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7/30

7.想定外の大歓迎

昨日に引き続き、ジャンル別日間にランクインしているようです٩( 'ω' )و

皆様ありがとうございます!


 バンデッドリザードを倒したあと、グロセベアに乗ったまま橋を渡っていく。

 ハイセニア領へと近づけば近づくほど、歓声が大きくなっていくみたい。


「す、すごい歓迎をされてる……?」

《いやぁ兵のみなさんのテンション高いねー!》


 私とカグヤが驚いていると、砦の方から声が聞こえてくる。


『イェーナ様。そのまま門を抜けて、砦の敷地へとお入りください』

「わかりました」


 了解を示し、門の方へと近づいていくと、歓声が収まっていき、静かになっていく。

 開いた門を潜る頃には完全に沈黙した兵士の人たちに対して不安感が滲み出てくる。


 門から伸びるトンネル状の通路を、ゆっくりとグロセベアを歩かせていく。

 生身で歩くとそれなりに距離を感じそうな通路も、巨鎧兵騎(リーゼ・ルストン)でならあっという間だ。


 トンネルを抜ける。

 次の瞬間――


『守護騎士イェーナ様ッ! ご到着ッッッ!!』


 拡声器によって大音声となった言葉が響き渡る。

 それに合わせて旗を持った巨鎧兵騎(リーゼ・ルストン)たちが一斉に、その石突きで地面を叩き、真っ直ぐに構える。

 

 続けて、生身の人間たちが同じように手にした旗の石突きで地面を叩き、真っ直ぐに構えた。


 さらには、長剣や槍を持った巨鎧兵騎(リーゼ・ルストン)たちが、高い位置で武器を交差させアーチを作っている。


《イェーナちゃんめっちゃ歓迎されてるじゃん》

「そうみたい」


 武器が交差するアーチの下を潜りながら進んでいくと、その正面に、大陸中で広く使われているヨーグモッツ魔導国製の巨鎧兵騎(リーゼ・ルストン)エタンゲリエのカスタム機が堂々とした様子で待ち構えていた。


 剣を地面に刺し、両手をその柄に乗せている姿は実に堂々としていてサマになっている。


 シェイコ帽のような形の頭部をしたエタンゲリエは、使用している国に合わせた色に塗り直される。

 ハイセニアの場合は、元々白を基調とした塗装がされていることが多いのだけど、正面にいる機体は、それを踏まえてみても純白と呼ぶに相応しい色味をしていた。


 要所要所にあしらわれた金のラインや、通常のエタンゲリエにはない装飾なども相俟って、高貴さ豪奢さを感じる機体だ。


《明らかにお偉いさんの機体だよね?》

「ええ。しかも半端な貴族ではなさそう。王族とか、それに準ずる位の人の機体だと思うわ」

《そんな人に歓迎されてるって、変な扱いはないんじゃない?》

「どうかしら……」


 カグヤとやりとりをしながら、アーチを抜けて、純白のエタンゲリエの元へと到着する。


 すると、背後でアーチを作っていた機体たちは、手にした武器を下げると、刃を上に向けて胸元に構えた。

 一糸乱れぬ動きは、それだけで美しくカッコいい。


 確かにカグヤの言う通り、歓迎して貰えてるのだと思うけれど……。


「よくぞ参られたイェーナ・キーシップ殿ッ!

 我らハイセニア王国一同、貴女の来訪を歓迎致しますッ!」


 純白のエタンゲリエから、高らかに声が響く。

 そして、胸元のハッチが開くと、中から金髪碧眼の美しい容姿をした男性が姿を現した。



 操縦席に座った姿勢ながら、男性は胸元に左手を当て、右手をこちらに差しだしながら告げてくる。


「私はハイセニア王国第二王子ニーギエス。

 この関所の砦より、王都までの道中――イェーナ殿のエスコートをさせて頂く者です」


 え? ニーギエス殿下?

 エスコートって……ニーギエス殿下が!?


《王子さまキター! イッケメ~ン!!》


 カグヤがはしゃいでるけれど、こちらはそれどころではない。

 まったく想定していなかった状況に、私はだいぶ混乱している自覚はある。


「えーっと、カグヤ。向こうみたいに、ハッチ……開けられる?」

《りょ》


 私が訊ねると、カグヤは短く本当に短く答えて――っていうか「りょ」って何、「りょ」って。了解の省略にしても短すぎない?


《あ。そだ。安全面を考慮して身体に巻き付く触手をちょっと増やしまーす》

「ええ」


 態度や言葉遣いはともかく、こういう気遣いはよくできるみたいなのよね。

 ――などと考えていると、胸の辺りにケーブルが巻き付いていく。


 その間、私は出来るだけ呼吸を整え、努めて平静に対応できるように気持ちを切り替える。


《よしっと。開けるよー》

「お願いするわ」


 私がうなずくと、グロセベアの胸元が開く。


 何やら殿下がこちらを見て驚いたような困ったような顔をしているのに、私は珍しく気づかずにいた。


 むしろ自分の気持ちと呼吸を整えるのに精一杯だったのだ。


 軽く呼吸を整えて、声を上げる。


「お初にお目にかかりますニーギエス殿下。巨鎧兵騎(リーゼ・ルストン)の中より失礼致します。

 イェーナ・キーシップ。両国の契約により、この場に参りました。過分な歓迎――痛み入ります」


 状況についていけてないせいか、胸がドキドキする。

 それでも最低限の挨拶などはしなければ――というこれまで培ってきた立ち居振る舞いの貯金によって、身体が勝手に動き、口が言葉を勝手に紡ぐ。


「ずいぶん驚かせてしまったかもしれないが、そのくらい貴女が来てくれるのを歓迎しているんだ。王族だけでなく、兵士たちもね」


 茶目っ気のあるウィンクをしながらそう口にするニーギエス殿下。

 私はその言葉に、胸中で首を傾げた。


 ……歓迎される理由が分からない。


「歓迎の理由が分からないようだけど、そこは追々、お教えするよ」

「かしこまりました」


 まぁ教えて貰えるならいいか。


「ところで、その機体はボクシール機能やそれに近いモノは搭載されてるかい?

 馬車を用意してあるんだが……可能ならそっちに乗って頂けないかな?」


 えーっと、どうなんだろう。


「カグヤ。搭載してる?」

《あるよー》

「あるみたいです」


 何やら殿下は驚いた顔をしている。

 いや、ふつうは驚くわね。


 出会って一日経ってないけど、カグヤがいて当たり前のような感覚になってたみたい。


「今の声は?」

「この機体に宿っている精霊のようなモノ……でしょうか」

「……道中でその機体について聞きたいね」


 まぁお世話になる以上はある程度話す必要はある、か。


「わかりました」


 何はともあれ、最悪の扱いにはならなそうでホッとする。

 そんな私を見て、殿下は少し言い辛そうな様子で訊ねてきた。


「ところで」


 ん? なんだろう。


「その腕や身体に巻き付いているケーブルは何かな?」

「これは、この機体の魔力変換用のモノだそうです。あと、シートベルトなどの安全機構がないのでそれの代わりも兼ねています」

「そ、そうか……」


 どうしたんだろう。

 殿下、顔を赤くして目を逸らしたけど。


「……?」


 理由が分からず、私は自分を見下ろす。


 良く見ると、私の服はボロボロだ。胸元が少し破けて露出している。


 考えてみると、崖から落ちて遺跡に転がったのだから仕方ないかもしれない。

 ……こんな姿をニーギエス殿下に見せてしまったことを思うと、さすがにマズいな……ってなるかな……。


 あと――その、恐らくは安全の為に、あとから巻き付いたのだろう二本のケーブル。

 それが胸の上と、胸の下を通っているのが見える。


 息苦しさやキツさを感じないので気にしていなかったのだけれど、その二本のケーブルのおかげで、着ていた服が絞まり、私の胸が変に強調されて前に突き出しているかのようになっていた。


 …………。


 女性の胸が好きな男性というのはよく分からないし、他人から肌を見られることを恥じるという感覚も希薄な自分だけれども。


 それでもこれが、ボロボロの服と相俟って、扇情的で、はしたない格好になってしまっているというのは分かる。


 とりあえず、だ。


「カグヤ?」

《いやほら、えーっと……人間のオトコのコってぇ~、こういうの好きなんでしょ?》


 実体の類いがあれば、絶対に目を逸らして口笛でも吹いていそうな調子のカグヤに、私は目を眇める。


「安全性がどうとか言ってたわよね?」

《そこはもちろんバッチリ! 胸の下の一本さえあれば》

「カグヤ?」

《イーちゃんごめん! いやでもだってほら相手が王子様とはいえ、なんか不安じゃん?

 ここはいっぱつ、えっちな姿でも見せて心を掴んでおけば、無碍にはならないかなーって! 下心だろうと心なんだし、それを奪っちまえば後は野となれ山の如しで行けるかも的な? 少しでもちゃんマスの待遇が良くなるようにっていう親切マインドなんだよーぅ》

「悪気はなかったのね?」

《そこは絶対に! 近所のおばさんに誓って!》

「その誓いは信用していいのかしら?」


 まぁ悪意がないなら仕方がない。

 私の為に考えていてくれたようだし。


「ともあれこういうのじゃなくて、ちゃんとやって」

《はーい》


 言えば、カグヤは素直にちゃんとケーブルを巻き付き直してくれた。


「すみません。カグヤがイタズラ好きなモノで、驚かせてしまいました」

「いや……こちらこそイタズラに引っかかってしまい、失礼をした。

 だが、手段はともかくカグヤ殿の心配ももっともだ。あまり叱ってやらないでくれ」


 殿下が困ったような苦笑しているような顔でそう告げると、カグヤが調子よく反応した。


《そーそー! 王子様よく分かってるー!》

「……カグヤ、変に調子に乗らないでね?」

《へ~い》


 なんていうか、手の掛かるイタズラ好きな妹みたいよね。カグヤって。


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