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12 実技試験ですわ!

 ――魔法科の実技試験が終わり、次の日になっていた。とうとう、騎士科の実技試験が始まろうとしていた。サラが事前に、トーナメント表を確認したところ、第1シードがグレン、第2シードがサラ、第3シードが、他の組の学級委員長ではなく、ソフィアであった。


 どうやら、ソフィアは他の組の学級委員長よりも強いという評価を受けているようであった。確かに、前の学級対抗戦でも負けておらず、なおかつ、授業の訓練でもサラとまともに剣を打ち合っているため、そう評価されてもおかしくはなかった。


 第4シードは、3組の学級委員長であった。シードの選手は、ある程度トーナメント戦が進行してから試合があるため、最初の日は観戦をしているか自主訓練をするかのどちらかであった。サラは、文字通り、命がかかっているので、必死になってソフィアと訓練をしていた。


「サラ。結局、トーナメントは大丈夫なのか?」


「だ、大丈夫ですわ!」


 ソフィアはサラと剣で打ち合いながら、心配そうにしていた。当のサラはというと、必死になって、ソフィアに向かって剣を振っていた。どうやら、大丈夫ではなさそうであった。ソフィアは何とか、サラを慰めようとした。


「まぁ、順当に勝ち上がれば、準決勝で私とサラが当たる訳だけど、サラは私には勝てるから大丈夫でしょ!」


「勝負は時の運ですわ! そんなことは分かりませんわ!」


「大丈夫だって! もし、私とサラが本気で戦えば、それこそ殺し合いになるだろう? だから、適度に手を抜くわ! それより、問題はグレン王子だろう? 本気で戦えるのか?」


「……難しいですわね」


「だよな」


 サラはそう言うと、剣を振るのを止めた。そして、休憩をするために、訓練場の壁際へ移動した。ソフィアもサラについていき移動すると、サラの隣で容器に入った水を飲んでいた。サラは、額の汗をぬぐっていた。


「まぁ、グレン王子は別に自分を叩き伏せた相手だとしても、嫌いにはならないと思うな! だから、遠慮なく叩き潰せ!」


「……それが、出来たら苦労しませんの。それに、グレン王子って強いんですわよね?」


「ああ、強い! 前も言ったと思うけど、私と互角かそれ以上だと思うな! まぁ、実際に戦ってみないと分からないがな!」


「……余計、気が重くなりましたの」


 サラとソフィアが訓練場の端でそのような会話をしていると、シーラが近づいて来た。魔法科の生徒は、定期試験が終了しているため、騎士科の実技試験が行われている期間は、自由時間となっていた。だが、魔法科の生徒のほとんどは、騎士科の実技試験を観戦するために闘技場の観客席に集まっていた。


「……サラ、大丈夫?」


 シーラはソフィアからサラの状況を聞いていたため、サラが心配で来てくれたようだ。シーラがサラの隣に座ると、サラの顔をのぞきこんでいた。


「……大丈夫ですの」


「……大丈夫じゃなさそう。やっぱり、グレン王子と戦うのは難しいの?」


「……難しいですわ」


「……でも、勝たないとSランクの魔物と戦わされるんでしょ? サラ、死ぬよ?」


「……そうなんですわよね」


「……というか、戦わなければ良いだけじゃないの?」


「それが、出来たら苦労しませんわ……絶対に、アリスは強制的にワタクシを魔物の下まで連れて行きますわ。そして、戦わざるえない状態にすると思いますわ……」


「……そうなんだ」


 シーラはそう言うと、黙ってしまった。何か、サラを慰めるために、言葉を考えているようであったが、思いついていないようであった。ソフィアが手を組んで腕を伸ばすと、立ち上がった。


「まぁ、ゴチャゴチャ考えても、仕方がない! 雑念は剣を振るって忘れるに限るよ! だから、剣を振るおう!」


「……私も手伝う」


 肩に剣を載せているソフィアの隣に、シーラが立って移動していた。どうやら、シーラもサラの訓練を手伝ってくれるようであった。そうして、三人は訓練を始めた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って欲しいですの!」


「問答無用!」


 何とかソフィアの攻撃を防いでいたサラは、ソフィアから距離をとろうとしていた。だが、そうする間もなく、シーラの魔法の攻撃が襲いかかっていた。氷で出来た槍がサラに何本も飛んできていた。


「死にますの! 死にますの! 二人同時は無理ですのおおおおおお!」


 サラの絶叫が、訓練場に響いていた。






 ――トーナメントが進行し、とうとう、サラの出番になった。サラはソフィアとシーラとの訓練で死にそうになりながら、訓練をしたため、迷いは振り切れていた。先に戦っていたグレンは、トーナメントを勝ち上がってきた生徒を数秒で倒していた。


「行ってきますの!」


「ああ、行ってこい!」


「……頑張って」


 ソフィアとシーラに見送られながら、サラは実技試験での初戦を迎えた。相手は、1組の騎士科の生徒であった。


「それでは、始め!」


 学級対抗戦に引き続き、審判はマークが務めていた。試合が始まると、サラは一気に地面を踏みこみ、下段から、相手の剣に向かって、剣を振り払った。その結果、パキンという音とともに相手の剣が宙を舞い、数秒後には地面に落ちていた。


「勝者、サラ・ホープ!」


 あまりにも一瞬で、勝負が決まったため、観客席にいる魔法科の生徒はポカンとしていた。サラの相手も、剣を弾き飛ばされたのは分かったが、何をされたのか分からなかったため、呆然と立ったままになっていた。


「サラ、お疲れ! 大丈夫そうだな!」


「……お疲れ」


「ありがとうですわ!」


 すっかりいつもの調子を取り戻したサラはそう答えた。三人は、闘技場の観客席に座ると、他の生徒の実技試験を観戦していた。しばらくして、ソフィアの試合が始まったが、長身からの重過ぎる一撃で、相手を昏倒させていた。当然、ソフィアの勝利であった。


 第3シードのソフィアの試合が終わり、次は第4シードの3組の学級委員長の試合となっていた。


「お! 3組の学級委員長の相手って、イアンじゃないか?」


 観客席に帰って来たソフィアが、闘技場の中央にある試合会場を見ると、そこにはイアンが立っていた。


「そうみたいですわね」


 イアンは学級委員長ではなくなり、しかも、ソフィアより弱いという評価を受けている状況であった。だが、学級委員長ではあったので、騎士科のほとんどの生徒には負けないようであった。さらに、最近では、走りこみを行っているようであり、弱点の克服を行おうとしているようであった。


「それでは、始め!」


 マークのかけ声で試合が始まった。予想通り、イアンの相手は攻撃を受け続け、イアンの体力切れを狙っているようであった。だが、イアンの攻撃が前より威力が増しているのか、余裕のあった顔から徐々に余裕が消えていった。


 そうこうするうちに、30分が経過していた。イアンは未だに、相手に対して、剣を振り続けていた。


「サラ、シーラ! どっちが勝つと思う? 私はイアンが勝つと思うな!」


 あまりにも試合が長引き、飽きてきたソフィアがサラとシーラに尋ねた。


「ワタクシも、イアンだと思いますの! いつもだったら、この時点で体力が切れているハズなのに、戦えているからですわ!」


「……私もイアンだと思う」


「おいおい! サラもシーラもイアンかよ! これじゃ、面白くないな!」


 三人とも、試合はイアンが勝つと予想していた。それほど、イアンが優勢に試合を進めているように感じられた。とうとう、イアンの相手は、我慢出来ずに自分から攻勢を仕掛けていた。どうやら、イアンの体力切れを狙うのは諦めたようであった。


「あ! これは決まるな!」


 イアンの相手が自分から攻撃し始めたのを見たソフィアはつぶやいた。ソフィアも同感であった。イアンは相手の上段からの剣の攻撃を弾くと、そのまま、相手の胴体に向かって剣を振り払った。イアンの攻撃を防御出来なかった相手は攻撃が直撃し、そのまま、地面に膝をついてしまった。


「勝者、イアン・クロフォード!」


 マークの声が闘技場に響いていた。長丁場の試合を終えたが、イアンの体力は、まだ大丈夫そうだとサラは思った。






 ――騎士科の実技試験は、準決勝まで進行していた。最終的に残った4人は、グレン、サラ、ソフィア、イアンであった。準決勝は、グレン対イアン、サラ対ソフィアの組み合わせであった。最初に、グレン対イアンの試合が始まった。


 イアンはかなり粘ったが、得意の後の先での剣技が通じなかったため、グレンに負けていた。だが、グレンの一方的な展開での試合という訳ではなく、時々、イアンがグレンに攻撃を当てそうになっていたので、イアンにとって、内容は悪くない試合であった。


 グレン対イアンの試合が終わると、次はサラ対ソフィアの試合の番になっていた。そのため、サラとソフィアは、試合会場に向けて歩いていた。そうしていたところ、目の前にアリスが現れた。


「……? アリス、どうしましたの?」


「いえ、ソフィア様に用がありまして」


「私?」


 ソフィアは、アリスが自分に用があるとは思わず、驚いていた。


「はい。一応、言っておきますが、お嬢様と戦う時は、全力でお願いします」


「やだな、アリスさん! もちろん、全力で戦いますよ!」


 口ではそう言っているが、ソフィアは、サラに負ける気満々であった。ソフィアの返答を聞いた、アリスの目が細くなった。


「それは、良かったです。ただ、ソフィア様が手を抜いていると私が判断した場合は、その旨をソフィア様のお姉様であるローラ様にお伝えするので、そこだけはお忘れにならないようにして下さい」


 アリスの言葉を聞いた瞬間、ソフィアの顔色が変わった。アリスは言い終わると、姿を消した。


「……サラ、ごめん。ローラ姉様って私が手を抜くと、凄く怒るんだよね……だから、今回は本気でいくよ」


 ソフィアはそう言うと、サラとは反対方向の試合会場の入り口に向かって行った。どうやら、ローラという人物は、相当、怒ると恐いようであった。


 そして、サラとソフィアの試合が始まった。いつもとは違い、ソフィアは最初から全力であった。ブンという音を出しながら、ソフィアが上段から剣を振るってきた。それをサラは、剣を横にすることで防御した。


 バゴンという音が闘技場に響いていた。ソフィアの一撃は相当威力があったのか、防御をしたサラの足元の地面が少し陥没していた。


(一撃が重いですの!)


 サラの耳に自分の手首が軋む音が聞こえていた。このままではマズいと思ったサラは、ソフィアの攻撃を受け流し、少し距離をとった。あのまま、ソフィアの攻撃を耐え続けていれば、手首が使いものにならなくなっていただろう。


「悪いな、サラ! 今回は勝たせてもらうよ!」


 ソフィアは、サラが距離をとると、勝負決めにきたのか、一気に間合いを詰めサラの胴体を狙って、本気の横なぎの一撃を放った。ブオンという音だけで、凄まじい威力があると分かる一撃がサラに迫っていた。


(これは、剣で受けたら、腕が使えなくなりますの! かといって、受け流すことも出来なさそうですし……そうだ! わざと転倒すれば避けられるハズですわ!)


 サラは後頭部を地面に近づけ、地面を滑るようにして、ソフィアの一撃を避けた。まさか、避けられると思っていなかったのかソフィアの顔を見ると、驚愕していた。サラは転んだ姿勢のまま、ガラ空きのソフィアの胴体に剣を叩きつけた。


「うッ……」


 ソフィアはサラの攻撃を受け、地面に膝をついてしまった。こうして、サラはソフィアに勝利をすることが出来た。今回のソフィアは紛れもなく、本気を出していた。もし、サラの奇策が通じていなければ、転んだサラに、ソフィアがトドメを刺していただろう。


 それほど、実力が拮抗した試合であった。観客席からサラとソフィアの試合を観戦していたアリスにも、ソフィアが本気で戦っていたのは伝わっていた。そのため、ソフィアの姉のローラにアリスが何か言うことはなかったようであった。

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