第11話 親バカ魔王 逢いに行く
軽快な足取りで、ナリッサの私室へ向かう。
先ほどアレヴに視察ルートを尋ねようとしたのだが──
「今回の視察は、四天王ナリッサ様からの推薦とはいえ機密事項のため、お伝えすることはできません」
……とのことだった。
というわけで、視察ルートを知っていそうな本人、つまり四天王に直接聞きに行くことにしたわけである。
外出するという話は聞いていないので、おそらく部屋にいるはずだ。
私室の扉の前で一度深呼吸し、ノックする。
コンコンコン
「お休みのところ失礼し──」
──『バンッ!』
「やっぱり来たか!」
挨拶を終える前に、目の前の扉が勢いよく開いた。
「…やっぱり、というのは?」
「いや、ただの勘さ。魔王様が娘ちゃんの帰りをおとなしく待ってるとは思えなかったからな。
それにアレヴが視察ルートなんて簡単に喋るわけがない。だから、いずれこっちに聞きに来るだろうって思ってた」
(普段は脳筋なくせに、こういう時だけ妙に勘が鋭いんだから困る)
「で、私の予想は──当たりか?」
「……ああ、当たりだ。というわけで、視察の予定を教えてくれ」
「……ひとりで行くつもりか?」
「お忍びだからな。ひとりの方が都合がいい」
「フッ、なるほど……魔王様、結構抜け目ないな。よし、情報料として甘いものでも差し入れに持ってきてくれれば──」
「……いや、今すぐ出たいんだが」
「冗談だ冗談。真面目な顔するなよ、怖いって。
予定通りなら、今は北の街道から南へ下ってる頃だ。今日は農地の視察で、近くの村に立ち寄ってるはずだぞ」
「助かる。恩に着るよ」
そう言い残して私は私室を後にし、足早に魔王城の廊下を抜けて裏庭へ向かう。
周囲に人気がないのを確認し──
術式発動、「飛行」
この距離であれば、無駄に魔力を消費しない限り、尽きる心配はない。
遠目から視認されるのを避けるため、必要以上に高度を上げず、低空飛行で進む。
やがて森の上空へと差しかかり、適当な場所を見つけて地面へ降り立つ。
ここから先は探知術に引っかかる可能性がある。よって、魔法による移動は控えよう。
本来なら透明化で姿も気配も消すところだが、今はその魔法が使えない状態にある。
術式発動、「気配遮断」
この魔法は名の通り、気配のみを消す術だ。透明化とは違い、姿は見える。
つまり、視界に入らぬよう立ち回らねばならないが、今回はただ様子を眺めるだけのつもりだ。問題はないだろう。
気配を絶ちつつ、木々の間を素早く移動する。
(本来であれば、魔王城でドンと構えて待っているのが「魔王」のあるべき姿だろうが……。
今の私は「元」魔王であり、「父親」でもある。娘の様子が気になって見に行ってしまうのは──まぁ、仕方ないよな)
誰に言い訳しているのか自分でも分からないが、それは今は置いておこう。
確か、視察先の農地はこのあたりのはず。そろそろ……。
森を抜けると、少し先に小屋が見えた。恐らく、あれが視察先の村だろう。
そして、その周囲には完全武装の護衛に囲まれた、一人の魔族の少女の姿があった。
──そう、彼女こそが現在の魔王軍最高指揮官、そして現・魔王城の城主。
その名を──
魔王「ミラン・ユルディラン」
そう……彼女こそ──
私の、愛娘である。




