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END1

 それからの二人は、まるで一心同体になったかの様に、息の合った連携で依頼をこなす様になった。それはアネリーゼの地力が飛躍的に上がった訳では無く、真の意味でレヤンに背中を預ける事が出来る様になったからだ。


 そしてこの日も、二人はゴブリンの討伐を受注して森に入っていた。

「あ! レヤンさん、狼······の死体です」

「引き摺った跡がある······ゴブリンかな?」

 レヤンとアネリーゼは、少し先に狼の死体を見付けると、足を止めて武器を手に取った。引き摺り痕には湿った土が露出している為、まだ獲物を諦めていない所有者が、付近に身を隠しているだろうと判断したからだ。

「アネリーゼ、索敵魔法だ」

「はい!」

 レヤンはアネリーゼに、魔力干渉を利用した索敵魔法の指示を出し、自分も同じ魔法を使用した。二人は生粋の魔法使いでは無い為、それと比べれば索敵魔法の制度は著しく落ちる。なので、それを補う為に二人で重複して確認を取る様になっていた。


「───挟まれてますか?」

「どうやらその様だ。───6体くらいか······少し多いな」

 アネリーゼも頷き、索敵に引っ掛かった魔物───恐らくゴブリンの、その数に認識の違いが無い事を示す。

 獣道を挟んで両側に3体ずつの計6体。そして今居る場所は狭く、アネリーゼは満足に剣を振れないし、レヤンの弓も使い物にならない。

 少し先───狼の死体から先は少し開けていて、そこなら戦闘に適しており、ゴブリン6体を相手取るには十分だろう。

「レヤンさん先に······」

「アネリーゼも気を付けて」

 アネリーゼが剣を構えて襲撃に警戒し、レヤンは短剣を逆手に持ち、矢を番えて後退る。レヤン3人分くらいの間が空いたところで、アネリーゼもレヤンに続いて行く。


 じりじり······じりじりと、相手を刺激しない様に、いつ敵が飛び出して来てもアネリーゼを守れる様に、レヤンは慎重に後退る。

 今レヤンは狼の死体の手前。獲物を盗られると勘違いした敵が襲って来るかも知れない一番危険な位置だ。レヤンはアネリーゼ越しに藪を睨み付け、より一層の注意を払って狼の隣に立った───


「───っう! がぁあああっ!」

 その時、レヤンの太腿に激痛が走った。

「え!!? レヤンさ───嘘っ?」

 振り向いたアネリーゼが見たのは、狼の死体から腕が伸び、短剣で右の太腿を刺されているレヤンの姿だった。

「くっ! そ!」

 レヤンは狼の死体から伸びた腕に、短剣で乱暴に斬りつけるが、その腕はヒョイと引っ込み、骸の狼が大きく叫んだ。

「グギャギャアー!」


「ゴブリン!? レヤンさん今───きゃあ!!」

 アネリーゼも良く知るゴブリンの鳴き声。それに呼応する様に、隠れていたゴブリンが一斉にアネリーゼに襲い掛かる。

 ゴブリンの武器は太い枝から削り出した立派な棍棒。腰に剣を提げている個体も居るが、何故か手に持っているのは棍棒の方だった。


「───くぅっ! いやっ! いっ、痛! ぎゃああ!」

 棍棒が選ばれた理由は直ぐに判明した。応戦に出たアネリーゼの剣は棍棒に食い込み、瞬く間に武器としての価値を奪われてしまった。

 アネリーゼは焦り、方や余裕のゴブリン達は、無防備になったアネリーゼの脚を、背中を、腹を、棍棒で次々と殴打し始めた。


「アネリーゼェエ! 止めろぉおお! ───っう!? ぐぁあああっっ!」

 レヤンはアネリーゼに集るゴブリン達を蹴散らそうと弓を引くが、突然狼が目の前に広がって視界を塞ぎ、弓を引く右腕を切り付けられた。

 力を失った右手は短剣を落とし、放たれた矢は明後日の方向へ飛んで行った。そして視界を遮る骸が払われると、その光景にレヤンは言葉を失った。


 アネリーゼの剣を取り上げて、高々と掲げるゴブリン。

 アネリーゼの胸当てを奪い取り、自分に当てがうゴブリン。

 アネリーゼの服を破り取り、身に纏うゴブリン。

 頭を庇い体を丸めるアネリーゼを、執拗に足蹴にするゴブリン。

「畜生······止めろ、止めてくれ······」

 そしてレヤンの首には短剣が押し当てられ、真っ赤な一本の筋が作られていた。


「グギギ───ゲギャギャ!!」

 レヤンの背後から愉快な笑い声が聞こえてくる。それはまるで「さあ、どうする?」「今どんな気持ちだ?」と、レヤンの心を抉って愉しむ、悪魔の様な笑い声だった。


「グゲゲ」

 レヤンの命を握ったリーダー格のゴブリンが、アネリーゼを囲う手下達に何かの指示を出すと、手下のゴブリン達はアネリーゼの髪を乱暴に掴んで歩き出した。

「嫌だあ! レヤンさん! レヤンさん!!」

「止めろ、アネリーゼを放せ! ───放して···下さい······!」

 獲物を持って行く先など十中八九巣穴だろう。アネリーゼは絶望から逃れる為に暴れ、レヤンは藁にも縋る思いでゴブリンのリーダーに懇願した。


「ゲギャ」

 レヤンの懇願を聞き入れたのか、リーダーが手下達に止まるように指示を出した様だ。

 ───しかし、レヤンとアネリーゼは一瞬の安堵の後、思考が止まった。リーダーがレヤンの目の前に一本の矢を差し出していたからだ。


 全く理解が届かず二人が呆けて居ると、リーダーは矢を握る手の指を一本立て、アネリーゼを指差した。レヤンは意味を理解したく無かったが、アネリーゼはその意味を理解し、唯一の残酷な救いをレヤンに求めた。

「レヤンさん······射って───! 私を射って下さい! 私を───こ」

「うわああああっ!」

 アネリーゼの言葉をレヤンの慟哭が遮る。レヤンも理解した。この場の支配者が唯一許した救済を───


 レヤンはゆっくりと矢を番え、アネリーゼの眉間に狙いを付ける。

「レヤンさん······ごめんなさい」

 アネリーゼの言葉には二つの意味があった。一つは“自分を殺させる事”、もう一つは“レヤンも道連れにしてしまう事”。

 それはレヤンも感じていた。他のゴブリンとは違う、人の悪意の塊の様なゴブリンのリーダーが、“玩具を壊した自分を生かしておく筈が無い”と。そして───

「グヒヒ、ゲギャギャ」

 耳元で囁くゴブリンの言葉からは、『射たないならお前は見逃してやる』と、そう聞こえていた。



「アネリーゼ······ごめん」



 レヤンは矢を───



 ───放った

 下にスクロールして下さい。


 ───放てなかった

 次話へ進んで下さい(第6部分) 


 ───ゴブリンのリーダーに向けた

 1話飛ばして下さい(第7部分) 


















ーEND1 共に逝く勇気ー


 矢を放つ勇気があったレヤンの物語はここまでです。二人には来世でも同じ時代を生きて、幸せになってもらいたいですね。


 最初にこの結末に辿り着いた方は、是非いいねを押していって下さい。

 他の結末も読んで頂ければ(キャラは幸いじゃないですが、私は)幸いです。

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