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親愛

 レヤンとアネリーゼは害獣駆除を軸に、食肉や毛皮用の依頼は小動物のものを選び、それすら取れなかった場合は採取の依頼を受けて、冒険者生活を送っていた。

 しかしレヤンもシュリアもそうであったが、勢いに乗っているアネリーゼは、もう害獣駆除にも飽きていて、魔物退治の依頼を受けられるCランクの試験を受けようとレヤンに持ちかけていた。

「じゃあ今日は私一人で熊を倒しますから! そうしたらゴブリン受けさせて下さい!」

「一人で熊は危険だよ······仕方が無い。僕も一緒に戦って、それで判断させてもらうよ」

「やった! 私頑張りますね!」

 レヤンの「まだ早い」の一点張りから前進したアネリーゼは飛び跳ねて喜んでいるが、それを見ているレヤンの表情は険しかった。



 Cランクへの昇格は、ゴブリン1体以上の討伐を以て合格とされる。はっきり言ってゴブリン1体と熊1頭では熊の方が強いのだが、ゴブリンの容姿は、緑がかった皮膚と、脳ミソが入って無さそうな潰れた頭以外は人間の子供に近い。その為、魔物だと、人外だと分かっていても、いざ対峙してみれば攻撃する事に躊躇してしまう冒険者も少なくは無い。

 更にゴブリンは単独で行動する事は少なく、その辺に落ちている丁度いい木の枝を棍棒に使ったり、他の魔物達に殺された冒険者の遺品の武器を持っている場合もある。それは剣であり、槍であり、器用な奴は弓を扱う事もあり、それがただの獣(Dランク)魔物(Cランク)との明確な差を作っていた。


 そこにきて問題はアネリーゼにも有った。それはギルドの天啓の儀の欠陥でもある適職の振れ幅だ。

 アネリーゼは、はっきり言ってしまえば弱い。それでも天啓の儀でギルドの鑑定士がそう言ったのなら、凡庸な才能の中で、それでも剣を扱う才能が頭一つ出ていたと言う事なのだろう。

 そこで気を効かせて「給仕」とか「受付」とか嘘を言わないところが、良く言えば真面目、悪く言えば人で無しだ。


『レヤン、私達に任せてお前はもっと後方に居るんだ』


 レヤンの脳裏にシュリアから掛けられた言葉が過った。

(───······っ!! 僕は違う! アイツとは違う! 僕がアネリーゼに、もっと協力してやれば良いだけなんだ!)

 レヤン達がCランクに上がって魔物と戦う様になってから、シュリアは仲間に加えた槍使いの男と、魔法使いの男を伴って戦闘をする様になった。

 レヤンは槍や他の近接武器は上手く扱えない。魔法は使えるが、近接戦闘に交えて戦える程、その才に特化している訳では無い。それでも弓の才は他の誰よりも卓越していた。だから後方から仲間の援護くらいはしてやりたかった。


『レヤン、お前は戦闘に参加しなくて良い。荷物番だけやっているんだ』


 僕は仲間じゃないのか───と、レヤンはシュリアの言葉に打ちひしがれた。そんな言葉は欲しくなかった。レヤンは大切な仲間のアネリーゼには、そんな思いをさせたくなかった───。



 レヤンとアネリーゼのパーティーは、Cランクに昇格した。アネリーゼも肝が座り、熊の迫力に腰を抜かす事も無く、レヤンの援護を受やすい様に立ち回り、更には目眩まし程度の脆弱な魔法であるが、それも組み合わせてアネリーゼの剣がクマを仕留めた。

 そして、約束通りにCランク昇格試験としてゴブリン退治の依頼を受け、レヤン2、アネリーゼ1で、合計3体のゴブリンを討伐する事に成功した。



「おめでとうアネリーゼ。今日は僕の奢りだから、遠慮無くもっと沢山食べてくれ」

「ありがとうございます! 美味しいです! 嬉しいです!」

 アネリーゼの手元には山積みのナーンが置かれ、味の違うスープに浸したり、味を付けた肉を挟んでみたり、果物のペーストを塗ってみたりして、1枚、2枚······と、幸せそうな笑顔で次々と数を減らしていく。


「アネリーゼ、君は本当に勇気があるね」

「レヤンさんが背中を守ってくれるから、安心して戦えるんです」


『レヤン! お前が前に出るのは勇気では無いぞ! それは無謀だ!』


(───お前はもう出て来るなよ)

 レヤンはシュリアの幻影を振り払う。しかし、レヤンも思っていた───アネリーゼのそれは分不相応な無謀であると。

 だからこそ、レヤンはシュリアの幻影(忠告)を振り払う。決して一人を責めない。二人ならアネリーゼのそれは相応な勇気だ。何より無謀だなんて言って、アネリーゼに嫌われたくなかったからだ。



 レヤンとアネリーゼは食事を終えると、どちらが言い出した訳でもなく、少し遠回りしながらアネリーゼの自宅へ向かった。それはアネリーゼの腹ごなしなどでは無く、今日の別れの時間を少しでも先延ばしにしたいからだった。


「レヤンさん······私、レヤンさんとパーティーを組めて良かったです。天啓の儀で剣士なんて言われちゃいましたけど、冒険者なんて出来るとは思っていなかったんです······私鈍臭いですから······」

 鈍臭いまでは行かないまでも、確かにアネリーゼの剣の才能は勇者と言われたシュリアにも劣り、レヤンが見ていて危なっかしい所もある。

「───でも、冒険者を始めたんだね?」

「友達も始めてましたし、ちょっとやってみようかな? って思ったんです」

 案外軽い理由だなと思ったレヤンだったが、自分もシュリアに腕を引かれるままに冒険者を始めて、結局あの後も惰性で冒険者を続けているのを思い出した。


「僕もそんな感じだったかな? ───僕は······僕は君を見捨てないよ」

 突然レヤンに強い目を向けられたアネリーゼは、少したじろぎ言葉を返す。

「ど···どうしたんですか? 私だってレヤンさんを見捨て逃げたりしませんよ!」

「そうじゃないんだ······僕は君をパーティーから追い出したりなんかしない。冒険者を辞めろなんて言わない。アネリーゼ、一緒に頑張ろう!」

 シュリアにやられて辛かった事、シュリアに言われて悲しかった事、そんな事はアネリーゼにはしたくない。そんな気持ちで、レヤンはアネリーゼを真っ直ぐ見つめる。


「······嬉しいです───レヤンさんがやっと、やっと本気で私の事を見てくれた様で! 私、嬉しいです!」

 アネリーゼは緊張した顔で、ちょこんとレヤンの方に右手を差し出す。

 レヤンはその意図に少し悩んでから、アネリーゼの右手を左手で掴んだ。するとアネリーゼは緊張を解き、花が綻ぶ様に笑う。

 その笑顔に逆に固くなるレヤンだったが、アネリーゼと手を繋ぎ、ぎこちなくも二人で歩き出した。

次からエンディングです。

書けたら纏めて投稿します。


ハッピーエンドの分岐はこのお話なんですが、レヤンは素通りしてしまいました。

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