3 脱獄ですわ!
――サラが、どこから、どう見てもヤバい山賊達の仲間になって、3時間が経過した。現在、サラは山賊が根城にしている山を下っていた。どうやら、山を通る商人の馬車を襲うようであった。
「……アリス! これ、ただの犯罪じゃありませんの!?」
サラは、山賊の集団の後方へ移動すると、山賊の後ろをついてきていたアリスにそう言った。
「いえ、少し法を犯すだけです。それに、今から襲う馬車だって、不正な行為によって、財を蓄えている商人の馬車です。それを襲っても、何も問題はありませんよ」
「絶対、嘘ですの! こんな見た目からして、ヒャッハーって言いながら、襲いかかってきそうな山賊が、相手を選ぶ訳がありませんの!」
「いえ、彼らは善良なヒャッハーなのです。そこらへんは、わきまえていると思いますよ」
「何ですの、善良なヒャッハーって!? ヒャッハーに良いも、悪いもありませんの!」
サラとアリスが、そんなことを言い合っていると、どうやら、待ち伏せをする地点に到着したようであった。山賊達が、木々に隠れ、馬車が通るであろう道を観察していた。サラも低い姿勢になると、木々の間から、道の様子を観察していた。
サラの近くには、アリスが伏せた状態で、道を観察していた。そして、待つこと、20分後。遠くの方から、馬車を走らせる音が聞こえてきた。
「野郎ども、馬車が来たら、一気に飛び出せ。その合図は、俺が出すから先走るなよ」
ボブが小声で山賊達にそう言った。まったく覚悟が決まっていなかったサラは、ボブの言葉をビビりながら聞いていた。
(逃げたいですの! でも、今、逃げたら、山賊に追いかけられて殺さるかもしれませんわ! ここは、グレン王子に近づくため、我慢しますの! それに、アリスは悪い商人だと言っていましたの! だから、倒しても大丈夫ですの! もう、そう信じるしかありませんの!)
サラは、そう信じるしかなかった。今から襲う馬車が善良な商人の馬車であると思いたくなかった。そうでなければ、サラはただの犯罪者になってしまうからである。どちらにしても、悪い商人の馬車であろうが、それを襲えば犯罪になるという事実を、サラは考えないようにしていた。
馬車を走らせる音が、どんどんと大きくなってきた。それに合わせて、サラの心臓の鼓動も速くなっていた。周りの山賊を見ると、武器を準備して、いつでも飛び出せる準備をしていた。
(ここは、覚悟を決めるしかありませんの!)
サラは、先ほどボブから渡された剣を握ると、近づいて来る馬車の方向に顔を向けた。そして、とうとう、その時がきた。
「野郎ども、今だ! 飛び出せ!」
「ヒャッハー! やっちまえ!」
ボブの合図を確認した山賊達が、通りかかった馬車に襲いかかった。山賊達を確認した商人は、即座に馬車を停止させた。
「やるしかありませんの! ヒャッハーですわ!」
サラも周りの山賊達とともに、馬車を目指して走り出した。アリスもその後ろを、ついてきていた。そして、ボブを先頭にした山賊達は、馬車の近くまで近づいていた。
「衛兵の皆さん、今です!」
山賊達が近くに来たことを確認した商人がそう言うと、馬車の中から、多数の衛兵が出てきた。衛兵達は、山賊達の倍はいるかという数であった。
「チッ! これは、マズいな! 野郎ども! 逃げるぞ!」
「ヘイ!」
ボブは自分達が不利だと思ったため、撤退を選択した。ボブが逃げると、周りにいた山賊達も逃げ始めた。
「山賊が逃げたぞ! 追え!」
衛兵の指揮官らしき人物が指示を飛ばしていた。続々と山賊達の後を、衛兵が追いかけていた。
「な、何ですの!?」
状況を理解出来ていなかったサラは、とりあえず、山賊達とともに逃走し始めた。だが、山賊達の逃げる速度についていけず、どんどんと距離が広がっていた。
「ヤバいですの! ヤバいですの! 捕まりますの!」
サラは叫びながら、必死で逃げていた。だが、どんどんと衛兵達が迫って来ていた。子供であるサラの走る速度と大人の衛兵の走る速度では、衛兵の方が速かった。そのため、数分後に、サラは衛兵に捕まっていた。
「アリス! 助けて欲しいですのおおおおお!」
衛兵に取り押さえられながら、サラは叫んだが、アリスが助けに来ることはなかった。捕まったサラは、衛兵とともに、商人の馬車に乗り、どこかへ行ってしまった。その様子を、近くの木に登っていたアリスが見ていた。
――馬車に揺られること、1時間。商人の馬車は、どこかの貴族の屋敷に到着したようであった。結局、衛兵に捕まったのは、サラ一人だけであった。縄で手と体が縛られているため、サラは馬車の中で座ったまま、動けなかった。
「いや、トーマス様、衛兵を貸していただいて、ありがとうございます! そのおかげで、山賊の一人を捕まえることが出来ましたぞ!」
「それは、良かった! これで、マシューが山賊に襲われるのも減ると良いな!」
「私もそう願っています! これを、どうぞ! 少ないですが、お納め下さい!」
「いや、悪いな、マシューよ! これからも、お主の商売に、便宜を図るようにするから、これからも頼むぞ!」
「もちろんです! トーマス様との関係は、これからも続けていきたいと考えております!」
サラは、馬車に座りながら、トーマスと呼ばれた男と商人であるマシューの会話を聞いていた。どうやら、アリスが言っていた通り、真っ当な商人ではなさそうだとサラは思った。
「良し! 捕まえた山賊を屋敷の牢につないでおけ!」
「ハッ!」
衛兵の指揮官らしき人物の指示に従って、サラは縄で体を縛られたまま、屋敷の牢へ連れていかれた。そこは、いかにも、罪人を閉じ込めておく牢という感じであり、粗末な布が一枚だけ置いてある石造りの牢であった。
「ほら、さっさと入れ!」
サラは衛兵に突き飛ばされるようにして、牢に入った。サラが牢に入った後、衛兵は扉を閉め、鍵をかけた。そして、どこかへ行ってしまった。
「……はぁ。これから、どうなりますの?」
サラは粗末な布を地下牢の床に敷くと、そこの上に座った。
――夜が明け、次の日の朝になった。サラは、やることもなかったので、夕食として出てきたパンを1つ食べると、すぐに横になって寝た。皮肉な話だが、牢に入れられたことによって、この1週間で、一番多くの睡眠時間をとることが出来た。
そして、朝になり、見張りの衛兵が、サラに朝食を持ってきた。朝食の内容は、パン1つとコップ1杯の水であった。
「ほら、朝食を持ってきたから、食べろ」
衛兵が牢越しに、パンとコップに入った水をサラに渡してきた。
「ありがとうですわ」
サラはパンとコップに入った水を受け取ると、すぐにパンを食べ、水を飲み干した。
「おかわりですの!」
サラは元気良く、空になったコップを手に持って、牢越しに、突き出した。
「おかわりはない! それに、お前は3日後に公開処刑されるのだからな!」
衛兵はそう言うと、どこかへ行ってしまった。
「え? 処刑ですのおおお!?」
サラはそう叫んだ。まさか、自分が処刑されるとは思っていなかったので、サラはかなり驚いた。
(処刑なんて、嫌ですの!)
サラはそう思い、何とか、ここから逃げる方法を考えたが、思いつかなかった。そのうちに、眠気に襲われたサラは、横になり、寝てしまった。
そして、サラが目を覚ますと、夜になっていた。牢の上の方にある鉄格子がついた窓からは、月が見えていた。一日中、寝ていたので、体力は回復していた。ただ、お腹は空いていた。
(今日の夕食は、まだかしら?)
サラがそんなことを考えていると、鉄格子のついた窓が何かに塞がれ、暗くなった。サラが不思議に思い、上の方に顔を向けると、そこにはアリスがいた。
「アリス! 助けに来てくれましたの!?」
「お嬢様、お静かに。警備の衛兵が来てしまいます」
サラは思わず大きな声を出してしまった。誰かに気づかれたかと思ったサラは、急いで牢の周りを確認した。だが、誰もいなかったので、気づかれてはいないようであった。
「アリス! ありがとうですの! これで、帰れますわ!」
小さな声でそう言ったサラはもう助かった気でいた。だが、次の瞬間に、それが間違いであることが分かった。
「いえ、私は直接そちらに行って助けられないので、これを使って下さい」
アリスは鉄格子の窓から、鍵と思われる物体と大きな布を、サラに向けて落とした。どうやら、アリスは、サラを直接、助けてくれる訳ではないようだ。
「これは、何ですの?」
「それは、牢の鍵とお嬢様が隠れて移動するのに役立つ大きな布です。衛兵に見つかりそうになったら、その大きな布を被って下さい。そうすれば、夜なので、多少は衛兵の目を逃れることが出来ると思います。それでは、健闘を祈ります」
「ちょ、待って!」
サラが呼び止めたが、アリスは走り去ってしまったようだ。一人残されたサラは、鍵と大きな布を持つと、牢の入口に向かった。
(とりあえず、やってやりますの! ここから出ないと、処刑されてしまいますの!)
サラは鍵を手に持つと、何とかして牢の入口の扉の鍵穴に鍵を入れた。そして、回すと、カチッという音がした。
(開きましたの?)
サラが牢の入口の扉を押すと、ギイという音とともに開いた。そして、サラは牢から出ると、急いで、屋敷の外を目指した。
――サラが牢を出てから、数分が経過した。牢がある場所の入口にいた衛兵は居眠りをしていたので、その横を気づかれないように、そっと、通り抜けた。そして、サラは屋敷の外に出るために、歩き回っていた。屋敷の中は、夜のため、暗かった。
(あれ? 意外といけますの!)
屋敷の中を歩き回っていたサラであったが、衛兵どころか、誰とも会わなかった。少し余裕が出来たサラは、鼻歌を歌いながら、屋敷の外を目指していた。
(誰か来ますの!)
サラが屋敷を歩き回っていると、通路の奥の方から、誰かが歩く音が聞こえた。サラが周りを急いで確認すると、現在いる場所の近くに、隠れられそうな場所はなかった。そのため、仕方がなく、通路の端で大きな布を被って、体育座りをして隠れることにした。
コツコツと歩く音が、どんどんと大きくなってきた。それに従って、サラの心臓の鼓動も速くなっていた。そして、サラの隠れている場所の前を通り過ぎていった。通り過ぎた足音はどんどんと遠ざかっていき、聞こえなくなった。
「ふぅ! やり過ごしましたの!」
布をとって、サラは立ち上がった。どうやら、バレなかったようだ。そして、サラは再び歩き出そうとした。その時のことであった。
「誰だ!?」
サラの後ろの方から、そう叫ぶ声がした。どうやら、誰かに見つかったようだ。サラはその声を聞くと、すぐさま、走り出した。
(ヤバいですの! ヤバいですの!)
サラは焦りながら、屋敷の中を走り回った。屋敷の至るところから、衛兵が発生源と思われる金属のこすれる音が聞こえてきた。
「いたぞ! 脱獄者だ!」
とうとう、サラの姿が衛兵に見つかってしまった。サラを追いかける衛兵の数は、どんどんと増えていった。
(このままでは、捕まってしまいますの!)
逃げ回っていたサラは、通路の窓に身を投げ出した。そして、ガラスが割れる音とともに、サラの体が屋敷の中庭に出た。幸い、屋敷の1階であったので、サラはガラスでの切り傷以外にケガはなかった。そのまま、サラは屋敷の外を目指して、走り出した。
そして、何とか、屋敷の入口の門に到達した。だが、そこには、多くの衛兵が集まっていた。
「ノウナーシ! 覚悟しろ!」
衛兵の取り調べの際に、サラは偽名を使っていたので、衛兵の中でのサラの名前はノウナーシになっていた。そして、衛兵が、サラの周りを囲み始めた。
「万事休すですわ……」
サラは、衛兵に囲まれたため、逃げるのを諦めた。だが、その時、屋敷の2階から黒い服を着たアリスがサラの近くに着地した。そして、衛兵を剣で倒し始めた。剣を振るうアリスの一撃は凄まじく、横に一振りするだけで、5人の衛兵が吹き飛んでいた。
「さぁ、逃げますよ!」
ある程度、衛兵を倒したアリスは、サラの体を脇腹に抱えると、凄まじい速度で走り始めた。そのあまりの勢いに、サラは振り落とされないようにするので、精一杯であった。こうして、サラは何とか、脱獄することが出来た。