6 決闘ですわ!
――朝礼が終わってから、20分後。闘技場で戦うことになったサラは、木剣を持っていた。観客席には、1年4組の生徒達が集まり、試合が始まるのを待っていた。サラの目の前には、木剣を持ったイアンがいた。
「それじゃ、俺が審判をするからな! ルールは、戦闘不能になるか、降参するかのどちらかだ! それぞれ、構え!」
マークの声に二人は反応すると、木剣を構えた。サラがイアンの様子を確認すると、自信に満ちた顔をしていた。
「僕は中等部の3年間、1年4組の学級委員長を務めていた! この意味が分かるか、編入生?」
「……? 分かりませんわ」
「それじゃ、これから、たっぷりと教えてあげるよ!」
(なんか、キモイですの!)
イアンの余裕がある笑顔を見て、サラはそう思った。無意識に、木剣を握る手に力が入っていた。
「言い合いは、それぐらいにしておけ! それでは、始め!」
「いくぞ、編入生!」
マークの試合開始の合図とともに、イアンが突っこんできた。サラは普通に反応すると、木剣で受け止めた。カンと木剣がぶつかる音が響いた。
「やるな、編入生! これなら、どうだ!」
イアンは少し後方に下がると、一気に間合いを詰め、上段から斬撃を放った。ピュウという音とともに、サラの頭上を目掛けてイアンの剣が振り下ろされていた。サラは剣を横に構えて防いだ。
「何だと!?」
サラがイアンの一撃を防ぐことは出来ないと思っていたのか、イアンは驚いていた。
(……そんなに、驚くことですの?)
サラは、イアンの表情を確認するとそう思った。もし、今の一撃をアリスにしていたら、即座に剣を弾き飛ばされて、その後、ボコボコにされる未来が簡単に想像出来た。
「くそ……! これなら、どうだ! クロフォード流剣術奥義、兜割り!」
何だか、技名を叫んで、イアンが上段から攻撃をしてきた。サラは、先ほどと同じように、剣を横にして防いだ。
「バカなああああ! そんなことがありえるのか!」
いきなりイアンが叫んだので、その声にサラはビックリした、サラにとっては、先ほどの一撃とイアンが兜割りと叫んで放った一撃の違いが分からなかった。
(……少し、アリスの気持ちが分かりましたの)
アリスがサラの攻撃を受ける時、たまに、面倒そうにしていたのをサラは思い出した。ちょうど、サラもイアンの攻撃を受けるのが、面倒になっていたので、少し、アリスの気持ちが分かった。
「クソ! クソ! クソおおおお!」
自暴自棄になったイアンががむしゃらに剣を振るって、攻撃をしてきた。サラは普通にイアンの攻撃を防いでいた。段々と、防ぐのも面倒になってきていた。
(……もう、終わらせますの)
サラは、イアンの剣を弾くと、体勢が崩れたイアンの胴体に横なぎに剣を振るった。ビュンという音とともに、イアンの一撃とは比べられないほど速い一撃がイアンの胴体に当たった。
「うわあああああああああああ!?」
サラの一撃を受けたイアンが、ボールを投げたかのように闘技場の壁に向かって、吹き飛んでいた。そして、バゴンという音とともに、壁に激突した。そのまま、イアンはピクリとも動かなかった。確認するまでもなく、サラの勝利であった。
「勝者、サラ・ホープ!」
マークは観客席に聞こえるように大きな声を出した。観客席からは、『良くやった!』、『スカッとしたぜ!』という声が聞こえてきた。
(……もしかして、イアンは嫌われていますの?)
サラはそんなことを思いながら、木剣をマークに返すと、闘技場の外に出ようと歩き出した。
サラが闘技場から、1年4組の教室に戻ると、生徒達に歓声で迎えられた。『最高だぜ、サラ!』、『よ! 新学級委員長!』などと、サラは生徒達に言われた。
「お前ら、騒ぐな! 授業を始めるぞ!」
マークが教室に入ってくると、1年4組の生徒達が自分の席に戻った。そして、午前中の授業が開始した。高等部に入って、最初の授業ということもあり、この1年間にどのような訓練が予定されているかの説明で午前中は終わった。
マークが午前の授業中に言っていたのだが、イアンは、多少の打ち身があるだけで、ピンピンしているようであった。イアンも私と一緒で体が頑丈なんだなと、サラは思った。既に、他の生徒達は昼食を食べるために、食堂へ向かったようであった。
「よっ! 昼食、一緒に食べないかい?」
午前中の授業が終わり、サラが椅子に座っていると話しかけられた。そちらの方に目を向けると、青い髪を後ろで束ねた長身の女性が、サラの近くにいた。
「い、行きますの!」
どうやら、サラは一人で食堂へ行かなくて、済んだようであった。サラは長身の女性と一緒に、食堂へ向かった。
「そういえば、名前を言ってなかったな! 私の名前は、ソフィア・グレーンって言うから、よろしくな!」
「ソフィアと言うんですのね! 覚えましたわ!」
食堂へ向かう道中、二人はそんな会話をしていた。そして、食堂に着くと、自分が食べられるだけ料理を皿に移すと、食堂に置いてある机に向かって座った。
「それにしても、サラは強いな!」
「そうなんですの?」
「いや、強い、強い! イアンがあんなに一方的に倒されるなんて見たことがないからね!」
サラは昼食を食べながら、ソフィアの顔を見た。どうやら、イアンはそこそこ強いという評価らしい。多分、ボブさんより弱いと思うけどなと思いながら、会話を続けた。
「それにしても、いきなり、学級委員長なんて、クラスの人の名前も覚えていないのに無理ですわ!」
「まぁ、それは、しゅうがないな。今週の水曜日から金曜日にかけて行われる学級対抗戦で、学級委員長同士が最後に戦うから、強い人でないとダメなんだ」
「学級対抗戦ですの?」
「まぁ、入ったばかりで分かる訳ないよな。学級対抗戦は、1年1組から1年4組の4クラスの騎士科の生徒が総当たりで戦って、最終的に勝った生徒の多い方がクラスとして勝利するというものだな」
「そうなんですわね。それで、各クラスの学級委員長が最後に戦うということなんですのね?」
「そうだな。騎士科は、各クラスごとに実力差がほとんどないから、一つでも勝ちたいんだよな。だから、学級委員長は大体、クラスで一番強いやつになることがほとんどだな」
「そうなんですのね」
二人はそんな会話をしながら、昼食を食べていた。そして、食べ終わると、教室に戻っていった。
二人が教室に戻ってから、数分後。マークが教室に入って来て、午後の授業が始まった。午後も、午前中に続いて、1年間にどのような訓練をするかという説明で終わった。サラとソフィアは、午後の授業が終わると、女子寮へ向かっていた。
どうやら、レイル学園の生徒は一日の授業が終わると、自由時間として、各々のやりたいことをするようだ。そのまま、寮に帰って寝る生徒もいれば、訓練場で武術の訓練をしている生徒もいるようであった。
とりあえず、サラはレイル学園に来たばかりなので、荷物の整理をしようと思い、ソフィアに案内されながら、女子寮に向かっていた。数分間歩くと、女子寮に到着した。女子寮は、それなりの大きさであり、中にはお風呂場もあるようであった。
二人は女子寮に入っていった。そして、サラの割り当てられている部屋に到着すると、部屋の前にはアリスが立っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいまですの。荷物の整理は終わりましたの?」
「はい、終わっております。なので、お嬢様に部屋の中を確認していただいた後は、私と訓練をいたしましょう」
「え? 普通に嫌ですの!」
「まぁ、そう言わず。これも、グレン王子に近づくためですよ」
「ぐぬぬ! それを言われると、反論出来ませんの!」
サラはそういった後、アリスのことをソフィアに紹介しようと思い、ソフィアの方に顔を向けた。すると、ソフィアは驚きの表情を顔に浮かべ、固まっていた。
「どうしましたの、ソフィア?」
サラはソフィアの様子がおかしかったので、大丈夫かどうか確認した。サラの声に、ハッとしたソフィアが口を開いた。
「……いや、私の姉上とサラのメイドが似ていたから、驚いてしまった。そうだよな。姉上が、メイドをしている訳ないもんな。他人の空似だったみたいだな!」
「そんなにソフィアのお姉さんとアリスが似ているんですの?」
「ああ。失踪している一番上の姉に似ているな」
「そうなんですのね。まぁ、人違いだと思いますわ! ソフィアのお姉さんということは、貴族ですわよね? 貴族がメイドするなんて、ありえませんの!」
「私もそう思う。まぁ、この話は終わりにしよう! それじゃ、夕食の時間になったら、呼びにいくから!」
ソフィアはそう言うと、自分の部屋に戻っていった。サラは自分の部屋に入り、私物の配置などを確認していた。レイル学園にはメイドと使用人用の居住区域があるため、この部屋ではサラ一人で寝るようになっていた。
そして、夕食の時間となり、サラとソフィアは夕食を食べに食堂へ行った。夕食を食べ終わった後、サラはソフィアと別れ、アリスとともにレイル学園の外れにある林に来ていた。周囲には、人のいる気配がまったくなかった。
「それでは、始めましょう」
アリスの声とともに、訓練が始まった。今日も、いつも通り、サラはアリスにボコボコにされていた。
「ああああああああ! 痛いですのおおおおおお!」
サラの叫び声が、誰もいない林に響いていた。
――サラがレイル学園に編入してから、2日が経過していた。サラは、まだまだレイル学園には慣れていなかったが、騎士科の主要な行事である学級対抗戦が始まろうとしていた。騎士科の生徒は、学級対抗戦に向けて、自主訓練をしていたようであった。
1年4組の生徒も、学園の授業が終わった後、自主訓練をしているようであった。サラはアリスと学園の外れの林で訓練をしているので、どのように行っているかは知らなかった。
「おい、サラ! 1組と2組の試合が始まるぞ! 早く座ろう!」
「分かりましたの!」
サラは椅子に座りながら、闘技場の観客席から試合が行われる場所を眺めた。闘技場の中央部分には、1組の生徒と2組の生徒が集まっていた。それぞれ、一人ずつ、試合を行うようであった。観客席には、騎士科の生徒の他にも、普通科と魔法科の生徒が集まっていた。
騎士科の学級対抗戦は、レイル学園の中でも大きな行事であったので、騎士科以外の生徒の観戦が許可されているようであった。
「それでは、1組と2組の学級対抗戦を始める!」
学級対抗戦の審判であるマークが大きな声を上げた。その瞬間、闘技場は歓声に包まれた。そして、歓声が静まると、試合が始まった。
「ソフィアの言っていた通り、結構、クラスごとの実力は同じくらいですのね」
1組と2組の試合が半分以上終わり、勝敗はほとんど変わらない様子であった。サラはソフィアの隣に座りながら、観戦をしていた。
「そうだな。とは言っても、中等部の頃から、1組がいつも優勝しているけどな」
「そうなんですのね。他のクラスと何が違うんですの?」
「1組には、グレン王子がいるから、多少、強い生徒が多いんだよ。やっぱり、王子がいるクラスが負けるのは、マズいだろうっていう、大人の判断だな」
「……なんか、汚い大人の世界が少し見えましたの」
「貴族なんて、そんなもんだろう。というか、私もサラも、そういう世界で生きていかなければならないからな」
「……はぁ。今から、気が重くなりそうですの」
「まぁ、先のことは置いといて、今は観戦に集中しよう!」
それから、二人は1組と2組の試合の観戦を続けた。試合は、一進一退の戦いとなっていた。そして、最後の試合までもつれこんだ。すると、大歓声とともに、グレンが登場した。
「グレン王子!! 頑張って下さいまし!!」
サラも大きな声で、グレンを応援していた。その迫力に、ソフィアが少し引いていた。そして、試合はグレンが相手を瞬殺して終わった。結果、1組が2組に勝利をした。