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END2

 ゴブリンのリーダーが、四肢を傷付けられ倒れているレヤンの肩を叩く。アネリーゼは手下のゴブリン達に連れて行かれてしまった。レヤンに懇願と絶望と怒りの言葉をぶつけながら───

 ゴブリンのリーダーはレヤンの頭をポンポン叩く。まるで「お前情け無いな」と言っているかの様に。そして、レヤンの短剣と弓矢を回収すると、レヤンの腹に蹴りを入れてから森の中に消えて行った。



 レヤンは救難信号の魔法を上げた。それは目立つ赤い煙の柱を上げる魔法で、人を呼べるが、同時に捕食者に自分の居場所を教えてしまう事になる。それでも無様な泣き声で捕食者を呼んでしまわない様に、泣き叫びたい気持ちを抑えて声は潜めた。

 これは賭けだった。救助と捕食者、どちらが先に来るのかの。

(アネリーゼ······! 直ぐに助けに行く! だからアネリーゼは信号を上げるな! ゴブリンを刺激しないでくれ!)

 レヤンはその後、失血と疲労から意識を手放してしまった。



 レヤンが気が付いた時、周囲には大勢の人が居た。レヤンは今寝かされている。手脚は痛み、動かす気にはなれず、首と目を動かして辺りを確認していく。

(───此処はギルドか?)

 ここはレヤンには見覚えのある場所、足繁く通ったギルドだった。

「アネリーゼ!! っう!?」

 レヤンはアネリーゼの姿を確認しようと、咄嗟に身体を起こそうとするが、四肢の痛みから起き上がる事は出来なかった。


「気が付いたか! 一応手当をして、今医者を呼んだところだ。安心して休んで居ると良い」

 ギルドの職員からそう告げられたレヤンだったが、そんな事はどうでも良い事だった。

「アネリーゼは? 女の子は居ませんでしたか! ゴブリンに連れ攫われたんです!」

 ───レヤンの話を聞いたギルドは、直ぐに救助の依頼を発行した。そしてその場に居た冒険者達は直ぐに支度を整え、鼻が利く犬型の魔獣を引き連れて出発して行った。



 アネリーゼは見つかった。しかし、ゴブリン達に嬲られ、喰い荒らされ、変わり果てた姿で町へ帰って来た。

「この根性無しが!」

 レヤンは殴られた。アネリーゼの父親は、娘が被ったであろう苦痛を怒りに変え、有りっ丈をレヤンにぶつけた。誰もそれを止める者は居ない。レヤンでさえもそれを受け入れた。

 そう───あの時レヤンがアネリーゼを一瞬の苦痛の内に逝かせてやれば、彼女は地獄の苦痛を味わわずに逝けたのだ。



「───酷えな······酷え奴だ」

 レヤンはギルドの表に打ち捨てられた。レヤンがこうなった事情は直ぐに町中に広まり、通行人はレヤンに罵倒を吐き捨てて行く。

 そこにボロボロのマントを纏った一人の女が、足取り重く歩いて来た。

「───レヤン······なのか?」

 レヤンは朦朧とする意識の中、辛うじて自分の名前を呼ばれた事に気付き、顔を向けた。

「レヤン! お前、一体どうしたんだ!? これは誰にやられたんだ!」

「───シュ······リア······」

 そこに居たのはシュリアだった。


 状況を聞くシュリアだったが、レヤンは言葉に詰まり、口だけパクパク動かして居ると、通りすがりの男がシュリアに経緯を話して行った。

「レヤン、冒険者を続けて居たんだな······。レヤン済まない······私のせいだ。私がもっと上手く出来ていれば······」

「わた···し···のせい?」

 その言葉にレヤンはキレた。

「私のせいだと! そうだよ! お前のせいだシュリア!」

 レヤンは地べたに顔を付け、口に土が入るのもお構い無しにシュリアに捲し立てる。

「アネリーゼは僕とパーティーを組まなければこんな事にはならなかったんだ! お前が僕を連れて行けば!」

 そうなればアネリーゼは狼に食い殺されて居たか、はたまた別の未来の可能性が有ったのか、しかしレヤンにはそんな事を考える余裕は残されていなかった。

「お前が殺したんだシュリア! お前が······お前がああ! お前がアネリーゼを殺したんだあああ!」


 レヤンはシュリアを掴もうと、碌に力の入らない腕を伸ばして行く。

「レヤン······ごめんなさい。つらい思いをさせてしまって、ごめんなさい」

「ふざけるなよ······! 謝って何になるんだ!? 謝るくらいなら手伝えよ! アイツを殺すのを手伝えよ!」

「レヤン······」

 レヤンの手がシュリアのマントに届き、肩にかけられていただけのマントが簡単にずり落ちた。

「───シュ······リア?」

 そこに露わになったものにレヤンの興奮は瞬く間に冷め、そして言葉を失った。


 シュリアはレヤンの目をじっと見つめながら、血に汚れた包帯に右手をあてる。

「······失ったよ。仲間も一緒にだ」

 レヤンの視線はシュリアの失われた腕に釘付けになり、シュリアはマントを握ったままのレヤンの手に、自分に残された方の手を重ねて言う。

「私の腕なんて、レヤンが失ったものに比べれば知れたものだ」

 レヤンは掛ける言葉が見つからず、シュリアの目を、ただじっと見つめる事しか出来なかった。

「レヤン······お前の復讐を手伝わてくれ」

 レヤンの目がカッと見開く。

「私は戦いたい······盾でも、囮でもなんでもいい。だからレヤン······私を好きな様に使ってお前の復讐を果たして欲しい───」

 レヤンを見下ろし話すシュリアの口元は、何かを期待して口角が上ずっていた。


(ああシュリア、お前はもう······死にたいんだな)

 レヤンは確信した。何が有ったか知らないが、シュリアの心はもう壊れている。だからレヤンは言う。壊れているなら尚更都合が良かった。

「シュリア、僕とパーティーを組んでくれ。───僕はお前みたいに追い出したりしない······絶対にお前を地獄から追い出したりなんかしない。

 もう謝罪の言葉なんて要らない。苦しんで苦しんで、アイツを殺して、それでお前の罪を償えばいい」

 レヤンの言葉にシュリアの鼓動は高鳴り、包帯が新しい血で滲んでいく。

「ああ、レヤンありがとう! 私ももう絶対に離れない! 私がレヤンの望みを叶えるから! だから私に生きている実感を頂戴!」


 シュリアを見上げるレヤンの顔は冷徹に整い、レヤンを見下ろすシュリアの顔は恍惚に歪み、そこに二人の知る二人は、もう何処にも居なかった。




ーEND2 壊れた心ー


 大切な人を射抜けなかったレヤンのお話は、復習の旅へと続きます。ゴブリンを追う事だけが、戦いの痛みだけが、二人の生の実感です。


 最初にこの結末に辿り着いた方は、是非いいねを押していって下さい。

 他の結末も読んで頂ければ(キャラは幸いじゃないですが、私は)幸いです。

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