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1 一目ぼれですわ!

「か、カッコいいですわ!」


 アトラス王国の貴族の娘であるサラ・ホープは、一人の男性に釘付けになっていた。その男性の名前は、グレン・アトラス。アトラス王国の第1王子であり、サラと同い年であった。アトラス王国の王城であるレイル城でのパーティーに初めて参加した場での出来事であった。


 サラは、アトラス王国の貴族の娘であった。だが、サラの実家のホープ家は、裕福ではない貴族であったため、レイル城でのパーティーに呼ばれることはほとんどなかった。レイル城でのパーティーに呼ばれるのは、ほとんどが力を持っている貴族か4大貴族と呼ばれる大貴族だけであったためである。


 だが、今回は、グレンが、自分と同年代のアトラス王国の貴族の娘と息子に会ってみたいという要望によって、グレンと同年代のアトラス王国の全ての貴族の娘と息子が、パーティーに呼ばれていた。そんな訳で、普段は呼ばれることがないサラが呼ばれたのである。


 サラは、今まで、誰かを好きになるという経験がなかった。一般的な貴族が通うセバック学園にサラは通っていたが、周りの貴族の女子が、恋愛話を語り合っている中、サラは一切興味がなかったため、その手の話をしたことがなかった。


(これが、きっと恋ですわ!)


 そんなサラが初めて恋に落ちた。その衝撃は、凄まじく、サラは自分の心臓の鼓動が速くなっているのを自覚できた。もう、今にも、倒れそうである。そんなサラの目の前を、グレンが笑いながら、歩いていた。サラの周りにいる同年代の女子はそれだけで、黄色い歓声を上げていた。


「……ッ!」


 サラは何とか、勇気を振り絞り、歩いているグレンに声をかけようとしたが、口をパクパクさせるだけに終わってしまった。そして、グレンは、パーティーの会場から退場してしまった。






 サラは、レイル城でのパーティーから帰ると、高等部からは、グレンが通うことになるレイル学園に行きたいと両親に直談判をした。


「何を言っているのだ、サラ!? お前は、セバック学園に通っているだろう! そのまま、高等部に上がれば良いじゃないか!?」


 サラの父親であるポール・ホープは驚きながら、サラを見た。セバック学園に通っている中等部3年のサラは、そのまま通い続ければ、来年には高等部に自動的に進級することが可能であった。


「そうよ! お父さんの言う通りよ! セバック学園にそのまま通えば良いじゃない!? それに、レイル学園に、高等部から行くのだったら、編入試験に合格しなければいけないのよ!?」


 サラの母親であるヘレン・ホープも、ポールに同調した。ヘレンの言う通り、サラがレイル学園に高等部から通うためには、編入試験に合格しなければいけなかった。


 レイル学園は、アトラス王国の将来の軍人、文官の養成を目的とした学園であり、軍人を養成するための騎士科と魔法科、文官を養成するための普通科の3つの科に別れていた。普通科に行くのであれば、編入試験は筆記試験だけで良いが、騎士科か魔法科に行くためには筆記試験に加えて、それぞれの科に応じた実技試験も合格する必要があった。


「分かっていますわ! それでも、どうしても、高等部からは、レイル学園に行きたいんですわ!」


「ダメだ! サラには、セバック学園の高等部にこのまま進級してもらう。編入などもってのほかだ!」


「サラ、諦めなさい!」


 ポールとヘレンは、どうにかして、編入試験を諦めさせようとした。それも、当然のことであった。レイル学園の編入試験は難しく、合格者は毎年、一人か二人だけであり、サラの学力から考えて、到底、無理だということは分かりきっていたからである。


 しかも、編入試験を受けるには、自動的にセバック学園の高等部に上がれる権利を放棄しなければならなかった。つまり、編入試験に落ちると、最低でも1年は、どこの学園にも通えなくなるということであった。


「嫌ですわ! どんなことがあっても、レイル学園に行きますわ!」


「聞き分けがない子だ! サラの学力では、どう考えても、無理だろう! それに、編入試験に落ちたらどうする!?」


「落ちませんから、大丈夫ですわ!」


「サラの自信は、いったい、どこからくるのだ!? そして、一応、聞いておくが、何科の編入試験を受けるつもりだ!?」


「騎士科ですわ!」


 サラは即答した。なぜなら、グレンが通うことになるのは、騎士科であったためである。


「騎士科!? 筆記試験でさえ、厳しいのに実技試験もある騎士科だと!? 絶対に無理だろう!」


 ポールはそう叫んだ。サラは、生まれてから、一回も剣や槍を持ったことがないので、当然である。


「剣の練習をすれば、大丈夫ですわ!」


「少しやっただけで、出来る訳がないだろう!」


「いえ、諦めなければ、きっと出来るようになりますわ!」


「…………」


 ポールはとうとう黙ってしまった。サラとポールの言い合いを聞いていたヘレンも黙っていた。そして、ポールが沈黙すること、3分。サラの顔を真剣な表情で見つめると、口を開いた。


「……サラの気持ちに負けたよ。レイル学園の編入試験を受験することを認めよう」


「お父さん!」


 ヘレンが信じられないという顔をしていた。それも、当然であろうとポールはヘレンの声を聞きながら、思った。


「ただし、編入試験に合格したとしても、学費は自分で払いなさい!」


「ありがとうございますですわ、お父さん! それで、学費って、どのくらいですの?」


「学費は高等部3年間で、200万ゴールドだ! それも、編入前に一括で払わないといけないからな!」


「200万ゴールド!?」


 サラは気を失いそうになった。サラの月々のお小遣いは、5千ゴールドであり、今の貯金は1万ゴールドであった。到底、足りなかった。


「そうだ! 200万ゴールドだ! 頑張って、稼ぐのだぞ! それでは、私は部屋に戻る!」


 ポールは立ち上がると、部屋に戻っていった。ヘレンもポールに続いて、部屋を出ていった。


「お父さん! 200万ゴールドなんて、サラには稼げないわよ!」


「分かっている。これで、少し頭を冷やせば、レイル学園の編入試験を受験することを考え直すだろう」


 部屋を出た後、ポールとヘレンは、歩きながら、そんなことを話していた。






 ポールとヘレンが自分の部屋に戻った後、サラも自分の部屋に戻っていた。レイル学園の編入試験の内容である筆記試験と実技試験、編入するために必要な資金である200万ゴールドのことで、頭がいっぱいであった。


 そして、自分の部屋の椅子に座って、机に向かいながら、ウンウンと唸っていると、サラの後ろにメイドと思われる女性が現れた。


「お嬢様」


「わぁぁ! びっくりしましたわ! いきなり現れるのは、止めて下さいまし!」


 サラは心臓が止まりそうになった。毎度、毎度、サラの専属メイドであるアリスは、サラの背後にいきなり現れるので、そのたびに、サラの寿命が縮みそうになっていた。1年前から、サラの専属メイドとして雇われているアリスであったが、正直、サラは苦手であった。


 まず、目つきが恐い。明らかに、メイドがして良い目つきではなかった。絶対に、何人か、あの世に送っているとサラが思うほど、目つきが恐かった。たまに、サラのことをゴミを見るような目で見ている気がするが、サラは気にしないようにしていた。何か、それに言及したら、恐いからである。


 次に、サラに対する態度である。結婚して辞めた前のメイドは優しかったのに比べて、アリスは厳しかった。サラが少しでも、寝坊しようものなら、サラが寝ているベッドをひっくり返して、強制的にサラを起床させていた。サラは、アリスの力にビビりながら、急いで、起床をしていた。他にも、色々とあるが、サラはアリスが恐いので、直接、言うことはしていなかった。


 最後に、たまに鉄の匂いがするので、純粋に恐かった。そのことを指摘してはいけない気がして、サラは指摘をしていなかった。その判断は、正解だとサラ自身は確信していた。


 このような理由で、サラはアリスのことが苦手であった。そんなアリスが、紅茶の入ったカップをサラの机に置いた。サラは、カップを持ち上げると、紅茶に口をつけた。口の中に、心地良い渋みが広がった。


「お嬢様。先ほどは、ご主人様とレイル学園の編入試験の事で、もめていたようですが、私が出来ることであれば、お手伝いしましょうか?」


「ただのメイドの貴方に、お手伝いできることはありませんですわ。気持ちだけ、受け取っておくですわ」


 どうやら、部屋の外にも聞こえていたようであった。そして、サラは、紅茶の入ったカップを机に置くと、また、編入試験に関することを考え始めた。椅子に座っているサラの隣に、アリスが移動していた。


「お嬢様がお困りになられているのは、編入試験の筆記試験と実技試験と200万ゴールドをどうしようかということですよね? それなら、私が、全て解決出来ますよ?」


 サラはアリスの言葉を聞くと、アリスの方に顔を向けた。そして、アリスの顔を見ると、冗談で言っている訳ではないことが分かった。


「……本当に解決出来ますの?」


「はい、出来ますよ」


「……信じられないですわ」


「お嬢様がそう思うのも無理はないかと思います。ただ、お嬢様がご自分の力で何とかするのは無理だと思いますよ。実際に、どうすれば良いのかが分からないから、今、悩んでいたのではないでしょうか?」


「…………」


 図星であった。サラが、いくら考えても、上手くいく方法は一つも思い浮かばなかった。


(……実際、どうすれば良いのか分からないのは事実ですわ。それなら、アリスに賭けてみるのも悪くないですわ)


 サラはそう考え、アリスの顔を、改めて、見つめた。


「……それでは、お願いしますわ」


「分かりました、お嬢様」


 こうして、アリスの指導の下、レイル学園の編入試験のための準備が始まった。

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