9 野外訓練ですわ!
――レイル学園にサラが編入してから、1ヶ月が経過した。その間、平日は夜にアリスと訓練をし、休日はソフィアと一緒に冒険者として、小遣い稼ぎをしていた。
本当は、自分で冒険者のランクを上げなければならないが、サラと一緒に活動するために、ソフィアがマークを連れて、冒険者ギルドのギルドマスターに直談判してくれたおかげで、サラはソフィアと同じAランクとなっていた。
どうやら、マークは元々、レイル冒険者ギルドのギルドマスターと一緒に活動していたSランク冒険者であったようだ。特例であるため、ギルドマスターは渋っていたが、『だったら、一回、サラとお前が勝負をしてみろ!』というマークの言葉によって、サラとギルドマスターは試合をすることになった。
結果、相当、苦戦したがギリギリでサラが勝利し、無事にAランクになることが出来た。マークは良い先生だなと、今回の一件でサラは思った。そして、ソフィアと一緒に活動しているため、どんどんと貯金が貯まっていったので、サラは少し金銭的な余裕が出来ていた。
レイル学園で、そのような日々を過ごしていると、野外訓練が行われる時期となっていた。野外訓練は、2泊3日の日程で行われる訓練であった。場所は、アトラス王国の南部にあるベオン山脈に作られたベオン訓練場であった。また、これは、魔法科と騎士科の合同訓練であり、その二つの科の生徒達は協力して訓練する必要があると、出発前にマークが言っていた。
「やっと着きましたの!」
4組の生徒達が押しこまれていた馬車から、サラは降りると、腕を伸ばした。レイル学園からは、馬車で移動していたが、どう考えても乗りこむ人数に対して、馬車が小さかったため、サラは生徒達に押しつぶされながら我慢していた。
「お前ら、さっさと降りて、天幕を設営しろ!」
マークの声を聞いた4組の生徒達は急いで、天幕を設営していた。この野外訓練での寝る場所は天幕であり、食事も自分達で食材を調達し、それを料理して、食べなければならなかった。4組の生徒達は、天幕の設営が終わると、訓練を始めた。
内容は、二人一組で行う実戦形式の訓練であった。その際に使うのは、刃が潰してある剣であった。そのため、木剣と比べ危険であり、生徒達も慎重に扱っていた。
「サラ! 一緒に組もう!」
「分かりましたの!」
ソフィアがサラに話しかけてきた。他の生徒達も、それぞれ組を作っているようであった。4組の中でまともに、剣の訓練の相手になるのはソフィアしかいなかったため、サラは返事をすると、訓練を開始した。
ガン、ガンと高速でソフィアとサラの剣が当たる音が周りに響いていた。周りにいた生徒達は、二人があまりにも高速で剣をぶつけあっているので、少し引いていた。
(やっぱり、ソフィアの剣の斬撃は重いですの!)
サラはソフィアの長身から繰り出される剣を受けながら、そう思った。アリスの剣の斬撃よりも、ソフィアの剣の斬撃の方が重いとサラは感じていた。
(ただ、雑ですの!)
サラはそう思うと、ソフィアの剣を受け流し、反撃を始めた。ソフィアは、サラの攻撃を受けるので、精一杯になっていた。ソフィアの剣の斬撃は重いが、相手の急所を的確に狙っている訳ではないので、必殺の一撃とは言えなかった。
これが、アリスであれば、ソフィアよりも剣の斬撃は軽いが、全てが必殺の一撃であり、なおかつ、尋常ではない速度で、連続攻撃をしてくるので、防ぐのは難しかった。そして、何とか、ソフィアがサラの剣を押し返し、距離をとった。
「いや、サラは強いね! サラを教えているアリスさんも強いんだろうな!」
「ヤバいくらい強いですの! どうすれば、勝てるかがまったく思いつきませんの!」
「それじゃ、サラ、訓練の続きを始めようか!」
「はいですの!」
サラが返事をすると、ソフィアが突っこんできた。二人はそのまま、午前中が終わるまで訓練を続けた。
――午前中の訓練が終わり、午後となった。午後は、魔法科の生徒達と合流し、騎士科二人、魔法科一人の計三人一組で、食料を調達して、料理をするという訓練であった。
「それじゃ。お前ら! さっさと、三人一組を作って、食料を調達してこい! あと、魔物が出ることがあるから、ちゃんとした剣を持っていけよ!」
マークがそう叫ぶと、騎士科の生徒達は、急いで、近くにいる魔法科の生徒を勧誘しにいった。サラとソフィアは、そんな騎士科の生徒達を眺めていた。
「……ソフィア、魔法科に知り合いっていますの?」
「いや、いないな」
「私もですわ……どうしましょう……」
魔法を使えること自体が珍しいため、貴族で魔法が使える人間というのは限られていた。そのため、レイル学園の魔法科には、身分を問わず、魔法が使える魔法師が王国中から集められていた。他の生徒達は、事前に声をかけたりしているのか、次々と魔法科の生徒達と三人一組を作っていた。
とうとう、魔法科の生徒は一人だけになってしまった。この状況で、三人一組を作っていないのはサラとソフィアだけであった。
「……ソフィア、最後まで残りましたの」
「……しょうがない気がするな。とりあえず、魔法科で最後に残ったやつを誘うか……」
サラとソフィアは、一人だけ残っている魔法科の生徒を誘うため、話しかけた。
「……私はソフィア・グレーンと言うんだ。私達と組まないかい?」
「…………」
おかっぱで背が小さい少女が黙ったまま、コクリと頷いた。どうやら、サラとソフィアの組に参加してくれるようであった。
「……ワタシクは、サラ・ホープと言いますの。お名前を教えて下さいですわ?」
「……シーラ」
「そう、シーラと言いますのね! よろしくですわ!」
「……よろしく」
シーラは、小さい声でそう言った。こうして、無事にサラとソフィアは、三人一組を作ることが出来た。
サラとソフィアとシーラは、ベオン山脈の中を歩き回っていた。その道中、サラがシーラのことを色々と聞いた。シーラは平民であり、小さい頃に魔法適正を計る検査で魔法が使えると判断されたため、レイル学園魔法科に特待生として、入学しているようであった。
特待生は、学費などを免除されるため、平民でもレイル学園に通うことが出来る制度であるが、魔法科以外の他の科には、特待生が存在しなかった。あと、シーラは少し内気な性格のようであった。だが、慣れてきたのか、普通にサラやソフィアと話しながら、歩いていた。
そして、サラは山菜を採取したり、川で魚を釣っていた。ソフィアとシーラは正直言って、戦力外になっていた。サラがなぜ、このような行動が出来るかというと、アリスとの訓練で山に行った際に自力で生き延びなければならなかったためである。
そして、山菜も魚も、ある程度手に入れることが出来たので、サラ達は、ベオン訓練場の天幕に戻ろうと歩いていた。その道中、明らかに、普通の動物とは違う生物に出くわした。
「おい、サラ! 魔物だぞ! シーラも戦闘準備をしろ!」
「はいですの!」
サラは山菜と魚が入ったかごを地面に置くと、剣を構えた。魔物は、普通の動物よりもはるかに大きく、狂暴な生物であった。そのため、ひとたび、人里に現れると、甚大な被害が発生するのが常であった。
通常、魔物を倒すには、10人以上の人間が必要であるというのが、冒険者の常識であった。それほど、危険な存在であった。サラはアリスと山で魔物を何回か倒したことがあるため、落ち着いていた。目の前には、猪を巨大化させたような魔物がサラ達を見ていた。全長は3mくらいありそうだと、サラは思った。
ソフィアもサラ同様、魔物に慣れているのか、落ち着いて剣を構えていた。シーラはというと、魔法師が攻撃する際に使う杖を、魔物に向けていた。
「おい、来るぞ! 気をつけろ!」
魔物がサラ達に突撃をしてきた。ソフィアは叫びながら、魔物の攻撃を回避しているようであった。魔物の攻撃を避けることが出来る体勢をとっていたサラがシーラの方を見ると、杖を構えたままであった。
「シーラ、避けて下さいまし!」
魔物はシーラの方に突撃をしていた。サラが叫んだ頃には、もう、シーラは避けることが出来そうになかった。このままでは、シーラがやられてしまうと考えたサラとソフィアは駆け出した。だが、間に合いそうになかった。
「……氷槍」
そのような状況で、シーラは小さい声でそう言うと、シーラの周囲に2mはあろうかという魔法で出来た氷の槍が、何本も現れ、そのまま突撃してくる魔物に向かって、飛んでいった。
「ぐほおおお!」
魔物の体に何本もの氷の槍が突き刺さり、それが魔物の体を貫通し地面に刺さっているのか、ザリザリと地面を削りながら、魔物が動きを止めた。最後に、野太い声を上げながら、魔物は地面に倒れた。
「す、凄いですの!」
サラはそう言うと、シーラに駆け寄った。シーラは何事もなかったかのような顔をしていた。
「シーラ、お前、普通に強いな!」
「……そうですか?」
駆け寄って来たソフィアがシーラを褒めると、シーラはキョトンとしていた。シーラにとっては、別に普通のことであったようだ。そして、サラ達はベオン訓練場に戻ると、持って帰って来ることが出来ないので、そのまま魔物を倒して放置したことをマークに伝えた。
マークはそれを聞くと、まともな食料を調達出来なかった生徒達を連れて、ベオン山脈に入っていった。数時間後、マークと生徒達が帰って来た。生徒達は魔物を解体して、手に入れたと思われるお肉を笑顔で持っていた。
サラ達はマークから倒した魔物の牙などの素材をもらった。正直、素材より、魔物のお肉の方が欲しかったが、サラ達は黙って、素材をもらった。もらった素材は、全て、シーラに渡した。魔物を倒したのがシーラであったためである。
シーラはいらなそうに、素材をカバンの中に入れていた。あとで、素材は冒険者ギルドで売るようであった。そして、夕食を食べたシーラは、魔法科の天幕がある方向へ歩いていった。サラとソフィアは、自分達が設営した天幕で夜を過ごした。