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第9話 親バカ魔王 農業改革をする②

さて、ではどうするか。


改善案の一つとして、肥沃な土地に新たな畑を作るという手がある。

すでに農業が行われている地域であれば、多少の差はあれど一定の収穫は見込める。


しかし、新しい畑を作ったからといって すぐに作物が育つわけではない。


畑を整備するには、まず土地を農業に適した状態にする必要がある。

具体的には「水はけの良さ」「土の柔らかさ」「肥沃さ」の三点を確保しなければならない。


まず、雑草や雑木を取り除き、植物を植えられるように土を耕す。

木の根は地中深く張っているため、掘り起こせない場合は枯れるまで待つしかない。

その後、堆肥や緑肥を混ぜて土壌を肥沃化し、腐葉土やもみ殻を加えて水はけを改善する。


こうした作業を繰り返し、ようやく作物を育てられる土ができるのだが── 早くても数年、長ければ十年以上かかる。

これでは 即時の食糧問題解決には不向き だ。

もちろん、慢性的な食糧不足を解決するには新たな畑を増やしていく必要があるが、今すぐ食糧を増産する手段にはならない。


では、今ある畑を改善する方が現実的ではないか?


たとえば先程の 「アルチャコヴァ」 だ。

この土地は二つの川に挟まれているにもかかわらず、取水の問題で食糧生産が低迷している。

しかし、 砂漠のように水源すらない土地と比べれば、アルチャコヴァはむしろ恵まれている。

問題は 水をどう確保するか だ。


では、高地側を流れる 「ユクセクネヒル川」 から水を引くのはどうか?

──だが、この川の流れは速く、単純に水を引くだけでは問題が生じる。

取水が不安定になり、土砂の堆積や施設の損壊リスクが高まるため、管理が困難になるのだ。

そのためには、流れを調整するための堰や取水池が必要になるが、それを建設するにも 人手 が足りない。

さらに、氾濫を防ぐための堤防整備も必要になるし、そもそも工事をするための資材や労働力が圧倒的に不足している。


「はぁ……」


ため息が漏れる。


何をするにも人手不足だ。


かつて魔王軍を設立したばかりの頃を思い出す。

あの頃は、自分が四方八方に飛び回り、厄介事を片付けていた。

だが、今の自分はそういう動き方はできない。


少ない労力、少ない物資で、できるだけ短期間に改善する方法……。


ふと、机に散らばる書類を眺める。


──何か使える手はないか。


「……いや、待てよ」


視線が止まったのは、古い水路の図面 だった。

アルチャコヴァには、過去に作られたが使われなくなった 古い取水施設 がある。

何らかの理由で機能しなくなり、長らく放置されているが── 復活させることはできないか?


もし、川の水を安定して引ける仕組みがあれば、わざわざ新しい大規模工事をしなくても済むかもしれない。

そして、速い流れの川から直接水を引くのが難しいのなら──


「……水を 迂回させて、緩やかに流す 仕組みを作ればいいのでは?」


川から直接取水するのではなく、水をいったん高い場所に引き上げ、そこから緩やかに下流へと導く ことで、水位の変動を抑える。

さらに、水路を木製や石造りのといで作れば、短期間での建設も可能だ。


「……これなら、いけるかもしれない」


ユクセクネヒル川の上流に取水口を設け、水を樋で流しながら徐々に高度を下げ、アルチャコヴァへ導く。

この方法なら、大規模な堤防やダムを作る必要はない。

さらに、古い取水施設を活用すれば、建設にかかる労力も大幅に削減できる。


「よし、決まりだ」


私は 書類を手に取り、席を立つ。

すぐに技術者たちを集め、この計画を進める必要がある。


──魔王軍の復興は、まず「水」から始める。

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