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4 編入試験ですわ!

タイトルを変更しました。


「サラは諦めません!」 → 「サラはグレン王子と付き合えるまで諦めません!」

 ――サラとアリスがホープ家の屋敷に帰って来たのは、脱獄した次の日の早朝であった。サラを探す衛兵に見つからないように、隠れながら、トーマス・ジョンソンが治めるジョンソン領を逃げていたため、時間がかかった。


 だが、ジョンソン領を抜けた後は、行きで使った馬車をアリスが走らせて、ホープ家の屋敷に帰ったため、すぐに着くことが出来た。


「……やって帰って来られましたの」


「そうですね」


 サラはクタクタになりながら、屋敷の中へ入っていった。アリスはというと、馬車をいつも置いてある位置に移動させると、屋敷の裏口から、さっさと屋敷の中に入ってしまったようだ。


「サラ! いったい、どこへ行っていたのだ!?」


 帰って来たサラを見るなり、ポールが駆け寄って来た。その顔からは、娘を心配していたというのが見てとれた。ポールとともに、ヘレンもサラの下に駆け寄って来た。


「……ちょっと、剣の訓練を外でしていましたの」


「それは、何日も屋敷に帰らずにすることなのか!?」


「……必要がありましたの」


 自分を心配してくれるのは嬉しかったが、疲れていたので、サラはそう言うと、自分の部屋へ戻っていった。


「サラ! 待ちなさい!」


 ポールが何か言っていたが、一刻も早く、自分の部屋のベッドで寝るためにサラは無視して、歩き始めた。そして、数分後。サラは自室に到着した。部屋の中に入ると、アリスがいつものメイド服を着た姿で待っていた。


「……何か用でもあるんですの?」


「はい、朝の訓練をするので、準備をして下さい」


「…………」


 サラは何も聞かなかったことにしようとした。そして、木剣を二つ持っているアリスの横を抜けて、フラフラとベッドのある方向に歩き、そのまま、倒れこんだ。数日ぶりのベッドであったので、サラは幸せな気持ちになった。


 だが、その幸せも長くは続かなかった。アリスは、サラの首を持つと、開いている窓から屋敷の中庭へ放り投げた。抵抗する気力もなかったサラは、そのまま、中庭へ寝た姿勢のまま着地した。


「……ぐへぇ」


 サラが情けない声を上げた後、立ち上がった。サラの正面には、アリスがいた。そして、アリスは木剣をサラに差し出した。


「……分かりましたの。やりますの」


 観念したサラはアリスから木剣を受け取った。これから、剣の訓練をすると思うと、気が重かった。


「はぁ、散々だったですの……お金も1ゴールドも稼げませんでしたし。ただ、疲れただけでしたわ」


 サラは愚痴をこぼしながら、剣を構えた。心なしか、修行を始めた当初より、サラは木剣を軽く感じた。


「お嬢様、気を落とさないで下さい。それに、レイル学園に編入するために必要なお金は、もう稼げましたよ」


 アリスはメイド服の懐から、束にまとめられた紙を二つ取り出した。その紙の大きさは、ちょうど、アリスの手より少し大きいくらいであった。


「……どういうことですの? それに、その紙の束は何ですの?」


「これは、100万ゴールドの紙の束です。二つあるので、200万ゴールドですね。お嬢様が逃げ回っている間に、ジョンソン家の屋敷から拝借してきました」


「……犯罪ですの。それに、もしかしなくても、ワタクシのことを(おとり)しましたわね」


 サラッと犯罪行為を自白したアリスを、ジト目でサラは見ていた。アリスはサラの視線を気にせず、メイド服の懐に200万ゴールドをしまった。


「はい、お嬢様は良い囮になっていただけました。それに、ジョンソン家は、少しのお金がなくなったことに構っている場合ではないと思うので、大丈夫ですよ」


「……もういいですの」


 サラは言いたいことが何個もあったが、ぐっとその思いを抑えた。サラが疲れていたというのも、理由の一つであった。


 そして、いつも通り、素振りが始まった。今日は、2000回であった。


「ああああああああああ! 痛いですのおおおおおお!」


 今日も、アリスによって、強制的に素振りをさせれているサラの絶叫が中庭に響きわたっていた。後々、サラが知ったことだが、領主であったトーマス・ジョンソンと商人であるマシューは、アトラス王国軍に捕まったようであった。


 アトラス王国の国王であるジョージ・アトラスに届けられた匿名(とくめい)の書状が、どうも決め手になったようであった。その書状には、トーマスとマシューの契約書などがあり、不正をしていたのが明らかであったため、サラが脱獄した2週間後には捕まったことをアリスから聞かされた。






 ――アリスの指導の下、編入試験のための準備を始めて、7ヶ月が経過した。この7ヶ月間は、サラの人生の中で、最も頑張った期間と言っても、過言ではなかった。毎朝、アリスと剣の訓練をし、セバック学園から、帰って来た後は、勉強をするというのが一日の流れであった。


 休日である土日は、ほとんど剣の訓練をしていた。たまに、ボブが頭目をしている山賊に混じって、商人の馬車などを襲撃することもあった。だが、その際に、殺すことなく無力化していたため、見た目と違って良い人達なのかなと、サラは思った。


 しかも、襲っている商人は本当に悪党のようであった。ボブが、商人から奪い取ったお金や物を、近隣の村などの住民に渡す際に、襲った商人の話を住民がしているのを、サラは聞く機会があった。その際に聞いたのは、襲った商人が領主と組んで、高額な食料などを住民に売りつけていたということであった。


 そのため、ボブが率いている山賊は、住民達に感謝されていた。それを見たサラは、本当に良いヒャッハーもいるのだなと思った。いつの間にか、サラもそんなヒャッハーの一員になっていた。


 サラはそんな生活をしていたので、当然、睡眠時間はほとんどなかった。そのため、セバック学園での授業中に寝ていた。最初は、サラを注意していた学園の教師も、そのうちに注意しなくなった。


 そんなこんなで、編入試験のための準備を始めて、7ヶ月が経過し、試験の1日前となった。編入試験は、レイル学園で行われるため、サラは王都レイルに向けて馬車で移動していた。万全を期すために、試験の前日から王都レイルにいたいというサラの希望によって、このようになった。


 そして、5時間後、サラを乗せた馬車は王都レイルに到着した。アトラス王国の王都ということもあり、人が大勢、歩いていた。そして、馬車の中からは、レイル城がそびえ立っているのが見えた。王都レイルに入ると、アリスが走らせている馬車は、レイル学園の近くの宿屋へ移動した。


 馬車を走らせること数分で、宿屋へ到着した。その宿屋は、一般的な平民が使うような感じであった。実際に、人里離れた場所にいる魔物などを倒して、生計を立てている冒険者と思われる人物が宿屋に入っていた。


「さぁ、お嬢様。行きますよ」


「分かりましたわ」


 馬車を置いてきたアリスとともに、サラは宿屋の中に入っていた。宿屋の1階は、食堂になっているようで、多くの冒険者と思われる人物で賑わっていた。


「明日まで、二部屋、借りたいのですが?」


「はい、分かりました。4000ゴールドです」


 宿屋の受付にアリスが話しかけ、お金を払うと、二人は2階の部屋に向かい、それぞれ別の部屋に入った。その後、夕食を1階の食堂で食べていた時に、サラとアリスの服装が珍しいのか、冒険者が絡んできた。


 だが、アリスが即座に、絡んできた冒険者の顔を片手で握ると、壁に叩きつけ、放り捨てていた。その姿を見た、他の冒険者はサラとアリスに近づかないように、離れた席で食事を食べていた。そして、1階のお風呂で汗を流した後、すぐに二人は寝た。




 ――次の日の朝。サラとアリスは、1階で朝食を食べると、レイル学園に徒歩で向かった。そして、数分後、レイル学園の入口の門に到着した。


「サラ・ホープ様ですね。それでは、編入試験の会場に案内します」


 サラは、レイル学園の入口の門にいた案内の人と思われる人物に話しかけると、学園の中の試験会場に案内された。セバック学園と比べて広そうだと、サラは歩きながら思った。そして、数分後、筆記試験が行われる会場に到着した。


 そこは、レイル学園の教室のようであり、中には5人ほどしかいなかった。アリスは途中で別室に案内されていた。そのため、サラは一人であった。


(やっぱり、編入試験を受けるような人は少ないですわね)


 サラはそんなことを思いながら、指定された席に着席した。そして、待つこと、10分。試験官が入って来て、問題用紙を配り出した。その数は20枚であり、これを4時間で解かなければならなかった。


(20枚もありますの! これは、急がないと、時間切れになりますわ!)


 20枚の問題用紙を見て、サラは焦っていた。そして、試験官の合図で、試験が始まった。


(あれ? 意外と簡単ですの?)


 とりあえず、自分が解けるものから解いていこうと考えたサラは、問題用紙を一通り確認した。その中で、分からなさそうな問題はなかった。そのため、サラは、最初の問題から解き始めた。


 そして、筆記試験が始まってから、3時間が経過した。サラは、問題を全て解き終わっていた。見直しもしたので、サラは暇になっていた。


(……あと、1時間もありますの。暇だから、寝て待つことにしますわ)


 サラは時間が余ったので、寝ることに決めた。座ったまま、眠り出したサラに試験官は驚いていた。それも、そのはずである。周りの筆記試験を受けている者は、まだ、10枚も終わっていないハズだからである。


 試験官が、サラを起こさないように問題用紙を確認すると、全て解かれていたので声を出さずに驚いた。しかも、どうやら、全て正解しているようであった。


「こんなことがありえるのか……」


 問題用紙を静かに置いた試験官は、座っていた椅子に戻ると、そうつぶやいた。


 そして、4時間が経過し、筆記試験が終了した。サラは試験官が、問題用紙を回収する時の紙がこすれる音で起きた。問題用紙を回収し終わった後、昼食を食べるために、サラは教室を出た。すると、教室の外には、アリスがいた。


 二人はそのまま、レイル学園の食堂へ向かった。セバック学園には食堂がないので、学園の中に食堂があるというのはサラにとって、不思議な感覚であった。そして、編入試験を受験する者のために用意された場所で昼食を食べると、実技試験が行われる会場に移動した。


 その際、実技試験の会場のある場所を事前に説明されていたアリスが案内してくれた。数分後、実技試験の行われる会場に到着した。そこは、闘技場であり、観客席を見ると多くの席があった。その大きさにサラは驚いた。




 そして、サラが到着してから、10分後。闘技場に試験官が現れた。数は、5人であり、同時に実技試験を行うようであった。試験官に一人ずつ呼ばれ、その試験官の下へ受験者が走っていった。サラも名前を呼んだ教官の下へ向かった。


 サラの試験官は、顔に傷のある、いかにも冒険者をやっていたという姿をした大男であった。


「それでは、実技試験を始める。受験者は、各々の担当してくれる試験官の指示に従え」


 サラを担当してくれる試験官が、そう言うと、サラの方を向いた。それぞれのタイミングで実技試験が始まるようであった。既に、実技試験を始めている受験者もいた。サラが他の受験者を見ていると、大男が口を開いた。


「おい! 受験生! さっさと始めるから、構えろ!」


 大男はそう言うと、サラに木剣を渡した。サラは木剣を受け取ると、剣を構えた。


「……ほう。中々、良い構えだな! 実技試験は、俺かお前が戦闘不能になるまで行う! 準備が出来たら、かかってこい!」


 大男は少し離れた位置で、木剣を構えた。大男の大きさに比べると、木剣が小さく見えた。


「分かりましたわ!」


 サラはそう言うと、地面を踏みこみ、大男に斬りかかった。バンという破裂音とともに、サラが踏みこんだ地面が陥没していた。


「ッ!!」


 サラの一撃を大男は何とか反応して防いだ。だが、威力を殺しきれなかったのか、地面に足をつけたまま、大男の体が後方に移動していた。大男が踏ん張った足跡が、地面に残っていた。


「……おいおい、アリア・グレーン並みの実力か?」


 大男はそう言うと、木剣を構えるのを止めた。よく分からないが、サラも木剣を構えるのを止めた。


「お前とは、これ以上、戦う必要はない! これで、実技試験は終了だ! 帰って良いぞ!」


「へ?」


 サラは意味が分からず、間抜けな声を出してしまった。こうして、レイル学園の編入試験は終了した。

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