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20 招待ですの!

 ――サラはダンシュの宿屋(やどや)に運びこまれ、アリスの治療を受けることになる。よく分からない薬草などを使った治療のおかげで、なんとかサラの命は助かった。


「本当に、死ぬかと思いましたの!」


 1週間後が経過し、現在、ベッドの上で、サラはアリスに手渡された食事をすごい勢いで食べている。まだ、剣を振るうことはできないが、ある程度、動く分には問題なさそうであった。これも、日頃のアリスとの訓練の賜物(たまもの)である。


「私も、サラが死んだかと思ったよ! まぁ、回復して良かったな!」


「……良かった!」


 ソフィアとシーラは、サラのベッドの近くに置いてあるイスに座っていた。


「それにしても、あの襲撃はなんでしたの? かなり大がかりなものだと思いましたけど?」


「どうやら、グレン王子をよく思わない貴族たちが結託して、他国から軍を借り受けていたようですよ」


 アリスが、サラの近くで立ちながら、リンゴの皮をむいている。リンゴの皮が細長く切られていく。


「まぁ、グレン王子は、汚いことをやっている貴族がキライだからな! 国王になったときに、そういう貴族は、確実に処罰されるだろう! そして、次の国王になるのも、グレン王子でほぼ確定しているから、今のうちに殺しておこうとでも思ったんじゃないか?」


「そうなんですの!? あんなにカッコよくて、優しいグレン王子にも敵はいるんですわね!」


「だから、だろ! 誰が見ても、グレン王子が不正を許すような人間には見えないだろうな!」


「確かに、そうですわね! ところで、結局、グレン王子に軍をけしかけた貴族はどうなりましたの?」


 サラは料理が盛りつけてある皿をベッドの横の棚に置く。アリスもリンゴの皮をむきおわり、一口大に切っている。


「全員、捕縛されて、処刑されたらしいぞ! まぁ、そうは言っても、数人の貴族だったみたいだけどな!」


「そうなんですのね! それは、良かったですわ!」


 グレン王子は当分の間、命を狙われることが、現時点ではなさそうだと、サラは思った。安心したおかげか、サラのお腹からグゥという音が鳴る。


「あれだけ食べて、まだ食べるのかよ!?」


「まだまだ、食べますわ! 早く体を直しますの!」


 サラは棚に置いた料理の皿を手にとると、急いで食べる。そして、アリスに手渡されたリンゴをムシャムシャと食べ始めた。






 ――次の日。サラはベッドの上で、アリスから手渡される料理をいつもどおり食べていると、宿屋の部屋の扉がコンコンコンと鳴った。


「……? 誰ですの?」


「確認してまいります」


 アリスは扉の近くに歩いて移動し、なにかを話しているようである。数分後、手に手紙らしきものを持ったアリスが戻ってきた。


「お嬢様、グレン王子から手紙が届きましたよ」


「え!! グレン王子からですの!! 早く見せてくださいまし!!」


 サラは大きな声を上げると、アリスから手紙を受けとり、急いで中身を確認する。



 サラへ


 今回は僕の命を助けてくれてありがとう。

 もし、サラがあのとき、かばってくれていなければ、僕は死んでいただろう。

 だから、そのお礼を兼ねて、王城で3日後に開かれるパーティーに来てほしい。

 そうは言っても、まだ、体が回復していなければ、この申し出は断ってくれても構わない。

 返事を待っているよ。


 グレン・アトラス



 手紙の内容を確認したサラは、アリスのほうを向く。何事かと、近くにいるアリスとシーラがサラに注目する。


「アリス、急いで、手紙が書ける準備をしてくださいまし! グレン王子に手紙の返事を書きますの!」


「それなら、大丈夫です。お嬢様は断らないと思ったので、出席すると手紙を持ってきた使者に伝えておきましたよ」


「さすが、アリスですわ!」


 アリスの有能さをサラが()めている。アリスは、当然だとばかりに、表情に変化はなかった。


「おいおい、サラ! いったい、どうしたっていうんだ?」


「3日後のパーティーに、グレン王子から招待を受けましたの!」


「それってさ、もしかして、これか?」


 ソフィアは、(ふところ)から手紙を取りだした。


「なんですの、それは?」


「いや、なんか王国中の貴族に、王城で行われる3日後のパーティーの招待状が届いているみたいだぞ。それが、この手紙ってワケ。あと、アトラス王国の有力な冒険者にも送られているみたいだぞ。なぁ、シーラ?」


「……私にも送られてきた」


 シーラは着ているローブの懐から、ソフィアが持っている手紙と同じものを取りだす。


「そうなんですのね。それじゃ、3日後のパーティーには、一緒に行きましょうですわ!」


「もちろん! 当たり前だろ!」


「……一緒に行く!」


 こうして、三人は、3日後に行われる王城でのパーティーに参加することになった。






 ――3日後。サラとソフィアとシーラは、ドレスを着て、馬車に乗っていた。もちろん、馬車を走らせているのは、アリスである。


「それにしても、ソフィアがドレスを着るのに慣れていて、意外ですの!」


「うるさいな! 私だって貴族の端くれなんだから、ドレスくらい何回も着てるわ!」


 サラはアリスが選んでくれた青いドレスを着ていた。ソフィアもアリスに選んでもらった白いドレスを着ている。いつもはガサツなソフィアだが、メイクも相まって、それなりの美人に見えた。


「……動きづらい」


 シーラは二人の隣で、アリスに選んでもらった紫色のドレスのスカートをヒラヒラさせている。


「私とソフィアは、何回もドレスを着ているから慣れていますけど、シーラは初めてですものね」


「最初は、どうしても動きづらいよな! 私も小さい頃はドレスのスカートの部分がキライで、よく破ってたよ! そのたびに、ローラ姉様にげんこつをされたな!」


「それは、ソフィアだけですの……」


 三人が馬車の中で(さわ)いでいると、馬車が停まった。どうやら、王城に到着したようである。サラが馬車の窓から、外を見ると、多くの馬車が停まっているのが見えた。


「それでは、私は馬車を置いてきますので、気をつけて、いってらっしゃいませ」


 馬車の扉をアリスが開けると、三人は馬車を降りる。大勢の貴族と思われる人物が王城の入口に向かって歩いていた。三人も、王城の入口に向かって歩きだす。そして、入口まで到着すると、手紙を見せ、王城の中へ入っていった。


「それにしても、王城でのパーティーなんて、久しぶりだな! 1年前くらいか? あの時はサラもいたんだろう?」


「そうですわ! 私がグレン王子に一目ぼれしたときですもの! 忘れるワケがありませんわ!」


「あの時は、大勢いたから、サラには気づかなかった! それに、出された料理を食べるのに夢中だったからな! 気づくワケもないか!」


 わっはっはとソフィアは笑っている。サラは王城の通路を歩きながら、シーラのほうを向く。なんだかサラの目には、いつもよりシーラの顔が固いように見えた。


「シーラ、もしかして、緊張していますの?」


「……してる」


「おいおい! 別にただパーティーに出るだけだ! なにも緊張することなんてないぞ!」


「……分かってるけど、初めてだから、緊張する」


「大丈夫ですわ! ソフィアの隣にいれば、ちょっかいをかけてくる貴族なんていませんわ!」


 サラはシーラを安心させようとする。サラの言葉を聞いたシーラの顔は心なしか、やわらかくなったように見えた。


「おい! どういうことだよ!? まるで、私が恐いみたいな言い方だな!」


「事実ですの! ドレスを着て、おめかしをしていますけど、ソフィアの威圧感はすごいですわ!」


「なんだよ、威圧感って! そんなの出してないぞ!」


「無意識に出ていますの!」


「……確かに、なにも知らない人はソフィアに近づかないかも」


「おい! 本当かよ!」


 三人がワイワイと言いあいをしていると、パーティーが行われる会場に到着した。そして、三人は入口の扉を通り、会場の中へ入場する。すでにパーティーの会場の中は、大勢の貴族で(にぎ)わっていた。


「お! サラ、あそこを見ろ! うまそうな料理があるぞ!」


 ソフィアが指差した場所には、おいしそうな料理が大皿に何枚も盛りつけてあった。


「本当ですの!」


「……おいしそう!」


 三人は急いで、小皿に料理を盛りつけると、パーティー会場の(すみ)にある机に移動し、座って食べ始める。レイル学園での料理よりも、おいしかったため、三人は食べるのに夢中になっていた。


「はぁ……そんなに、急いで食べなくても料理は逃げないわよ」


 ローラは、食事に夢中になっている三人に近づく。


「ローラさんですの!」


「ローラ姉様!」


「……ローラさん」


 三人はローラが近づくと、声を上げる。ローラは、白いドレスを着ており、すごく似合っているなと、サラは思った。


「あなたたち、少しは他の貴族とも交流をしなさいよ」


「いや、そういうのはいいわ!」


「ですの!」


「……面倒」


「はぁ……大勢の貴族と交流できる良い機会なのに、あなたたちときたら……」


 三人は一切、他の貴族と交流する気がないようである。ローラは(あきら)めると、三人が食事をしている横で、机に向かいイスに座った。


「お嬢様、私もお隣に失礼しても、よろしいですか?」


「うん? なんでアリスがいますの?」


 サラが声のしたほうに顔を向けると、小皿いっぱいに料理を盛っているアリスが立っているのが目にはいる。しかも、ドレスを着て、軽くメイクもしていた。本来ならば、サラの専属メイドといえども、招待されていないので、パーティー会場には入れないハズである。


「いえ、私にも招待状が届いていましたので、ものは試しと参加してみました」


「……どうやって、招待状を手に入れましたの?」


「なぜか私にも届いていました」


「絶対、ウソですの!」


「そう言われましても、困りますね。それでは、失礼します」


 アリスはサラとの会話を切り上げ、イスに座ると、料理を食べ始めた。その様子をローラがジト目で見ている。


「どうかしたのか、ローラ姉様?」


 ローラがずっとアリスを見ているので、不思議に思ったソフィアがローラに尋ねる。


「いえ、なんでもないわ。でも、見れば見るほど、アリア姉様の食事をする様子に似ているなと思っただけよ」


「確かに、言われてみれば、似ている気もするな!」


「気のせいですよ。私とアリア様が似ているから、そう見えるだけです」


 アリスはローラとソフィアを気にせず、食事を続ける。


「そうか! そうだよな! アリスさんが、アリア姉様のワケがないもんな!」


「はぁ……ソフィアは、もう少し、観察力と思考力を磨いたほうがいいわ……」


「ローラ姉様! それは、遠回しに私のことをバカだと言ってないか!?」


「はは、違うわよ」


「半笑いで言っても、信じられないぞ!」


 ローラとソフィアは、そのまま、ワイワイと言いあっていた。そんなこんなで、とうとう、グレン王子が登場する時間となる。


「グレン王子、ご入来(にゅうらい)!」


 パーティーの司会と思われる人物が、会場に響く声を上げる。その瞬間、談笑(だんしょう)をしていた貴族たちが静かになった。


「グレン王子の登場ですの!」


「本当に、サラはグレン王子のことが好きだな……」


 小さい声でサラが声を出している横で、ソフィアがボソッとつぶやいている。会場中の貴族や冒険者の視線が、グレンが登場するであろう壇上(だんじょう)に集まっていた。1分後、カツカツという音が聞こえ、グレンが壇上に登場する。


「キャー! グレン王子ですわ!」


 サラはグレンが登場した瞬間、黄色い歓声を上げた。会場には貴族のご令嬢の黄色い歓声が響いている。そして、2分後、会場が静かになると、グレンが口を開いた。


「今日、この場所に集まってもらったのは、重大な発表があるからだ! さっそくだが、発表する! 私はサラ・ホープと婚約することを、ここに宣言する!」


「は?」


 サラはグレンがなにを言っているのかが分からず、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げる。

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