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8 冒険者ですの!

 ――学級対抗戦が終わってから、3時間が経過した。サラはちょうど、職員室から出て来たところであった。学級対抗戦は、サラが負けたため、2位となった。だが、今までの4組は常に学級対抗戦で4位であり、それに比べればはるかに良い成績であったため、サラを責める者はいなかった。


 だが、サラは金曜日の終礼が終わった後、職員室に呼び出された。そして、マークの説教を受けることになった。内容は、グレン王子との試合で、呆けていて、負けたことであった。マークの説教を聞きながら、憧れのグレン王子と戦うなんて無理だから、しょうがないでしょと、サラは思っていた。


 そして、マークの説教から解放されたサラは、ソフィアと合流すると、食堂へ行き、夕食を食べた。その後、ソフィアと別れ、アリスとともに、いつも通りレイル学園の外れの林で訓練を始めた。『お嬢様。今日のグレン王子との試合は何ですか? これは、もっと厳しい訓練が必要ですね』というアリスの一言によって、いつもより、サラはアリスにボコボコにされた。


「ああああああああ! もう、本当に痛いですのおおおお!」


 今日も、サラの叫びが誰もいない林に響いていた。






 ――次の日の朝。今日は、休日であったため、サラはよだれをたらしながら、ベッドの上でぐっすりと眠っていた。昨日の夜は、いつも以上にボコボコにされたため、訓練から帰って来た後はすぐに寝た。そんなサラを、ゴミを見るような目で、アリスは見ていた。


「お嬢様。朝ですよ。さぁ、訓練を始めましょう」


 アリスはサラが寝ているベッドごと、ひっくり返した。当然、サラはベッドの下敷きになっていた。


「……今日は寝かせて欲しいですの」


 サラがベッドの下敷きになったまま、アリスの方に顔を向けた。そんなサラをアリスは、冷めた目で見ていた。


「何を言っておられるのですか? そんなことでは、また、グレン王子に負けてしまいますよ?」


「別にグレン王子に負けても、良いんですの!」


「意味が分からないことを言っていないで、行きますよ」


 アリスはベッドの下敷きになっているサラの腕を引っ張って、そのまま引き抜こうとした。そうすると、当然、ベッドの下敷きになっているサラの金髪の巻き髪も引っ張られ、ブチブチと嫌な音を立てていた。


「あああああ! 私のチャームポイントの巻き髪が千切れますの! 引っ張るのを止めて下さいまし!」


「別に髪の毛が千切れても良いではないですか。どうせ、生えてきますし」


「そういう問題ではないですの!」


 そんなことを言い合っていると、突然、サラの部屋の扉が叩かれた。アリスはサラの腕を引っ張るのを止めると、扉を開けた。


「お! サラ、ちょっと、一緒に小遣い稼ぎに行こうって、取り込み中か? じゃあ、帰るわ!」


 扉を開けると、ソフィアがいた。だが、サラがベッドの下敷きになっている状態であることを確認すると、そのまま、背を後ろに向けて、帰ろうとした。


「待って下さいまし! 待って下さいまし!」


 もしかしたら、アリスとの訓練を行わなくても済むかもしれないと考えたサラは急いで、ベッドの下敷きになっている状態から脱すると、ソフィアの下へ駆け寄った。


「……ふぅ。それで、何か、ご用ですの?」


「いや、忙しそうだったらいいんだけど。ちょっと、サラと一緒に小遣い稼ぎに行こうと思ってさ。だから、誘いに来たんだけど」


「小遣い稼ぎですの?」


 レイル学園は食堂が無料であり、学費も一括で納めているので、生活していく分には問題がなかった。だが、何か欲しい物がある場合は、お金が必要であった。また、休日に外で遊ぶ場合も、同様であった。


 レイル学園に通う貴族のほとんどは、実家から仕送りをもらっているようであったが、サラはもらっていなかったため、少々、所持金が心許なかった。


「そう、小遣い稼ぎ。私と一緒に来れば、お金が稼げるよ」


「行きますの!」


 サラにとって、アリスとの訓練をしない理由になり、所持金も増やせるため、一石二鳥の提案であった。そして、恐る恐る、サラはアリスの方に顔を向けた。


「……はぁ。しょうがありませんね。お嬢様の所持金も心許ないですし、行っても大丈夫ですよ」


「やったぁですの!」


 こうして、サラとソフィアは、レイル学園を出発した。






 ――レイル学園を出発して、20分が経過していた。サラとソフィアは、大きな建物の前に到着していた。その建物には、冒険者らしき人物が出入りをしていた。


「もしかして、小遣い稼ぎって、冒険者になることですの?」


「そう。まぁ、それは置いといて……何で、アリスさんがついて来てるんだ?」


 サラとソフィアの後ろには、メイド服姿のアリスが立っていた。サラとソフィアは、動きやすい服装に着替えていたので、アリスだけが周囲から浮いていた。


「私のことは気になさらないで下さい」


「……まぁ、強そうなのには違いないし、いいか」


 ソフィアは、時々、アリスとの訓練から帰って来たサラが、ボコボコにされた状態で女子寮を歩いている姿を見かけていた。そのため、アリスは強いのだろうなと思っていた。そして、三人は大きな建物の中に入っていった。


 建物の中は、冒険者で賑わっていた。その中には、先日、アリスに放り投げられていた男もいた。その男は、アリスの姿を見ると、すぐに建物を出ていってしまった。


「それじゃ、サラ! 受付で冒険者登録をしてきてくれ! アリスさんも分け前が欲しいなら、サラと一緒に登録した方が良いぞ!」


「いえ、分け前はいりません。お嬢様とソフィア様で分け合って下さい。それに、私は冒険者ギルドに登録していますので、登録の必要はありません」


「……どこの世界に、冒険者ギルドに登録しているメイドがいますの」


「ここにいますが?」


 ボソッとサラがつぶやいた言葉が聞こえたのか、アリスがサラの方を向いて、そう言っていた。


「……はぁ。もういいですの」


 サラはため息をついて、冒険者ギルドの受付へ向かった。受付は混んでいるようで、サラが並んでから、20分後に、やっとサラの番が来た。


「レイル冒険者ギルドへようこそ! 今日は、どのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしたいんですの!」


「はい、冒険者登録ですね! それでは、この紙に必要事項を記入して下さい!」


「分かりましたわ!」


 そうして、サラが必要事項を記入し、紙を提出してから、しばらく待つと、木で出来た身分証明書をもらった。そこには、個人情報の他に、右上にEと書かれていた。


「サラ様、冒険者のランクはご存じですか?」


 受付の女性が身分証を渡した後、サラに聞いた。もちろん、冒険者になるのは初めてだったので、分からなかった。


「分かりませんの! だから、教えて下さいまし!」


「分かりました!」


 受付の女性はそう言うと、サラに説明を始めた。冒険者ランクというのは、依頼をこなせば上がっていくようであり、最低はEで最高はSSであった。また、依頼には、ランクが設定されており、そのランク以上でなければ、受けることが出来ないようであった。


 もちろん、サラは冒険者になりたてであったので、冒険者のランクはEであった。ランクが上がっていくにつれて、冒険者は少なくなり、SSに至っては、ほとんどいないようであった。そして、サラは説明が終わると、ソフィアとアリスの下に帰って来た。


「冒険者登録が終わりましたの!」


「それじゃ、依頼を見に行くか!」


 ソフィアは、椅子から立ち上がると、依頼の紙が留めてある木の板の前まで移動した。サラもソフィアの後ろをついていった。


「さて、どれにしようかな?」


 ソフィアが依頼を物色している間、サラは暇だったので、どんな依頼が確認していた。


(ほとんど、Dランク以上ですの……Eランクは薬草集めとかしかないみたいですの……)


 依頼はほとんどが、Dランク以上であり、中にはBやAのランクが必要な依頼もあったが、ほぼなかった。今のサラのランクだと、薬草集めや迷子の子犬の捜索などの依頼しか受けられなかった。しかも、Eランクの依頼は、500ゴールドくらいが相場であったため、小遣い稼ぎにすらならなかった。


「お! これなんて、良いんじゃないか?」


 ソフィアはそう言うと、依頼の紙をサラに見せた。紙には、ランク制限なしと大きく書かれていたため、サラでも受けられそうであった。


「……どれどれですの……違法冒険者の捕縛ですの? これって、何をするんですの?」


「冒険者のほとんどは、ちゃんと冒険者ギルドの依頼を通して魔物の討伐とかを行うんだけどさ、中には、冒険者ギルドに黙って、やっちゃうやつもいるんだよ。まぁ、冒険者ギルドで依頼を受けると、手数料が抜かれるからね。それが、嫌なんだろう。そういったやつは、冒険者ギルドから指名手配されているんだよ。それを、捕まえるのが、この依頼の内容ってこと!」


「分かりましたの! それで、違法冒険者はどこにいますの?」


「いや、多分、王都レイルにいると思うぞ! 人が大勢いるから隠れるのにはもってこいだからな、王都は!」


「そうなんですの! それじゃ、さっそく、依頼を受けますの!」


「そうだな!」


 サラとソフィアは、受付に行き、手続きをしようとした。その後ろには、アリスもいた。


「ソフィア様とサラ様ですね……後ろの方は、どうされますか? 手続きをされないまま、違法冒険者に攻撃をしますと、犯罪になってしまいますが?」


「それはマズいな! それじゃ。ソフィアさんも手続きをしてくれ!」


「……しょうがありませんね」


 アリスは嫌そうな顔でそう言った。そして、依頼を受けるための手続きが始まった。その際に、身分証明書を三人は提出した。アリスが身分証明書を渡す姿を見ていると、チラッとアリスの身分証が、サラには見えた。


(……SSって見えた気がしますけど、気のせいですわよね)


 だが、受付の女性がアリスの身分証明書を確認すると、声には出していなかったが、驚いた顔をしていたので、サラの疑問は確信に変わった。アリスは、ほとんど存在しない、SSランク冒険者のようであった。


(……アリスは、いったい何者ですの?)


 サラがそんなことを思っていると、手続きが終わったようであった。そして、三人は冒険者ギルドから出発した。






 冒険者ギルドを出発した三人は、王都レイルのスラム街を歩いていた。王都レイルは、貴族が住む区域、平民が住む区域、それとスラム街と大きく三つの区域に別れていた。


(もう、見るからに治安が悪そうですの!)


 サラはそう思うと、周囲を見渡した。サラとソフィアとアリスが珍しいのか、三人は見るからにヒャッハーと言いそうな人達の注目の的になっていた。そして、そんなスラム街を歩いていると、案の定、男達に囲まれた。


「……アリス。この人達は良いヒャッハーですの……?」


「そんな訳ありませんね。悪いヒャッハーですよ」


「……そうですわよね」


 サラはビビりながら、周囲を確認した。人数は10人以上いるようであり、それぞれが思い思いの得物を持っていた。ちなみに、サラも冒険者ギルドで買った剣(5000ゴールド)を持っていた。サラのお財布には厳しい値段だったが、武器を持っていなかったので、泣く泣く、購入した。


「おう! 何を話していやがる! お前ら、どうせ、冒険者ギルドで依頼を受けたやつらだろう!? たった三人だけとは、舐められたものだぜ! お前ら、やっちまえ!」


「ヒャッハー!」


 男達は、三人に襲いかかった。かなり連携が出来ていたので、そこそこ強さそうだと思った。だが、サラとソフィアの敵ではなく、瞬く間に、無力化していった。サラがビビりながら戦っていたのは、どうやら、ソフィアにはバレていないようであった。


「くそ! 何だ、こいつら!?」


 男達の頭目と思われる男はそう言うと、逃げ出した。だが、その行く手にはアリスが立っていた。


「邪魔だ!」


 男は武器を持っていないアリスに向かって、剣で斬りかかった。だが、アリスは剣を握っている男の腕を片手つかむと、そのまま握りつぶした。ボキという骨を折る音がサラの耳に聞こえていた。


「いや、腕を握りつぶすって、どんな握力してるんだよ……」


 その光景に、ソフィアは少し引いていた。こうして、サラはお小遣いを手に入れることが出来た。

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