った皮は乾かして持ち帰ることにした。


(……やっぱり慣れないことはするもんじゃないな)


そうぼやきながら、私は再び焚き火の炎を見つめるのだった。

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