番外編 ケイキちゃん♪ボクが落としてあげるよ
※この作品は、Ω≠αの1話を、チョウコの視点で描いた番外編となっております。
本編をお読みでなくてもある程度楽しめるようにはなっておりますが、一部本編よ読了を前提としている表現が含まれている箇所があるため、それでも大丈夫な方のみご覧ください
やぁみんな!ボクの名前は令都蝶子、チョウコだよ♪
一人称がボクだからかたまに男子と間違われるけどこれでも女の子なんだからね
たまに「リアルぼくっ娘きた〜〜〜」とかいってナンパしてくる輩がいるけど正直マジで迷惑なんだよね!うざいっていうか、意味わかんない!消えちゃえば♪あのきめぇオタクども
そもそも、ボクには好きな人がいるんだから、あんまりナンパされすぎるのも困るんだよね、1回2回なら自分に自身持てるからいいんだけどさ
...ボクの好きな人…ボクの想い人は、女の子。そう、ボクの好きな人は、今ボクの目の前で何故かフラメンゴを踊り出している、ケイキちゃんなんだ!!!
「ケイキちゃん、いきなりどうしたの?」いつもの事だけど、マジで困惑しているボクがいる
「え?なにって、今日の学校終わったらカラオケ行こってさそってるんだよ?そしたら普通フラメンゴ踊るでしょ?」「踊らないよ普通はね!!」ほんと、プロフィールにツッコミ役ってなんか書かれてるけど、ツッコミってほんとに疲れるんだからね!?関西人ってこれ毎日やってるってほんとなのかな?すごいね、関西人って
「それで、どうなの?カラオケ行く?行くでしょ〜」「まぁ、もちろん行くけど」「ふふ、ありがとう、じゃあ今日の5時頃にビスケトで〜」
そういって、ケイキちゃんは手を振りながら自分の教室に帰っていった
カラオケか…ケイキちゃんとカラオケなんて願ったりだよ、楽しみすぎる!今日こそケイキちゃんを落としてみせるんだ♪
ボクは学校の帰り際、本日のカラオケでどうやってケイキちゃんを落としてやろうかを考えていた、ふんふん♪と鼻歌を歌いながら
そんな中、いきなり後ろから頭を思いっきり殴られて、その直後に聴き慣れた声で「チョウコちゃん!これからビスケト行くのよね?私も一緒に行く〜」と、話しかけられた。クリミだ
「クリミ〜、ボクの頭殴る必要あった?」「え?いや〜どうすれば効率よくチョウコちゃんを呼ぶことが出来るのかなって考えたら自然とこうなっちゃって〜」「それでどうすればその結論に至るのか逆に聞きたいよ!」
「ふふ〜、まぁまぁいいじゃない〜、一緒に行きましょ〜」
こいつは秋栗美、読んだ通り、こいつはケイキちゃんは以上の変人だ、マジでヤバい奴
まぁ、それでもなんか憎めないんだけどね〜
「うん、いいよ、一緒に行こ」ボクはクリミとビスケトに向かう事にした
クリミと2人で道を歩いて、30分くらいでビスケトに着いた
前をみてみると、既にケイキちゃんとショコラちゃんが店の前に立って待っていた
クリミが「お待たせ〜まったかしら〜?」と大声で2人に手を振った、ここまではよかった
だけどそれに対してケイキちゃんが「私たちも今来たところだよー」と返したことで、ボクにのみ精神的にダメージを負うことになった
「ち、ちょっとーーーー、い、今のは、完全にデートの待ち合わせに早く来た彼氏のいうセリフだよ!?」「へーそうなんだ!」「そうって」
そう、ボクには今のセリフが、完全にそれにしか聞こえなかったのだ、後から考えたらホントなに考えてんだボクってなるんだろうけど、どうしても嫌な想像をしてしまうものなのだ
そんなモヤモヤはさておき、ボク達は店内に入っていった
ビスケトは一階建てのカラオケショップで、部屋は全部で7つほど用意されている、部屋には一面白い壁に古代ギリシャ風の模様が所々に描かれていて、気持ちよさそうなソファーもある
「わぁ〜かわいい〜」とケイキがいうと、続けてクリミが「確かに見かけに反して意外と綺麗ね〜」と追加した
ボクも同じ意見だ、それに結構広い
「よぉ〜し、じゃあ店員さんが来る前に一曲は歌っちゃおう♪」突然ケイキちゃんが言い出した、絶対普通逆だと思う
「歌ってる最中に店員さんが来ると恥ずかしいから歌わないでおこう…なら分かるけど、なんで来る前に歌おうの発想になるのよ!」「え?これが普通じゃないの?」「それは知らないけどどちらかと言えば珍しいと思うよ!?」
やっぱりケイキちゃんはなに考えてるのか分からない、けどそういう所もまた、たまらなく愛おしいんだけど
ちなみにドリンクはその後すぐに届いたよ
ともかく、ボク達のカラオケはこうして幕を開けた
ボクがまず最初に考えたのは1番最初に歌うことだ、何故ならカラオケでケイキちゃんの気を惹かせたい場合歌の上手さで惹かせるというよりは、歌唱という行為そのものでボクという存在をアピールした方が有効だろうと考えたからだ
「ようし、まずはボクから」自然なノリで1番にマイクを手にとれた、ここでボクのかっこいい歌声を披露してあげるよ、ケイキちゃん、そうすれば君も、少しはボクの事見返すよね!
が、現実は非常であった、点数は82点、可もなく不可もなくといった感じで正直1番微妙な点数だった
本当に完璧な歌声を披露してケイキちゃんを魅了するか、それが無理な場合大幅に音を外してどうにか印象に爪痕を残そうと考えていたのにそのどちらもできない普通な点数になってしまった…調整を完全に間違えた…ボクのミスだ
「はぁ〜歌った〜」とはいえ別に悪い点数なわけじゃないんだから、ここで変な顔をすればボクの印象を悪くなって更に悪い方向になることになりかねないので、ここは落ち着いて普通にやってやった感を演出することにした
「チョウちゃん上手〜」ボクのこの点数に対して、君は無邪気に褒めてくれるけど、その優しさがボクの心をえぐっていくんだよ〜(泣)
「よぉ〜し、次は私!」ケイキが徐にマイクを手に取った
ケイキちゃん…どんな曲歌うんだろ?などと悠長に思いを巡らせていた自分は甘かった、なぜならケイキちゃんが歌った曲は、想像の斜め上をいく選曲だったからだ
その楽曲とは、ボクは全く知らない超マイナーな曲、しかもテンポがめちゃくちゃ速い癖に歌詞がやたら重いという、絵に描いたようなカラオケお断りの曲を見事に歌って見せたのだ、ボクのケイキちゃんは
ちなみに点数は86点、やはり上手い!流石上手い!やっぱりケイキちゃんは最高だ!!!それに加えて可愛らしくも美しい歌声、歌唱中小刻みに揺れる体、そこから醸し出される純粋な幼さ、どれを切り取っても最高だ!やっぱりケイキちゃんは最高だ!だけどただ惚れなおすだけじゃあボクは終わらないよ!こういうところで得点を稼いでいくのがボクの賢いところさ!
「やっぱり凄いよケイキちゃん!歌上手いね!うん!」「ありがとうチョウちゃん!」
ありがとうっていってくれた…今のは…効果、あったのかな?ふふ、どっちなんだろ♪
だけど、そうやって浮かれていたボクの心をへし折る事態が起きた、クリミのターンが回ってきたのだ、あのサイコパスクリミが歌う曲なんてどんなものなのか身構えていたら、それがまさかのロック曲、明らかに普段の口調と釣り合っていなかった、それだけでも中々にインパクトは絶大なのだけど、それ以上に点数が64点ともうどうツッコンだらいいのかわからないクソ微妙な点数となっており、ボクは完全に言葉を失い、マジでなにをいったらいいのか分からない地獄のような空気となってしまった
ちなみに当の本人はさぞやりきったかのような顔をしていたのでだんだん腹が立ってきて、どうやってこの女をツッコミ倒してやろうかと頭の中であれこれ考えていたボクの元に、ある1つの希望の光が差し込んできた
それは、ショコラの歌声だった、普段のショコラからは想像できない美しくも力強い歌声、音程を完璧に捉える無意識のテクニック、究極とも思えるリズム感…そして、圧倒的な歌唱力
その全てがボクだけでなくこの場にいる全員が魅了された
この時、ボク達の中で、明らかにショコラの認識が変わった気がする
そんなこんなで、ボク達のカラオケは終わりを告げていった、帰り際、店の前でクッキが待っていた事には驚いたけど、ボクには正直あまりどうでもいい事だった
帰り道、夕陽が眩く射し込んでいる道を1人で歩いている間、ボクは今日のカラオケを思い出していた
ボクは日常の中でなにかイベントがあるたびに、そこでのボクのケイキちゃんからの印象はどうだったかをその都度反省して振り返るのが日課になっている
今日も家に帰ったら今回のカラオケでのケイキちゃんからの反応をしっかりと対策メモに記録して、次回のイベントや明日からの日常に備えないと♪まぁでも今日は微妙かな、いつもの事だけど
そんな風にして本日の日常を終えようとしていたチョウコだったが、突然、後ろからクッキが自分の方へ駆け寄ってきて、その日常は終わりを告げる
「あれ?クッキじゃん、どうしたの?ってあれ、ケイキちゃんどうしたの?」
「そ…それが」
それは、ボクにとっては魂が剥がれ落ちるほど衝撃の一言だった、ケイキちゃんが事故に遭った、車に撥ねられた
ボクは一瞬でパニックになり、だけど妙に落ち着いて、クッキにケイキが搬送された病院の場所を問い出した
どうやらケイキちゃんは街の中央に建てられている美白譜総合病院に搬送された事が分かった
ボクは自分の息がはち切れるほどに全速力で病院に向かった
途中何度も体力の限界がこようとも、その度に自分の気力と意思にしがみついて、必死で走った
病院に着いて、ケイキちゃんのいる部屋を看護師さんから聞きだすと、ボクは急いでそこに向かった
部屋に入るとそこには既にクリミ達といつの間にかクッキが、ベットで人工呼吸器をつけられて横たわっているケイキちゃんの側に寄り添っていた
ボクもすぐにケイキちゃんの元へと駆け寄った「ケイキちゃん!」ボクはケイキちゃんの名を叫んだ
「あ…チョウちゃん…」
ケイキちゃんには僅かに意識があるような様子だけど、今にもその意識も途切れそうなほど衰弱しているのは、ケイキちゃんの目を見ればすぐに分かった
「ケイキちゃん…大丈夫、大丈夫よね!?」クリミが必死にケイキちゃんに呼びかける
「ははは…クリミちゃんのガチトーンってそんな感じなんだね…ありがとう、心配してくれて…」「冗談言ってる場合じゃないわ!!!ケイキちゃん、きっと、きっと助かるからね!」
だけど、クリミが祈るように叫んだその言葉を、ケイキちゃんは素直には返さなかったんだ「...、どうだろ…なんとなく、分からんだよね…もう…助からないんじゃないかって…」
その言葉に、ショコラが「嫌だよ!そんなの…私…い、いや…」と、彼女としてはあり得ない程の声量でそう叫んだ
前を見てみると、クッキは完全に絶望しきったような表情をしていた
それはボクもきっと同じだ、ボクにもなんとなく分かる、信じたくないけど、でも…たぶん、ケイキちゃんは助からない。それが分かった途端にボクは、ケイキちゃんに…言いたいこと、伝えたいこと、数えきれないほどあるはずなのに、ひと言も…言葉が出なくなった
ボクはただ泣いた、悲しみで心が覆われた、ただただ、現実を受け入れたくなかった
「...、いや…嫌だよ…こんなところでお別れなんて…ボクは、まだ…君に!!!」ようやく絞り出せたこの言葉、ボクはケイキちゃんに想いを伝えようとした、これが最期だから、きっと最後になってしまうからと思ったから
だけどケイキちゃんは気力を振り絞ってボクの手を触れ、そしてボクにこう呟いた
「やめて…自暴自棄にならないで…そんなの、チョウちゃんらしくないよ…」ボクは反射的にケイキちゃんと言いかけたが、ケイキちゃんは言葉を被せた更にボクに語りかけてくる
「分かってる、貴方の気持ち、ちゃんと伝わってるよ…たぶん、間違ってたら…ごめん…だけど」弱々しく頬を赤らめながら更に言葉をやめなかった
「だけどごめんね…チョウちゃん、私、好きな人がいるんだ、本当に好きな人…だから、こんな時に言っちゃうのもあれだけど…貴方の想いには…応え…られない…ごめんね」
「うんうん…いいの、いいの…」嘘だよ、泣くほど悔しいし、こんな時にボクは振られたんだと、一瞬の内に劣弱感が襲ったよ、だけど、だけど今はそれ以上に、ボクは君に…なんだ、なんなんだこの…言葉にするには大きすぎるこの…感謝は
「だけどね、私…チョウちゃんの事も大好きなんだよ、友達として…になっちゃうけど…でも、本当に…それだけは、変わらないんだ…クッキも、どうだったかな?こんな私で…ちゃんと、貴方の友達でいられたかな…あああ、もうだめね、これ、そろそろ限界…」
この場にいる全員が、言葉を失っていた、なにをどうやって、この感情を表せばいいのか、ただ言葉にできない未曾有の悲しみが、ボク達の中にずっと付き纏われていて、そして、そんなボク達がこれ以上悲しまないように、ケイキちゃんが差し伸べてくれるその暖かい手が、ボク達の心を拾ってくれていた
「みんな、ありがとう、なんかもう…それしか思いつかないんだよね…ごめんね、もっとなにかあるはずなのに…うん…最後に2つだけ、わがまま言わせて…さよならなんて、言わないでね…みんなの人生は、これから先も…続いていくんだもの…だから、私なんかがいなくなっても、きっとみんなはいい未来を楽しめる、きっと、楽しいことだっていっぱいあるはずなんだよ…いつかまた、私たちが会う時がくるかもしれない、その時はさ、聞かせてよ、楽しかったこと、忘れられないこと、私の知らない、みんなのこれからを…私に…ありったけ、それだけが、私のわがまま…はは…最後に聞いてくれて…ありがとね…さようなら」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ケイキちゃんよ心拍が停止した音が、無情にも辺りに鳴り響く、ボクは、ただただ悲しみに取り憑かれて、立ち尽くしていた、耐えられないと…思った
ケイキちゃんはあぁいってくれたけど、やっぱり、受け入れる事ができない、やり直したい、まだケイキちゃんが生きていたころへやり直したい、例えケイキちゃんに振り向いてもらわなくたっていい、ケイキちゃんの生きていた頃へ、ただただ戻りたい、戻りたいよ
その瞬間、突然空間が螺旋状に捻じ曲がって、まるで時の流れが逆行したかのようにボクの意識も遠のき始めた、ボクの願いが、通じたのだろうか、いや、そんな事はどうでもいい、今、現実ではあり得ない事が起きた、それが希望だった、また、やり直せるかもしれない、そうだ、きっとボクはやり直せる、ケイキちゃん、今度こそはきっと、ボクが落としてあげるから
悲しい、物語ですよね…