1.婚約破棄されました
新連載です٩( 'ω' )و
某コンテスト用の新作ですが、こちらでも掲載します!
本日は3話まで更新!
お読み頂いた方が少しでも楽しんで頂ければ幸いです!
「イェーナ・キーシップ。お前との婚約は解消させてもらう」
「え?」
「婚約破棄だと言っているんだ。聞こえないフリはやめろ」
その日、私――イェーナ・キーシップが婚約者であるこの国の王子ヨーシュミール殿下に、急に呼び出され言われた言葉がこれだった。
常々、非合理的な発言が多い人だとは思っていたけれど、今日は極めつけだ。
正直なところ、こんなことを言い出す理由が分からない。
「聞こえていないワケではないのですが……理由を伺っても?」
「ふん。普段は巨鎧兵騎のよりも無感情なお前にしては感情的な質問だな」
魔導工学技術で造られた兵器よりも感情がないと言われることに思うことはあるけれど、今はいちいち口にしない。
あと、感情的な質問でもなんでもなく純粋な疑問だ――まぁこれも口にすると面倒くさそうなのでしないのだけれど。
「そもそもお前という女がつまらない」
「…………」
「真面目で堅物で表情もロクに変わらん女などつまらんのだ」
何言ってるのだろうコイツ?――と口にしないだけの理性はある。口にしたところで無意味だという理解も。
そもそも私たちの婚約は貴族の義務によるモノだ。
そこにお互いの好悪は関係ない。
王族と、国に仕える貴族の仕事である。
それを解消するというのは、それなりに理由があってしかるべきものであるはずなのに。
「何より、やはり愛嬌のある女の方がいい。お前の妹のようにな。アレこそ可愛い女というモノだろう」
確かに妹のクシャーエナは、私と比べたら感情豊かで、愛らしく、誰からも好かれる子だ。あの子が可愛いというのに異論はない。
あの子と比べたら自分が微塵も可愛くないという自覚もある。
「かつて我が国を救った守護騎士が双子の女だったから……などというくだらぬ理由で、守護双機の乗り手もまた、女二人でなければならないなどという慣習も無駄だと思っていたのだ」
そうは言っても――始まりの双子と呼ばれるその守護騎士たち残したと言われている――守護双機と呼称された二機の巨鎧兵騎は、キーシップ家の血を引く女性か、あるいは機体自身が選んだ乗り手でなければ使用できない。
だからこそキーシップ家の女は代々巨鎧兵騎の乗り手――操騎手となる鍛錬をつむし、直系の女が一人しかいない時は、守護双機が認めてくれる子供を養子に取ったりするワケで。
実際、クシャーエナは私にとっては叔父の娘――つまりは従姉妹にあたる。
それでも、姉妹のように育ってきたので、私たちはお互いに姉妹のように思い合っていて、仲も悪くない。
私の両親が早くに亡くなってしまい、クシャーエナの親である叔父夫婦が当主になって以降、まるで私の方が養子のような扱いを受けている。
その面に関しては、昔から思うところはあるけど、言っても詮無きことだ。
「守護騎士としての腕前はクシャーエナもそう変わらぬほどになっているそうだな? ならば、お前は不要だと思わないか?」
もはや「は?」と聞き返す気力も起きない。
私は完全に呆れてしまっているからだ。
まぁ表情はあまり動いていないだろうから、殿下から見れば無反応に感じるかも知れないが。
「我が国は、他の国に比べて大きさ問わず魔獣の出現率が多いだけでなく、厄災獣という特異体も出現します。
そして厄災獣に対してまともに対抗できるのは、今のところ守護騎士と呼ばれる私たち姉妹のみとなっているのはご存じのはずですが?」
他にも思うことはいっぱいあるけれど、言うべきことは言っておく。どこまで通用するかは不明だけど。
一応手段がないワケではない。でも正直なところ、それを実行する気概はヨーシュミール殿下も、それに従う騎士や兵士にも無いから言うだけ無駄だろう。
「それこそクシャーエナがいるなら問題ないだろう?
優秀な新型巨鎧兵騎の配備も行き渡っているから戦力的にも十分だ」
そもそも私たち姉妹……というか歴代の守護騎士は、対厄災獣用の特殊な魔術を習得しているからこそ守護騎士と呼ばれるのだけれど……。
この魔術自体が、守護双機というキーシップ家に伝わる巨鎧兵騎に認められた時に習得するのだ。
そういう意味でも、キーシップ家に与えられた役割はかなり重いと思っている。
だからこそ、周囲からどれだけ厳しいことを言われようとも、私は自分の役割を全うする為に戦ってきた。
それこそ、自分自身の感情や心を巨鎧兵騎よりも変化がないとか、氷よりも冷たいとか言われるくらいに押さえ込んで。
気がつけばそれが当たり前になって、自分でも時々、その皮肉をその通りだと感じてしまうこともあるくらいに。
まぁそれはともかく、だ。
殿下の言いたいことは何となく分かった。
「ようするに、婚約者を私から妹に変えたいというコトですか?」
回りくどい。素直に言ってくれればいいのに。
とはいえ、それが簡単に認められるワケではないはずだけど。
「ふん。お前でも多少は理解していたか」
「陛下の許可は?」
「もう随分と寝たきりの父上の許可など待てるワケないだろう? ちなみに、貴様の両親は喜んで承認してくれたぞ」
そりゃあまぁ、あの両親は私のことを嫌いみたいだし、そうなるだろうけれど。
「分かりました。婚約の件、受け入れましょう」
「ああ、それと――お前には隣国ハイセニアに行って貰う」
このタイミングで……?
「それは、守護騎士としての任務ですか?」
「いいや。そもそも、お前はもう守護騎士としての仕事はしなくていい。解任だ」
「…………」
ああ――全く、普段は行動も言動も、合理性のカケラも無いことばかりだというのに。
「ハイセニアが腕利きの操騎手を求めていたようでな。
解任され暇を持て余している元守護騎士がいるから、相応の金で売ると言ったら乗ってきた」
これは、両親もグルね。
最初から私を排除して、クシャーエナを持ち上げる気だ。
そして、今から私がどう動こうともどうにもならない。
すでに支払いが済んでいるのであれば、私に拒否権などはない。
「……わかりました。帰って荷物を纏めてきます」
「必要ない」
「どういうコトですか?」
「そろそろ、城の前に手配しておいた馬車が来るはずだ」
どうしてこの手際の良さが、普段の仕事や、通常業務で発揮できないのだろうか。
「お前はそれに乗ってハイセニアへ行くがいい」
「……かしこまりました」
どうにもならない。
呼び出された時点で、全てが決まっていたのだろう。
奴隷でもない私を商品として、そんな人身売買のようなことが許されて良いはずがない――そんな正論を言ったところで無意味だ。
「一つ、お伺いしたいのですが」
「なんだ?」
「クシャーエナはこのコトを知っているのですか?」
訊ねると、殿下は楽しそうに笑みを浮かべた。
「いいや。まだ何も言っていない。
プロポーズをするなら、サプライズというやつの方がいいのだろう?」
こういうサプライズは不要だと思うのだけど、どうせ言っても仕方ないのだから、何も言わない。
「そうですか。では失礼します」」
一礼し、部屋をあとにする。
正直なところ、この国への未練のようなものはなく。
守護騎士としての仕事も、自分が思っているほど未練は湧かず。
ただこの胸に湧く未練に近い感情が何であるかといえば……
妹のクシャーエナのこと。
こんな王子に言い寄られながら、どれだけがんばっても大した感謝もされない守護騎士という仕事をしなければならないのは大変だなぁ……とか。
あの子に会う機会がなくなるのは嫌だなぁ……とか。
そういう、妹への思いだけだった。
準備が出来次第、次話を投稿します!