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5 初登校ですわ!

 ――サラがレイル学園での編入試験を終えて、ホープ家の屋敷に戻っている頃。レイル学園では、編入試験の採点が行われていた。


「編入試験を受験するやつらは、相変わらず、少ないな!」


 サラの実技試験を担当したマークが、学園の職員室で実技試験の採点用紙を見ながら、そう言った。


「しょうがありませんよ。レイル学園の編入試験は難しいですから。しかも、ほとんど普通科から騎士科に転科するために受験する者ばかりで、外部から編入試験を受ける者なんていませんからね」


 マークの隣に座って、採点をしていたコリン・ロンドがそう言った。コリンは、元々、アトラス王国の軍人であり、その腕を見こまれてレイル学園の教師となった人物であった。優しそうな顔をした、好青年という感じの男性であった。


「例年だとそうなんだけどよ! 今年は、外部から編入試験を受験したやつがいるみたいなんだよな!」


「サラ・ホープですね」


「そうだ! あいつは凄いぞ! アリア・グレーン並みの実力はあると思うな! この俺が、久々に、冷や汗をかいたぜ!」


「そこまでですか! アリア・グレーンと言えば、5年前に、レイル学園を歴代最高得点で卒業した女性でしたよね?」


「そうだ! しかも、王国最強と言われる近衛騎士団の団長に最年少でなった、正真正銘の天才だ! なぜか分からないが、2年前に軍を辞めたがな」


「サラ・ホープは、そんな女性と同じくらい強かったのですか?」


「おう! さすがに、アリア・グレーンの方が強いと思うが、それに匹敵する強さだったぜ! もちろん。実技試験は満点だ!」


「そうなんですね。ついでに言うと、サラ・ホープは筆記試験も満点ですよ。しかも、3時間で解き終わって、残りの1時間は寝てましたからね」


「本当か!? サラ・ホープは、とんでもないやつだな!」


「私もそう思います。レイル学園の編入試験で、筆記試験と実技試験の両方が満点であったのは、歴代でも、彼女だけですよ」


「そうしたら、もちろん、編入試験は合格だろう?」


「はい、当然、合格です。ちなみに、他の4人は不合格です」


「だろうな! 毎年、一人か二人しか、合格しないもんな! これは、面白くなりそうだぜ!」


 マークは右手の拳を左手で触りながら、そう言った。






 ――サラがホープ家の屋敷に帰ってから、2日が経過していた。その間、編入試験が終わったにも関わらず、『お嬢様。合格したら、学園生活を送る上で武術は必須の技能になると思われるので、訓練をしましょう』というアリスの一言によって、1日中、剣の訓練をしていた。


 セバック学園は春休みであるので、サラは暇であった。だが、レイル学園の編入試験に落ちてしまうと、セバック学園の高等部に通えなくなるので、休みとはいえ、気が気ではなかった。そのため、アリスとの訓練は厳しかったが、気を紛らわすのには役に立った。


 最近では、最初に行っていた素振りを卒業し、アリスと木剣で打ち合う訓練を行っていた。カン、カンと木剣をぶつけ合う音が中庭に響いていた。


「お嬢様。そのような振りでは、敵を倒せませんよ」


 サラは必死で、アリスの隙をついて、攻撃を仕掛けるが全て防がれてしまっていた。アリスは、剣の振りを受け止めると、サラの剣を弾き、体勢が崩れたサラの胴体に木剣を横なぎに当て、吹き飛ばした。サラは、そのまま、屋敷の壁に激突して停止した。サラがぶつかった壁は、ボロボロと崩れていた。


「……し、死にますの」


 アリアの指導のおかげで、頑丈な体を手に入れていたサラは、何とか木剣を支えにして、立ち上がることが出来た。サラの体はボロボロであった。


「お嬢様。敵が攻撃を待ってくれることはありませんよ」


 サラの目の前には、いつの間にか、アリスが立っていた。ビュンという音とともに、横なぎの一撃がサラの胴体に迫っていた。


「へ?」


 サラは間抜けな声しか出せなかった。次の瞬間にはアリスの横なぎの一撃によって、サラは吹き飛んでいた。そのまま、屋敷の部屋の窓ガラスを破り、部屋の中でゴロゴロと転がりながら、何とか停止した。パリンとガラスが割れる音が聞こえたので、屋敷の使用人がその音の聞こえた場所に集まっているのが、アリスには見えた。


 サラはガラスの破片を体の至るところにつけたまま、何とか、立ち上がった。サラのチャームポイントである左右のクルクルの巻き髪にも、ガラスの破片がついていた。


「あああああああ! もう、嫌ですの!」


 サラは叫ぶと、アリスから逃げるために、部屋の扉を開け、屋敷の通路を走り出した。集まっていた使用人は、何が起きているのか分からないという表情をしながら、サラが走り去るのを見ていた。


「……敵前逃亡ですか」


 アリスは木剣を持ったまま、走り出した。みるみるうちに、サラとの距離は縮まっていた。そして、数分後、サラを捕まえると、半泣きになっているサラを中庭へ引きずっていった。


「嫌ですのおおおお! 誰か、助けて欲しいですのおおお!」


 サラの叫び声が中庭に響いていた。だが、誰もサラを助ける者はいなかった。というか、アリスが恐くて、誰も助けにいけなかった。そんなこんなで、サラがアリスにボコボコにされていると、中庭にポールが走ってきた。


「お~い、サラ! たった今、レイル学園から編入試験の結果が書いてある書状が届いたぞ!」


「本当ですの!? さっそく、見せて欲しいですの!」


 今まで、アリスにボコボコにされていたのが、嘘のように元気になったサラは、ポールから書状をもらった。アリスは、木剣を持ったまま、静かにその様子を眺めていた。


(……緊張しますの)


 書状を持っているサラの手は震えていた。何とか、書状を広げると、サラは書かれている言葉を読んだ。


「合格しましたの……」


 その書状には、レイル学園の編入試験に合格したという内容が書いてあった。サラは、あまりにも嬉し過ぎて、その声は震えていた。


「やったな! サラは我が家の希望の星だ!」


 ポールが書状に書かれた内容を確認すると、泣きながら、サラの肩をバンバンと叩いていた。


「やりまじたのぉぉ!」


 サラも泣いていた。今まで、アリスの指導の下、本当に厳しい訓練をしていたので、それが報われたと思うと、涙が止まらなかった。アリスはその様子を静かに眺めていた。こうして、サラはグレンと同じレイル学園の騎士科に編入することが出来たのであった。






 ――サラがレイル学園の編入試験に合格してから、1ヶ月弱が経過した。その間、サラはアリスとの訓練を日中に行っていた。相変わらず、毎日、サラはアリスにボコボコにされていたが、レイル学園での生活に武術が必要だとアリスが言っていたため、頑張っていた。


 また、学園に入ってから、どのようにしてグレン王子に近づき、最終的に付き合うかということを、訓練が終わった後、寝る時間まで考えていた。そんな日々を過ごしていると、あっという間に、レイル学園に行く日になっていた。


 そういえば、学費はどうなったのだろうとアリスに聞いたところ、既に編入手続きとともに、学費を払ったと言っていた。そもそも、ただのメイドにそんなことが出来るのかとサラは思ったが、口には出さなかった。


「それでは、行ってきますの!」


「サラ! 頑張るのだぞ!」


「お父さんと一緒に夏休みに帰って来るのを待っているわね!」


 両親に別れの挨拶をすると、サラは馬車に乗りこんだ。レイル学園は全寮制であり、基本的に長期休暇以外で実家に帰る生徒は少なかった。例外として、王都レイルに実家がある生徒は、距離が近いので、週末の休みに帰れるようであった。


 そんな訳で、実家が遠いサラは、夏休みまでホープ家の屋敷に帰ることが出来なかった。また、レイル学園に通う貴族は、基本的に、専属のメイドか使用人を連れて来るので、アリスがサラのお世話をするために同伴していた。


 そして、サラの荷物でいっぱいになっている馬車に、サラが乗りこんだことを確認したアリスは、馬車を走らせ始めた。いつもより荷物があり馬車の進む速度が遅かったが、指定された時間の前に、レイル学園に到着した。


 レイル学園の門には、他にも春休みが終わった貴族の馬車がいくつも停まっていた。サラは必要な荷物をカバンに入れると、指定された教室である1年4組を目指して、歩き出した。アリスは、先に女子寮に行って、荷物を整理するということであった。


「う~ん、さっぱり分かりませんの!」


 大勢の生徒がレイル学園に登校している中、サラはどうすれば1年4組にたどり着けるか分からず、途方に暮れていた。


「何か、困っているのかい?」


 そんな時、サラの背後から、声が聞こえた。サラは返答をするために、後ろを振り向いた。なんと、そこには、サラの想い人であるグレンがいた。


「ッ!!」


 まさか、このような場所でグレンと会うとは思っていなかったので、サラの頭の中は真っ白になった。口をパクパクさせるばかりで、言葉が出てこなかった。


「大丈夫かい?」


 そんなサラをグレンは心配しているようであった。サラは自分の顔をグレンにのぞきこまれ、心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。おそらく、顔も真っ赤になっているだろうとサラは思った。


「だ、だ、大丈夫ですわ!」


 サラは何とか、グレンにそう答えることが出来た。サラが大丈夫だと分かったグレンの顔が笑顔になった。その笑顔がまぶしく、サラはグレンの顔を直視出来なかった。そして、グレンはサラが手に持っている書状に気がついた。


「もしかして、高等部に編入したばかりで、来るのが初めてなのかい?」


「そ、そ、そうですわ!」


「自分の組は分かる?」


「い、い、1年4組ですわ!」


「へぇ~、騎士科なんだ! 奇遇だね! 僕も騎士科なんだ! 良かったら、一緒に行こうか?」


「やったぁ……ゴホン。お願いしますの!」


「分かったよ!」


 本音が出そうになったサラの答えに、グレンは笑顔で応じると、二人で歩き出した。






 ――グレンと一緒にサラが歩き出してから、数分後。サラは、1年4組の教室に到着した。グレンと一緒に歩いている間に、色々と話したが、緊張し過ぎて会話どころではなかった。サラが思い描いた姿とは、かけ離れた、グレンに対する初対面での対応であった。


「それじゃ、僕は、1年1組だから」


 グレンは手を振りながら、1年1組の教室に向かっていった。


(やっぱり、カッコいいですの! しかも、優しいなんて、完璧ですわ!)


 サラは興奮しながら、そう思った。アリスに心の底から感謝した瞬間であった。そして、サラは、1年4組に入ると、自分の席に座った。サラが珍しいのか、周りの生徒はヒソヒソと話していた。


「お前ら! さっさと席に座れ!」


 そう言いながら、マークが入って来た。どうやら、この組の担任はマークのようであった。サラは実技試験を担当してくれた教官であったので、見覚えがあった。マークの声に従って、生徒が全員、席に座った。


「いきなりだが、このクラスに新しく入ることになった生徒を紹介する! サラ、前に来て、自己紹介をしろ!」


「はいですわ!」


 サラはマークの下まで移動すると、クラスの面々の前で自己紹介を始めた。


「さ、さ、サラ・ホープと言いますの! よ、よ、よろしくお願いしますの!」


 サラは緊張のあまり、自己紹介で嚙んでしまった。クラスメイトからは、失笑が聞こえてきた。サラは恥ずかしさが限界に達し、耳まで赤くなった。


「まぁ、この通り、緊張しているけど、仲良くしてやってくれ! あと、このクラスの学級委員長は、サラにするから、よろしくな!」


「ちょっと、待て下さい!」


 マークの発言に、イアンが待ったをかけた。イアンは、整った顔に細いながらもしっかりとした筋肉がついていそうな男性であった。サラも、マークの発言に対して、耳を疑った。


「何だ、イアン? 文句があるのか? このクラスの学級委員長は一番強いやつにやらせるって、中等部の1年の頃から、言っているだろう! だから、サラを学級委員長にする!」


「まだ、彼女の実力も見ていないのに、このクラスの学級委員長にすることには反対です!」


「分かった! 分かった! じゃあ、実力が分かれば良いんだろう? お前が、サラとこの後、戦え!」


「は?」


 マークの発言に、サラは思わず、声が出てしまった。

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