5.レディ、レディライダー!!
脱出は思ったより簡単だった。
カグヤのいた格納庫には、元々巨鎧兵騎を外へと射出する機構があったのだ。
その機構そのものは壊れていたし、射出口が埋まっていて使えなかったけれど、その機構の中そのものは歩くことはできた。
突き当たり――埋まった射出口は、そこまで分厚く塞がれているワケではなさそうだ。
それははっきりと感じた。
《イーちゃん。得意な魔術属性は?》
「メインは光と無属性。他の属性もそれなりに使えるわ」
《おお! あ、巨鎧兵騎に乗り慣れてそうだから説明不要だろうけど、一応説明するね。
グロセベアの場合は、両手両足に巻き付いたケーブルを通じて、グロセベアの両手両足に魔力が回るから。普段魔術を使う要領で発動させれば、グロセベアの手足から発射できるよ》
「ええ。分かってる。魔力の回る機構やシステムに差はあれど、巨鎧兵騎の基本機能だから」
私は詰まった射出口から少し距離を取り、グロセベアの右手を掲げて壁に向ける。
「セット、マジックブラスト」
《術式認識。術式巨鎧化。変換正常。巨鎧化完了》
本来は自分の右手に集まっていく魔術を、カグヤが巨鎧兵騎から発動するように変換していく。
それによってグロセベアの右手首に環状魔術陣が三本。掌には白い魔力が輝きながら集まっていく。
周囲の環境で、属性や威力の変わる特殊な魔術。
この場では、無属性のまま構築されていくみたい。
《発射準備OK! イケるぜ、姉御ッ!》
「どこのチンピラですか」
思わず笑ってしまいながら、私は自分の術式の発動を意識する。
「シュート!」
魔力を撃ち出す。そのイメージをカグヤが受け取り、グロセベアを通じ、右手へと届ける。
淀みなく、引っかかることもなく、刹那の時間で、その情報は右手に届き――
バシュン! というような音を立てて、魔力で構築された矢がグロセベアの右手から放たれた。
その矢は射出口に詰まって壁になっている土や岩の塊に激突すると、炸裂して魔力衝撃波を撒き散らす。
ガラガラと壁が崩れて、日が暮れだしている外の光景を、広げていった。
《よし! マスター、ここから出れそうじゃん》
「ええ。行きましょう、カグヤ」
もう何発かマジックブラストを撃って壁を壊すと、ようやくグロセベアが外に出れるだけの穴になった。
「意外と、橋の近くにでたわね」
橋を見上げながらそう漏らすと、カグヤが楽しそうに声を上げる。
《あそこまでなら、グロセベアちゃんの足でも跳べるぜ》
操縦席に半透明な板のようなモノが急に現れて、跳ぶための操作の仕方のようなモノが、表示された。
「え? なにこれ?」
《ホロウィンドウってやつなんだけど、知らない?》
「ええ……初めて見たわ……」
そこに書かれた説明を読み終え、もういいわと声を掛けると、ホロウィンドウとやらは姿を消す。
どうやら出し入れ自由らしい。どういう仕組みなんだろう?
普通の機体は、こういうの表示する為に別途の映像板を必要としてたりするから、必要に応じて出し入れ出来るこれは便利そう。
《ちゃんマス。行けそう?》
「心配しないで。やってみせるわ」
魔力を背中のマギ・スラスターに集めるイメージ。
グロセベアをジャンプさせ、その頂点で背中に集めた魔力を放出させる。
ジャンプの頂点で、さらに上へと跳んでいく。
橋まであと少し。
そう思った時、背中から魔力を噴射しているカバンのようなモノから小さな破裂音が聞こえてきた。
《あ、やば。マギ・スラスターの調子あんまよろしくないかも?》
このタイミングで? とは思うものの、そもそも長い時間眠っていた機体を、ぶっつけ本番で動かしているんだもの。
カグヤだって本調子ではないだろうから、色々な見落としや不具合があっても不思議ではない。
だから、このくらいは最初から想定済み。
素早く魔力を練り上げ、グロセベアを通じて巨鎧術化させてから、グロセベアの足下に鏡のような板を展開した。
「ミラーウォール。本来は防御に使う使い捨ての盾みたいな魔術だけど」
《わ。ちゃんマス、やるぅー!》
輝く鏡のような板を、水平に展開。そこに着地して、改めて跳び上がる。
蹴ると同時に砕けるれど、体勢は立て直せたのだから問題ない。
カグヤの言う通り、マギ・スラスターという背中の推進用魔力噴射機構は目に見えて弱ってるけど、ここからジャンプ補助をしてもらう分にはいけそうだ。
橋の上に着地する。
元々この橋は巨鎧兵騎が行き来することも想定されているので、多少乱暴な着地をしても、壊れたりはしない。
「ふぅ、なんとか脱出できました」
《マスターすげー! サイコー! 神!》
「ふふ。ありがとう」
大したことをしていないのに、カグヤが大袈裟に褒めてくるものだから、つい笑ってしまう。
《……おりょ? 背後の砦から多数の熱源反応。これは……巨鎧兵騎かな?》
「でしょうね。一応、隣国との国境だからこの橋。
あっちの関所の砦には巨鎧兵騎が配備されてても不思議ではないわ」
《向こうからすれば、アタシらってば急に現れた謎の機体ってカンジかー》
「そうね。とりあえず手を上げながら向こうへ行きましょうか」
《いいの?》
「貴女を取り上げられないようにだけがんばるわ」
そうして私はグロセベアに両手を挙げてもらいながら、砦の方へと向かう。
『脅かして申し訳ありません。こちらに交戦の意志はありません。よろしければそちらで受け入れて頂けないでしょうか?』
ある程度、砦まで近づいたところで外部スピーカーをオンにして声を掛ける。
向こうの砦の方から「女の声だ?」「乗り手は若い女か?」「なぜ崖から」という声が聞こえてくる。
どうやらこの機体、音を拾う能力が高いようだ。
『確認したいのだが、どうして崖下から飛び出してきた?』
『ワケあって下に落ちてしまったんです。なんとか脱出するルートを見つけて跳び上がってきた次第です』
即座に答えは返ってこない。
もちろん、返ってくるとも思ってはいないのだけれど。
『ふむ。キミの所属と名前を聞いても……ッ、いやそれより背後をッ! 巨魔獣だッ!!』
砦の騎士の言葉が途中で鋭いモノに変わる。
即座に反応して振り向くと――
「ああ、これは都合がいいですね」
スピーカーがオンになっていたのを忘れて、私はあげる。
『バンデッドリザード! アドバイス通り、私を落としたオトシマエッ、付けさせて貰うわッ!』
《ほいきた!》
瞬間、カグヤがグロセベアの全身に戦闘駆動用に魔力を巡らせていく。
《せっかくだしマスター。スピーカー開けたまんま名乗ったら? 騎士ってやーやー我こそはー! みたいな名乗りするんでしょ?》
「どういう名乗りですかそれ……でもまぁ、確かにちょうど良いかもしれませんね」
カグヤの提案で、私はバンデッドリザードと向き合いながら、関所の騎士達に聞かせる名乗りを考える。
いっそ、もう全部ぶちまけてしまおうか。
あとは成り行きに任せてしまって言い気がする。
カグヤとグロセベアさえ奪われなければ、なるようになれだ。
いわゆるヤケクソってヤツかも知れないけれど――今の私には、そういう勢いがちょうど良いかもしれない。
『私はイェーナ! イェーナ・キーシップッ!
祖国シュームラインに捨てられ、隣国ハイセニアに売り飛ばされ、それでもなお……祖国を守り続けた一族、誇りあるキーシップの名を捨てられない馬鹿な女ッ!
そして、そこのトカゲにクレバスへと落とされ、落ちた先にあった遺跡で、古き精霊カグヤと契約し、カグヤが宿りし巨鎧兵騎グロセベアの主人となった者ッ!』
《アタシってば精霊?》
「そういうコトにしておいて」
名乗ったあとに投げられたカグヤの小声のツッコミに、小声で返す。
「…………?」
トカゲの方は突然の大声に何を言っているんだという様子だけれど……。
『イェーナ・キーシップ……!? あ、貴女がイェーナ様でしたか……!』
『遺跡にあった巨鎧兵騎と契約ってなんだ?』
『なにが起きてんだ?』
背後から聞こえてくる騒ぎはとりあえずさておくとして――
『現状の私は、まだハイセニアに受領されていません。なので一応の所有者はシュームラインとなります。
その為、そちらの領地に踏み入れない橋の上であれば、巨鎧兵騎による戦闘を行っても条約違反にはなりません。
むしろ手を貸されてしまいますと、シュームラインが余計な口出しを可能となってしまうので、手出し無用でお願いします』
そう告げる私に、背後の砦から返答が帰ってきた。
『気遣い感謝する。それと貴女様を無体に扱うつもりはございません。あまり卑下や悲観はなさらず』
背後の許可は取ったので、今度はトカゲと真面目に向き合うとしましょう。
「カグヤ」
《んー?》
「貴女とグロセベアのチカラ、私に見せて」
《もっちのろっん! イーちゃんの腕前も見せてよね?》
「ええ――まずは、隣国ハイセニアでの扱いが多少でも良くなるように、私たちの強さを売り込むとしましょうッ!
――私は、グロセベアを一歩踏み出させる。
この一歩は、私の新しい道を歩むための、第一歩。
その為には全力で、、目の前のバンデッドリザードを倒さないと。
準備が出来次第、次話も公開します٩( 'ω' )و




