7 学級対抗戦ですわ!
1組と2組の試合が終わり、次は3組と4組の試合の番になった。ぞろぞろと闘技場の試合を行う会場に、3組と4組の生徒達が集まっていた。先ほど試合を行った1組と2組の生徒達は、観客席に移動し、観戦の準備を行っているようであった。
「よし! 僕の剣の冴えを見せる時が来たようだね!」
サラの目の前で、復活したイアンが張り切っていた。他の面々も、『やってやるぞ!』、『今回こそビリ脱出だ!』などと、気合は十分のようであった。というか、ずっとビリなのかなとサラは思った。
「ソフィア、もしかして、4組ってずっと負け続けていますの?」
屈伸をしていたソフィアにサラは尋ねた。ソフィアは屈伸を止めると、木剣を肩に担いだ。
「そうだ! 中等部の1年の時から、学級対抗戦は全敗している! まぁ、いつもイアンが負けていたのが原因だけどな! 今回は、1勝でも出来るように頑張ろう!」
「はいですわ!」
ソフィアの声に元気づけられたサラは、大きな声で返事をした。
「お前ら、集まったようだな! それでは、3組と4組の学級対抗戦を始める!」
マークのかけ声とともに、試合が始まった。サラは今更気がついたが、どうやら試合の順番は、クラス内での強さの順になっているようであった。だから、同じような強さの相手と戦うことになり、結果として、接戦になるんだなとサラは思った。そうこうしているうちに、3組と4組の試合がほとんど終わった。
ここまでの試合の結果、お互いの勝敗数が同じであり、残りの三つの試合で学級対抗戦の勝敗が決まるという状況であった。その大事な試合の始めに、4組から出場するのは、ソフィアであった。
「ソフィア、頑張れですの!」
「まぁ、普通に戦ってくるよ」
ソフィアは手を振る代わりに木剣を振りながら、試合の会場へと向かった。サラが相手を見ると、既に木剣を構えて、ソフィアを待っていた。そして、ソフィアが試合会場に到着し、木剣を構えると、審判であるマークが口を開いた。
「それでは、試合始め!」
マークの声とともに、ソフィアが地面を踏みこんだ。バンという音とともに、地面が陥没していた。ソフィアはそのまま、一直線に相手に向かうと、上段から剣を振るった。ブンという重い音がサラの耳には聞こえた。
ソフィアの踏みこみの速度が速かったため、相手は何とか、剣を横にして防御するので、精一杯であったようだ。ソフィアの上段からの一撃を受けきれず、相手は木剣を弾き飛ばされていた。
「勝者、ソフィア・グレーン!」
マークの声が闘技場に響いた。その瞬間、4組の生徒達は歓声を上げた。対して、3組の生徒達は、負けたため、意気消沈しているようであった。
「お疲れ様ですの!」
「いや、意外といけたわ!」
帰って来たソフィアに、サラは労いの言葉をかけた。ソフィアは、勝って喜んでいるという訳でもなく、いつも通りの様子であった。そんなソフィアに、サラは疑問に思ったことを聞いた。
「というか、イアンよりソフィアの方が圧倒的に強いですの! なぜ、学級委員長をやっていないんですの?」
「いや、面倒だったから、今までイアンにわざと負けていたんだよ」
「そうなんですの! これからは、ちゃんと、やって下さいまし!」
「もちろん! サラが学級委員長になってくれたおかげで、私が学級委員長になる可能性はなくなったからな! これからは、手加減しないで、ちゃんと戦うよ!」
「よろしくですの!」
サラとソフィアがそのような会話をしていると、次はイアンが試合会場に向かっていた。
「イアン、頑張れですの!」
「この僕を誰だと思っている! イアン・クロフォードだぞ! 負ける訳がない!」
サラの声援にそう答え、イアンが木剣を構えた。イアンが自信家であるというのは、短い期間で分かったので、サラはそれ以上、何も言わなかった。他の4組の生徒達も、イアンが勝てば、久しぶりの4組の勝利であったので、全力で応援していた。
「それでは、試合始め!」
マークのかけ声でイアンの試合が始まった。さすがに、最後の方なので、相手も多少は強いようであった。必死なイアンと相手が、木剣をぶつけ合う音が闘技場に響いていた。そして、イアンの試合が開始して、30分が経過していた。
サラが二人の様子を確認すると、イアンと相手は、どちらも肩で息をしていた。中々、勝負がつかず、長丁場となっていた。
「ちなみに、イアンって、いつもこんな感じですの?」
長丁場に少し飽きてきたサラがソフィアに質問した。ソフィアも飽きているようで、あくびをした後、答えてくれた。
「そうだな。しかも、大体、最後はイアンの体力が尽きて負けているな」
サラがソフィアの言葉を聞いていると、試合に変化が訪れた。体力が尽きたのか、明らかに、イアンの動きが悪くなっていた。そして、時間を置かずに、イアンが木剣を弾かれ負けてしまった。
イアンに勝利した相手は、手を上げて喜んでいた。3組の生徒達も、歓声を上げて喜んでいた。逆に、4組の生徒達はお通夜のようになっていた。
「皆、済まない……」
帰って来たイアンはそう言うと、倒れてしまった。そのまま、担架を持ってきた教師に運ばれていった。
「4組の生徒同士で戦う分には強いんだけどな……いかんせん、イアンは体力がなさ過ぎる。だから、粘られて負けるんだよ」
担架に乗せられ運ばれていったイアンの姿を見ながら、ソフィアがボソッとつぶやいた。もしかすると、クロフォード流剣術奥義、兜割りと叫んでいた技も、短期決戦で試合を終わらせるために、覚えたのかもしれないなとサラは思った。
そして、とうとう、サラの出番となった。3組の生徒達も4組の生徒達も、これで勝負が決まるので、応援の声に熱が入っていた。サラは試合会場に歩いていくと、木剣を構えた。相手は、3組の学級委員長であり、イアンよりは強そうだとサラは思った。
(観客席でグレン王子が見てますの! それに、私が勝たないと4組が負けますの!)
サラは気合が入っていた。そして、相手が木剣を構えると、二人の準備が整ったと判断したマークは、口を開いた。
「それでは、試合始め!」
マークの声とともに、相手が突っ込んできた。どうやら、一撃で終わらせるつもりのようであった。相手は木剣を横なぎに振っていた。サラはそれを木剣で受け流すと、クルリと一回転し、木剣を下段から振るった。
その結果、パンという乾いた音とともに、相手の剣は弾き飛ばされていた。何が起こったのか、良く分かっていない相手は、木剣を弾き飛ばされ、呆然としていた。
「勝者、サラ・ホープ!」
マークが言葉を言い終わると、4組の生徒達が歓声を上げながら、サラの周りに駆け寄って来た。そして、サラはされるがまま、胴上げをされていた。4組の生徒達が喜んでいるので、サラも勝って良かったと思った。
――次の日。今日も、学級対抗戦が昨日に引き続き、行われていた。今日は、負けたクラスと勝ったクラスが試合を行うようであった。午前中は1組と3組が試合を行い、午後は2組と4組が試合を行うという日程になっていた。
昨日、初めて4組が他のクラスに勝利したので、終礼でのマークは機嫌が良かった。だが、終礼が終わった後、ソフィアは職員室に呼び出されて、2時間、説教をされたようであった。内容は、中等部から今まで、手加減をしていたことに対して、説教をされたようであった。
説教が終わった後、サラと一緒に夕食に行ったが、『いや~、参った、参った! あんなに怒られるとは思わなかった!』と、元気そうな様子で夕食を食べていた。今日も、ソフィアは、普段と変わらない様子であった。
そして、午前中の試合が始まった。昨日と同様に、グレンが登場すると、闘技場の観客席は、大歓声に包まれた。サラも、『グレン王子、頑張ってくださいまし!』と、叫んでいた。そんなサラが普通科の観客席に目を移すと、普通科の女子生徒達が黄色い歓声を上げていた。
やはり、グレン王子は女子生徒達に人気があるのだなと再確認したサラは、普通科の女子生徒達の声に負けないように、声を張り上げていた。その必死さに、4組の生徒達は少し引いていた。そして、昨日と同様に、グレンが相手を瞬殺して、1組が勝利していた。
昨日はグレン王子を応援するので、精一杯であったが、よくよくグレンを観察をしたら、普通に強そうだということが分かった。どのくらい強いかは、実際に戦ってみないと分からないが、少なくともイアンよりは圧倒的に強いだろうなと思った。
「ソフィア! グレン王子って、どのくらい強いんですの?」
1組と3組が闘技場から退場している中、適当に拍手をしていたソフィアに聞いた。
「グレン王子? 普通に強いと思うよ! 中等部からグレン王子を見ているけど、負けた姿を見たことがないな! 仮に、私が本気でグレン王子と戦っても、勝てるかどうかは、微妙だな!」
「そんなに、強いんですのね! やっぱり、グレン王子は凄いですわ!」
サラが頬を染めながら、顔に手を当て、クネクネと動いているサラを、冷めた目でソフィアは見ていた。
「……もしかしなくても、サラはグレン王子のこと好きだろ?」
「もう、恥ずかしいから、言わせないで欲しいんですの!」
「……まぁ、良いけどさ。サラが誰を好きになろうと、私には関係がないからね。その様子だと、女子生徒がほとんどいないレイル学園の騎士科に編入してきたのも、グレン王子が目当てだったんだろう?」
「そうですの! グレン王子に近づくためなら、どんなことでも頑張れますの!」
「……サラは凄いな」
半ば呆れたような声でソフィアは、サラにそう言った。そして、午前中が終了し、昼食を食べ終えると、午後の試合が始まった。2組と4組の試合も激戦となり、サラの出番もありそうであった。
「今日こそ、我が剣の冴えを見せよう!」
イアンは体力が回復したようで、今日も元気であった。だが、ソフィアの方が強いことが判明したので、4組の強さの順位は、上からサラ、ソフィア、イアンになっていた。そんな訳で、イアンはソフィアの前に、試合をすることになった。
「それでは、始め!」
マークのかけ声とともに、試合が始まった。今回は、イアンが優勢であり、粘られることなく相手を倒していた。次に出場したソフィアも、相手を一撃で戦闘不能にしたため、4組の勝利は確定した。一応、最後にサラも出場し、相手を倒したので、イアンかソフィアが負けても、4組は勝利することが可能であった。
こうして、2日目も4組は勝利をして終えることが出来た。終礼でマークが大喜びしていたのが、サラには印象的であった。
――学級対抗戦の最終日となった。今日は、1組と4組の試合が午後、2組と3組の試合が午前中に予定されていた。4組の生徒達は、午前中の試合を観戦するため、観客席にいた。そして、2組と3組の試合が始まった。
やはり、この試合も激戦となったが、最終的に勝利したのは3組であった。3組の生徒達が喜びを爆発させている様子が観客席から見えた。逆に負けた2組の生徒達は、ガックリと肩を落としていた。これで、学級対抗戦の3位が3組で、4位が2組となった。
そして、とうとう、1組と4組の試合が始まろうとしていた。これに勝った方が、学級対抗戦で優勝ということになるため、4組の生徒達はいつにも増して、緊張していた。
「それでは、1組と4組の学級対抗戦を始める!」
審判であるマークの声が闘技場に響き、試合が始まった。やはり、他の組に比べ、1組は強いようであり、4組の生徒達も善戦したが、サラとソフィアとイアンの三人が勝たないといけない状況まで、追いこまれた。
「イアン、待ちますの」
「何だい、サラ?」
試合会場に向かうイアンをサラは呼び止めると、イアンの耳に顔を近づけ、耳打ちをした。
「本当かい?」
「絶対、大丈夫ですの!」
疑うイアンの背をサラは押すと、試合会場に向かわせた。そして、マークの声で試合が始まった。イアンはいつもであれば、自分から斬りかかっていたが、今回はそうしなかった。そして、相手の攻撃を受け流すと、返しの攻撃で相手の木剣を弾き飛ばした。
イアンの相手も驚いていたが、イアン自身も驚いていた。サラは、イアンの戦いを見ている中で、イアンは自分から攻撃をするのではなく、相手の攻撃を受けてから攻撃をする、いわゆる後の先であることを見抜いていた。
そのため、相手の攻撃を受け流して、その後、攻撃しろとイアンに耳打ちしたのであった。結果は、サラの予想通り、上手くいったようであった。次はソフィアであったが、上段からの一撃で相手を戦闘不能にしていた。
そして、とうとう、サラとグレンの戦いになった。
「サラ、よろしくね!」
「よ、よ、よろしくですの!」
実物のグレンを前にして、サラは緊張していた。そして、マークのかけ声で試合が始まった。だが、サラは緊張のあまり、頭が真っ白になっていた。
「え?」
試合が始まり、グレンの一撃にまったく反応出来なかったサラは、構えていた剣を弾き飛ばされていた。何が起こったか良く分からなかったサラは、間抜けな声を出してしまった。
「勝者、グレン・アトラス!」
マークの声が闘技場に響きわたった。こうして、サラは敗北し、4組は2位という結果で学級対抗戦を終えることになった。