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15 魔物討伐ですわ!

 ――Sランクの魔物から逃げ続け、サラとソフィアとシーラは、ハイルまで到着した。途中で、理由は分からないが、魔物が三人を追いかけるのを止め、どこかへ行ってしまったようである。そのため、三人はなんとかハイルの入口の門の近くまでたどり着くことができた。


「我ながら、なんで逃げきれたのかが、分からないな……」


「そうですわね……」


「…………」


 ソフィアの体は血だらけであり、今にも倒れそうである。サラも同じような状態であった。シーラは、ソフィアやサラが魔物を引きつけてくれたおかげで、目立つケガはないようである。だが、何回か、魔物の攻撃がかすり、ケガして動けなくなったため、今はサラに背負われていた。


「お前たち、大丈夫か!」


 ハイルの門に立っていた衛兵たちが急いで、かけよってくる。どうやら、自分たちは逃げきったようだとサラは思った。その瞬間、体の力が抜け、シーラを背負ったまま倒れてしまう。ソフィアも、サラが倒れた直後にドサリと音を立て、倒れてしまった。


「おい! 今すぐ、近くの宿屋(やどや)へ運べ! あと、医者を呼ぶんだ!」


 衛兵たちは、担架(たんか)を持ってくると、サラたちを乗せ始める。そして、ハイルの門に近い宿屋へ、急いで運んでいった。




「……ここは、どこですの?」


 サラが目を覚ますと、知らない天井が目の前に広がっている。だが、自分が寝ているということには、すぐ気がついた。


「ハイルの宿屋です、お嬢様」


 サラの聞きなれた声が聞こえる。声のしたほうに顔を向けると、そこにはアリスがいた。


「……どうして、アリスがいますの?」


「冒険者ギルドからレイル学園に、お嬢様が重傷だと連絡があったのです。だから、こうして私が急いで、やってきたのです」


「……そうなんですのね……ソフィアとシーラは大丈夫ですの?」


「はい、大丈夫なようです。ただ、お嬢様と違い、体が頑丈(がんじょう)ではないようなので、まだ眠ったままですね」


 アリスがサラの隣のベッドを眺めている。サラもアリスが向いたほうを確認すると、ソフィアとサラが眠っているのが見えた。二人は、スヤスヤと眠っているようである。


「……良かったですの。それで、ワタクシが宿屋に運ばれてから、何日が過ぎましたの?」


「3日です。レイル学園には、私のほうから、お嬢様たちが重傷を負って、帰って来れないことは伝えてありますので、安心してください」


「……ありがとうですわ」


 サラはそう言うと、すぐに眠ってしまった。まだ、サラの体は回復していないようである。






 ――サラたちが宿屋に運びこまれてから、1週間が過ぎた。サラたちは、ある程度、動けるほどに回復をしている状態である。アリスが持ってきたよく分からない薬草などを食べたことによって、ここまで、すぐに回復することができた。


「……ふむ。分かった。それでは、約束のお金だ。君たちの体をはって手に入れた情報をムダにはしない。それでは、失礼するよ」


 朝早くにレイルからハイルにきていたサイモンは、サラたちから報告を受けた。その後、お金が入った袋をサラの寝ていたベッドの上に置き、宿屋から出ていく。サラが袋の中を確認すると、1000万ゴールドが入っていた。


「1000万ゴールドですの! ぐへへ、笑いが止まりませんの!」


「お! スゲー! 本当に1000万ゴールドだ!」


「……お金がいっぱい!」


 1000万ゴールドを、サラの寝ていたベッドを机代わりにして数えていた三人がよろこんでいるようである。それも、当然だ。いかに貴族といえども、高等部の時点で、1000万ゴールドを手に入れることはないからである。


「はぁ……そんなお金のために、命を危険にさらすとは……おしおきが必要ですね」


 三人がサラのベットに広げられた大金を前によろこんでいると、アリスが近づいてきた。


「いった!」


「痛いですの!」


「……いたい!」


 目にも止まらぬ速さで、アリスは三人の頭にげんこつをしていた。あまりの衝撃に三人は、そのままサラのベッドの上に倒れてしまっている。三人が目を覚ましたのは、その日の夜であった。



 サイモンにサラたちが魔物のことを報告してから、1週間が過ぎている。アリスの看病のおかげか、サラたちは、武器を振るっても問題ないほど回復していた。


「お嬢様。ハイル冒険者ギルドに、今日中に出発することを伝えてまいりました」


「ありがとうですの!」


 サラたちは午前8時に起き、荷物をまとめ、レイル学園に帰る準備をしている。アリスもサラへの報告が終わると、ベッドの上にある服などをたたみ始めた。


「それにしても、マーナガルムだっけ? 本当に討伐できるのか?」


 ソフィアがカバンに物を入れながら、サラのほうを見る。サラたちが戦った魔物は、冒険者ギルドによって、マーナガルムと名づけられていた。


「Sランクの冒険者が集まって、討伐隊を作るらしいんですの! さすがに、討伐できると思いますわ!」


「……私もそう思う」


 サイモンは、サラたちの報告した情報を分析したようである。その結果、アトラス王国の冒険者ギルドの本部でもあるレイル冒険者ギルドは、Sランクの冒険者を集め、マーナガルムを討伐することを決定していた。


「まぁ、そうだよな! というか、Sランクの冒険者を集めて討伐できなかったら、いよいよヤバいだろう! そうなったら、伝説のSSランク冒険者を連れてくるしかないな!」


「SSランク冒険者って、そんなにすごいんですの?」


 サラは元Sランク冒険者であるマークが強いのは分かってはいる。だが、正直、マークには勝てないまでも、いい勝負ができると思っていた。


「私も見たことはないけど、確か、SSランク冒険者になるには、ドラゴンを倒す必要があるらしいな!」


「ど、ドラゴンですの!? そうでしたら、SSランク冒険者は、もはや人ではないですわ!」


「違いない!」


 ドラゴンは魔物の中でも最強の存在とされている。普段は、山奥や火山の頂上など、人が来ることができない場所に生息しているようであった。討伐には、数万の軍が必要だと言われている。過去には、一匹のドラゴンによって、国が滅んだという伝説もあるようであった。


「……そんなに強いですかね、ドラゴン」


 服をたたみながら、アリスがなにかボソッとつぶやいていたが、サラは気にしない。気にしたら、負けであるとサラは思った。


 そうして、荷物をまとめ終わったサラたちは、宿屋を出て、馬車に乗りこもうとする。そのとき、なにやら、ハイルの入口の門のほうから、衛兵が走ってきた。


「サラ様、ソフィア様、シーラ様! どうか、お助けください!」


「どうした!?」


「現在、マーナガルムがハイルに向かってきています!」


「なんだと!?」


「今、門の上から弓で攻撃する準備をしていますが、おそらく、効果はないと思われます。現状、ハイルにいる最高ランクの冒険者は、あなたたちしかいません! どうか、お助けください!」


 サラたちは、門の上のほうを眺める。すでに、衛兵が弓を引いて、矢を()るのが見えた。どうやら、マーナガルムが近づいてきているようである。


「分かった! サラ、シーラ、行くぞ!」


「分かりましたの!」


「……分かった!」


 三人は、荷物からそれぞれの剣と杖をとりだすと、急いで、走りだした。


「なんで、帰ろうとしたらくるんだよ! もうちょっと、おとなしく、山の奥で待ってろよ!」


「本当に、そうですわ! 空気が読めませんの!」


「……最悪」


 三人は文句を言いながら、ハイルの門を出る。衛兵はすぐさま、門を閉めた。三人には、マーナガルムが走ってきているのが見える状況である。数十秒後、三人から少し離れた場所に、マーナガルムが立ち止まっていた。


「これって、もしかしなくても、私たちが目当てか?」


「めっちゃ、私たちを見ていますの! 絶対、そうですの!」


「……こっちをすごい見てる」


 どうやら、マーナガルムのお目当ては、サラたちのようである。三人を、少し離れた場所から、マーナガルムは見つめていた。


「……どうやら、体は大丈夫なようだな?」


「うわッ!? 魔物がしゃべりましたの!?」


 いきなりマーナガルムが、人間の言葉を話したため、サラはビックリしている。他の二人も、驚いているようであった。


(われ)のような長い時を生きた魔物は、話せるものが多い。まぁ、それはどうでもよい。お前たちが回復するのを待っていたぞ!」


「ど、どういうことですの?」


 サラはビビりながら、マーナガルムに質問をする。


「少し、我は退屈(たいくつ)していてな。向かってくる冒険者も弱く、戦っても、我の退屈しのぎにはならなかった。そんな状況で、お前たちが現れた! 途中、よく分からない人間に邪魔をされたが、我から逃げきったのは、お前たちが初めてだ! だから、万全の状態で戦いを楽しむために、待っていたというワケだ!」


「迷惑ですの! 山に帰ってほしいですの!」


「そうだ! 帰れ、帰れ!」


「……帰って」


 マーナガルムの言い分を聞いた三人は声をあげた。サラの目には、マーナガルムがニヤリと笑ったように見えている。


「そういうな! さぁ、戦いを楽しもう!」


 マーナガルムがいきなり、突撃をしてきた。三人は、なんとか突撃を避ける。サラとソフィアは、剣を振りかぶり、マーナガルムに斬りかかった。シーラは、氷の槍を周囲に浮かべ、待機している。


「うおおおおおおおお!」


「うわああああですわ!」


 ソフィアとサラの剣が、マーナガルムに当たった。だが、ガギンという音とともに、剣が弾かれる。


「相変わらず、(かた)いな!」


「手がしびれますの!」


 剣が弾かれた反動を利用して、二人は後ろに下がった。援護するように、二人の後ろから氷の槍が何本も飛んできている。だが、マーナガルムに当たっても、あまり効果はないようであった。


「その程度の魔法は()かぬ!」


 マーナガルムは、飛んでくる氷の槍が当たるのを無視しながら、ふたたび、突撃をしてくる。


「たく、速すぎるよ、本当に!」


「ですわね!」


 二人は剣を構え、正面からマーナガルムの突撃をむかえうった。ガンという音とともに、マーナガルムが二人に激突する。マーナガルムを受け止めることはできたが、勢いを止められず、ガリガリと二人は地面を削りながら、押しこまれていた。


「シーラ、今だ! 目を狙え!」


 ソフィアはマーナガルムに押しこまれながら、シーラに向かって叫んだ。二人が受け止めていることによって、マーナガルムの動きは遅くなっていた。


「……分かった!」


 シーラは、氷の槍をマーナガルムの目に向かって放つ。マーナガルムは、二人を押しこんでいる状態のため、身動きがとれない。だが、顔をかたむけ、マーナガルムは氷の槍が目に当たらないようにしていた。


「なかなか悪くない。確かに、いかに我の体表が硬かろうと、目は生身の部分だ。攻撃が当たれば、致命傷(ちめいしょう)になりえたかもな」


 マーナガルムの目ではない場所に、氷の槍が当たり、くだけ散る。


「まだ、攻撃は終わってないぞ! サラ、やれ!」


「はいですの!」


 マーナガルムをソフィア一人で受け止めると、サラはマーナガルムの目に向かって、剣を突き立てようとした。


「ッ!!」


 さすがに、マーナガルムもサラの動きは予想外だったようだ。顔を必死に振り、サラの剣を防ごうとしている。


「逃がしませんの!」


 サラはマーナガルムの目の近くの体毛をつかむと、一気に頭の上へかけあがる。そして、左手で、マーナガルムの体毛をつかみ、体勢を整えると、右手で(にぎ)った剣を目に突き立てた。


「ウオォォォォォォン!」


 サラの剣がマーナガルムの目に突き刺さっている。声にならない叫びをあげながら、マーナガルムはサラを振り払った。それと同時に、サラの握っている剣も、マーナガルムの目から抜けていた。そのまま、マーナガルムはどこかへ逃げ去っていったようである。


 こうして、サラたちは、マーナガルムを撃退(げきたい)し、ハイルを守ることができた。

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