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13 決勝戦ですわ!

 ――とうとう、実技試験の決勝戦になった。準決勝でサラが倒したソフィアは、既に復活していた。また、観客席で決勝戦を観戦するようであり、隣には、シーラが座っていた。


(……とうとう、この時が来ましたの)


 サラは気が重かった。相手がグレンでなければ、このように気が重くなることはなかっただろう。だが、グレンの剣の腕前は本物であった。実際に、中等部から、一度も負けていないため、その実力の高さが嫌というほど、サラは分かっていた。


(ダメですわ! いくら、恋焦がれているグレン王子が相手だとしても、勝たなければいけませんの! そうでなければ、Sランクの魔物と戦うハメになりますの!)


 サラは顔を両手でパンと叩くと、試合会場へ向かった。そして、試合会場に到着すると、既にグレンが待ち受けていた。


「サラ! やはり、決勝戦の相手は君だと思ったよ! 今回も勝たせてもらうよ!」


 サラが試合会場の決められた位置まで進むと、グレンがサラに対して、そう言った。


(はううう! やっぱり、カッコいいですわ!)


 思わずサラは体をクネクネしようとしたが、その瞬間、背後から視線を感じた。急いで、振り向くと、観客席にアリスがいた。サラが良く見ると、ゴミを見るような目でこちらを見ているのが分かった。


(……恐いですわ)


 サラの気持ちが一気に冷めた。そのせいか分からないが、グレンと普通に戦えそうであった。既にグレンは剣を構えていたので、サラも落ち着いた表情で剣を構えた。マークは二人の戦闘準備が整ったことを確認した。


 闘技場の観客席では、決勝戦が始まることを察したのか、静まり返っていた。


「それでは、始め!」


 静まり返った闘技場に、マークの言葉が響いた。サラとグレンはお互いに攻撃出来る隙を見つけようとしているのか、一定の距離を保ったまま、剣を構えて移動していた。


(……隙がありませんの。さすがは、中等部から負けていないだけはありますわね)


 サラは基本的に、イアンとは違い、先に攻撃を仕掛け一気に相手を倒す、先の先の戦い方を好んでいた。試合が始まる前までは、一気に攻撃をして畳みかけようと思っていたが、どうにもグレンの隙が見つからず、その戦法は諦めた。


 代わりに、グレンの攻撃に対して、反撃をしながら優位に戦おうと考えていた。グレンも、サラが待ち構えているのは分かったので、いきなり攻撃を仕掛けようとはしてこなかった。


(攻撃してきましたわ!)


 にらみ合いを続けて、1分。このまま、にらみ合いをしても、しょうがないと考えたのか、グレンが攻撃を仕掛けてきた。グレンの上段からの一撃に、サラは剣を横にして防御した。ガンという音が闘技場に響いていた。


 二人はそのまま鍔迫(つばぜ)り合い続けていた。ソフィアの一撃とは違い、そこまで重くはなかったため、サラは余裕をもって、グレンの剣を受け止めることが出来た。


「やっぱり、強いね、サラは! 僕が思った通りだ! 今回はまともに戦ってくれそうだね!」


 グレンは鍔迫り合いを続けたまま、サラにそう言った。サラは何とか、グレンの剣を受け流そうとしていたが、受け流した後、そのまま返しの剣で斬られそうだったので止めた。グレンは埒が明かないと思ったのか、鍔迫り合いを続けたまま、強引に剣を弾いて、少し距離をとった。


 そのようにして、距離をとろうとしたグレンの行動を、サラは見逃さなかった。一気に攻勢に転じると、グレンは驚いた顔をしながら、サラの連続攻撃を防御していた。ガン、ガン、ガンとサラが連続で攻撃する音が闘技場に響いていた。


「いや、これは良くないね!」


 グレンはサラの連続攻撃を防御しながら、そう言った。グレンの表情には、余裕があるようには見えなかった。また、サラの攻撃を防御してはいるが、どんどんと後退していたため、観客席からはサラの方が優勢のように見えていた。


 今まで、グレンが苦戦する姿を見たことがなかった観客席の生徒達は、ざわつき始めていた。


(このままいけば、倒せますの!)


 そう確信したサラは、連続攻撃の速度を速くした。観客席では、サラの連続攻撃の音は、ほとんどつながっているように聞こえていた。それほどの速度の攻撃であったので、グレンは必死な顔で防御するので、精一杯であった。


 その状態が、数分間続いた。観客席からはサラがグレン王子を圧倒しているように見えていた。その事実を信じられないのか、観客席から必死でグレン王子を応援する声を出している生徒が何人かいるようであった。


 だが、サラも少し疲れてきたため、剣を振るう速度が少し遅くなっていた。グレンはそのことに気づくと、強引にサラの剣に自分の剣を当て、その反発で後ろに下がった。サラも仕切り直すため、すぐにグレン王子に攻撃をしなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……やっと、抜け出せたよ! 僕が思っていたよりサラは強いね! どうやら、本気を出さないと倒せなさそうだ!」


 グレンがそう言うと、その体から一気に殺気があふれ出していた。そして、今までのグレンからは考えられないほどの威力の斬撃を繰り出してきた。


「ッ!!」


 いきなりグレンの振るう剣の威力が変わったので、サラはとっさに防御したが、不完全な防御であったので、そのまま剣ごと、サラは弾き飛ばされた。5mほど地面を転がると、サラは何とか体勢を立て直した。


(いったい、何ですの!? 剣の威力がいきなり変わりましたわ!)


 今までのグレンの戦い方は、良く言えばお手本のようであり、悪く言えば教科書的な戦い方であった。だが、先ほどサラの受けた攻撃は、魔物の攻撃の如き、荒々しさだった。


 グレンの攻撃の変わり様に、闘技場には戸惑いが広がっていた。


「これが、グレン王子の本当の剣ですの……」


「うん! これが、本当の僕の剣なんだ! あまり王子としては相応しい剣ではないよね! だから、レイル学園に入ってからは、見せないようにしていたんだ! それに、見せるほどの相手もいなかったしね!」


 サラのつぶやきが聞こえたようで、グレンは剣を構えながら、そう言った。グレンはそのまま、続けた。


「だから、久しぶりに本気を出せて嬉しいよ!」


 グレンはそう言うと、再び、サラに攻撃を仕掛けようと一気に踏みこんだ。サラも負けじと、前傾姿勢をとると、一気に踏みこみ、グレンを迎え撃とうとしていた。二人の立っていた地面が、踏みこみに耐えられず、陥没していた。


 二人は激突をした。その威力は凄まじく、闘技場にまで衝撃が伝わっていた。二人は、お互いに激突した衝撃を利用して、後方に移動し、体勢を立て直した。


「はは! 楽しいね! 本気を出せるというのは!」


 グレンは普段、見せないようなどう猛な笑顔を浮かべながら、サラに斬りかかっていた。サラも必死の顔で剣を振るっていた。ザザザガガギギと火花が、二人の間で炸裂し合っていた。


 その衝撃も凄まじく、観客席の魔法科の生徒の何人かが、伝わってくる衝撃に耐え切れず、体をかがめていた。ソフィアは伝わってくる衝撃にひるまず、そのまま観戦していたが、シーラは目の前に小さい氷の壁を魔法で作って、衝撃が伝わらないようにしていた。


 数分後、永遠に続くかと思われた二人の試合は終わりを迎えようとしていた。サラは左腕から血を流し、今にも倒れそうになっていた。対して、グレンもサラの剣がかすっていたのか、体の至るところから血を流していた。


「ふぅ……どうやら、サラは限界のようだね。まぁ、それは僕も一緒だけど……」


「…………」


 グレンは何とか剣を構えた。口を開くことすら億劫(おっくう)だとばかりにサラも、剣を構えた。二人は離れた位置に立っていたが、お互い、相手の姿しか目に映っていなかった。観客席から見ても、二人が限界であり、次の一撃で勝負が決まると思えるような状況であった。


「うおおおおおおお!」


「うわああああああ!」


 二人は同時に叫ぶと、一気に間合いを詰め、お互いに最後の一撃を繰り出した。二人の斬撃があまりにも速く、観客席からはどちらの攻撃が当たったのか、判断がつかなかった。二人が斬撃を繰り出した後、振り終わった体勢で、お互いに背中を向けたまま停止していた。


「久しぶりに楽しかったよ……」


 グレンはそうつぶやくと、そのまま、倒れてしまった。直後に、サラも倒れた。闘技場は静まり返っていた。


「勝者、サラ・ホープ!」


 サラの方が倒れるまでの時間が長かったと判断したマークが、闘技場に響く声でそう言った。まさか、グレンが負けると思っていなかった観客席の生徒達は、静まり返っていた。そして、サラとグレンはそれぞれ担架に乗せられて、保健室へ連れて行かれた。


 こうして、サラはグレンに勝利し、実技試験で1位を取ることが出来た。






 ――実技試験が終了し、サラは保健室にいた。サラが目を覚まし、顔を横にすると、ベッドの近くに、ソフィアとシーラとアリスが座っているのが見えた。また、グレンもサラの隣のベッドで寝ているようであった。


「お! サラ、起きたか!」


 サラが起きたことに気づいたソフィアが声を上げた。その声に反応して、シーラもサラの顔をのぞきこんだ。


「……結局、どっちが勝ちましたの?」


 サラは、体の痛みに耐えながら、ソフィアに質問をした。サラはグレンと戦っていたのは覚えているが、戦っている途中から、記憶がなかったため、どちらが勝ったのかが分からなかった。


「覚えていないのか!? サラが勝ったよ!」


「……そうですのね……良かったですわ」


 サラは息を吐いた。どうやら、自分は無事に優勝出来たようだと思ったサラは、安心した。これで、Sランクの魔物に挑まなくても済みそうであった。


「……サラ、凄かった!」


「……ありがとうですわ」


 シーラも頑張ったサラを褒めていた。シーラにしては珍しく、ウキウキとした声であった。


「言いたいことはありますが、とりあえずお疲れ様でした、お嬢様。約束通り、Sランクの魔物に挑まなくても良いです。とにかく、今は、回復に専念して下さい」


「……分かりましたわ」


 サラはホッとすると、そのまま、眠りについた。



 ――次の日の朝。サラは一日寝たことによって、ある程度体力が回復した。左腕には包帯が巻かれたままだったが、動く分には問題なさそうであった。また、授業の準備はアリスがしてくれたため、保健室から直接、4組の教室に向かった。


 サラは、アリスとの訓練で何回も死にかけ、しかも、その状態でアリスに強制的に動かされていたので、自然回復力が人並み以上にあった。その証拠に、サラは動けるようになっているにも関わらず、グレンは未だに保健室のベッドの上で眠り続けていた。


 4組の教室にサラが到着すると、ソフィアが駆け寄って来た。


「おい、サラ! 試験の結果が貼り出されているぞ!」


「そうなんですの?」


 黒板の横に貼り出されている紙を、サラは確認するために近づいた。サラが近づくと、周りにいた4組の生徒達は避けてくれた。そのため、サラは貼り出された紙を見ることが出来た。


「え? ワタクシが総合成績1位?」


 試験結果が書かれている紙をサラが確認すると、筆記試験1位、実技試験1位であり、その結果、総合成績が1位であった。グレンは総合成績2位であり、他の科の試験結果も見ることが出来たので、確認したところ、シーラが魔法科の1位であった。


 ソフィアは、総合成績3位であった。意外と勉強も出来るんだなとサラは思った。そんなサラの様子を察したのか、後ろにいたソフィアが口を開いた。


「今、意外と私が勉強出来るんだなと思っただろ?」


「そ、そ、そんなことありませんの!」


「本当かぁ?」


「本当ですの!」


 サラは必死に言い訳をしていた。その様子を、ソフィアはジト目で見ていた。そうこうしているうちに、マークが教室に入って来た。


「お前ら! さっさと席に座れ!」


 マークが教室に入ってくると、4組の生徒達は急いで、席に座った。こうして、定期試験が終了した。それと同時に、サラの命の危機も去った。

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