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影の英雄譚  作者: 雑魚宮
第一章 光を求めて
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プロローグ Ⅳ

「やった!やったよ、ジョン!」

 

 歓喜に溢れるダンタリオン。彼を遠目に見る村人たちの、その視線は冷ややかなものだった。


「…なんてことを、してくれたんだ」


 その内の一人が、吐き捨てるように言った。俺たちに聞こえるか、ギリギリの声。別に、俺たちに向かって言った訳でもないだろうその言葉は、単に現実を受け入れられないだけの言葉。だが、それでもその声は、村人たちの堰を切るには充分すぎた。


「ふざけるな!」「神の保護抜きで、生きていけるわけ無いだろ!」「俺たちを殺すつもりか!」

「…え、え?」


 村人たちがダンタリオンに詰め寄ろうとするのを、俺は【影縫い】で止めた。が、それでも言葉の圧力は凄いものがあり、ダンタリオンは彼らの責める様な言葉を聞いて、困惑を覚えていた。

 彼らの態度にも一理ある。元々、神に支配され続けてきた彼らだがそれは、彼らの発言通り、ある程度の保護を受けていたとも取れる。神が管理する養殖場、という名分があったことで、彼らは一定の安全と自由を享受してきた。その神が死んだ今、彼らの安全は保障されるものではなくなってしまったのだ。

 

 まあ、ここまでは想定の内だ。この騒動を鎮める計画もある。さっさと実行して終わらせるとしよう。そう思って僕が前に出ようとした時だった。

 一人の青年と、それに続く何人かが前に出て、ダンタリオンを責める村人たちに言った。


「情けねえこと言ってんじゃねえよ!神に対して不満持ってたのはお前らも同じじゃねえか!それなのにいざ神を殺したら、ダンタリオン一人にその責任押し付けるつもりか?」

「そうだそうだ!」「ダンタリオンがやったんだ、俺たちもやるしかねえ!」「俺たちで神と戦うんだ!」

「先も見えん馬鹿共が!」「どうやって神と戦う!?」「蹂躙されるだけだ!」


 そんな、僕たちを庇うような発言が飛び出したことで、ダンタリオンが矛先から外れ、村人たちが言い争い始めた。

 これは、少し予想外だったな。まさか、庇ってくれる人がいるなんて。案外捨てたもんじゃないかもしれないな。


 パチン、と僕は大きく手を叩いた。その場にいる全員が、僕に注目する。向けられる視線の意味には、少しばかり差異がありそうだけど。


「どうも初めまして。僕の名はジョン・ドゥ。ダンタリオンと共に、あの神を殺した者です」


 警戒心剥き出しが半分、恐怖で後ずさる者半分、少しだけ畏敬とかの視線ってところかな。敵視ってのが殆どいないのは、大分ありがたいね。


「…最初に聞かせてくれ。あんたは何者だ?人間、っていうのは本当なのか?」


 ダンタリオンを庇った青年が、そんな風に俺に聞いた。正確な力量は分からないけれど、体格が良いし強そうな雰囲気がある。もしかすると、この人は使徒候補だったのかな、なんて推察しながら僕は彼の問いに答える。


「人間ですよ、生まれも育ちも、今に至るまで。少しばかり、人知を超えた力は持ってますけどね」


 そう言って僕は、僕と同じくらいの背丈の、人型の影を生み出した。ざわめきとともに、僕を見る視線に恐怖の割合が増える。


「ば、化物!」


 化物、ね。ダンタリオンを責めていた内の一人が、思わずと言った風に吐き出したその言葉は、彼らの常識からすれば、実に的確な表現だろう。神だけしかこの様な力を持っていない、この世界では。


「…正直、あんたが本当に人間なのか、俺には全然判断がつかない。だけど、それでもダンタリオンを助けてくれたのは分かる。だから、ありがとうございます。俺たちに出来ることがあれば、何でも言ってほしい」

「それなら、遠慮なく」


 恐れもあるだろうに、殊勝にも頭を下げ礼を言う彼に、僕は好感を覚えつつも、それをおくびにも出さない様に努める。彼はともかく、批判的な人たちに本心を見せるのは、安心できない。見せるなら、協力的になってからだ。

 

「僕を、この村の新しい守護者にさせてください」

「何、だって?」


 僕の言葉に、彼だけでなく、彼の仲間も批判的な人たちも、ダンタリオンさえも、驚愕の声を上げた。


「それは、正直ありがたいが、なんで、そんなことを?」

「簡単ですよ。僕は、あなた方が神と呼ぶ存在に敵愾心を抱いている。この村は、僕が彼らと敵対するための第一歩なんです。彼らが、僕を敵と認めるための。彼らを、滅ぼすための」


 半分はでっちあげだ。神に敵愾心を抱いている、っていうのはともかく、後半部分は今思いついたことを適当に並べ上げただけ。だって、殆どノリと勢いだったし。そんなこと正直に言ったら、普通に信用されないだろうし、不快だろうし。

 

「…それが本当だとして、お前はこの村に常駐するわけにはいかんだろう。どうやって、この村を守る?」

「僕の【影】は万能でしてね。さっきの、あの神程度なら、自動操縦でも充分相手に出来ます。いざとなれば、次元移動で僕が来ますよ」


 僕の説明に、聞いた彼は絶句する。その気持ちは分かる。僕だって、僕じゃなければ常識外れだと思う。こんな、万能な異能を持つのは、神格者くらいのものだ。だけど、僕は、特別製だから。人擬きだから。


「僕の目的は一つ。安心して、人が生きられるようにしたい。それだけです」


 実のところ、僕は義侠心とかそういう他者由来の感情ではなく、自分のためにそうせざるを得ないという事情もある。はっきり言って、僕はこの未開の大地で上手くやるには文明に依存しているから、一刻も早く住みやすいところにしたい。そのためにも、神とかいう、時代遅れの異物には即刻ご退場願いたいのだ。人間牧場なんてものを作る存在と共存はしたくないしね。


 そんな薄っぺらな僕の思想だから、村人の反応もそれぞれだ。少しでも信じようとする視線、訝しむような視線、変わらず恐れるような視線。どっちかって言うと、疑惑の視線の方が多いかな。まあ分かるよ、胡散臭いよね。


「…信じるしか、ないか」


 そんな中で、一人の村人がそう言った。批判的だった彼の、諦観めいた言葉に、初めは黙っていた村人たちだったが、徐々にざわめきが生まれていった。


「俺たちは無論、受け入れるぞ!」


 ダメ押しの様に、青年が声を上げ、それに同調するように彼の仲間も賛同し、批判的だった人たちもおずおずと認める声を上げ始めた。


「それじゃあ、認めてくれるってことで、いいですか?」


 僕の問いに、皆がコクリと頷いた。皆が皆、心から受け入れてくれる訳ではないけど、今はそれでいい。実績を作って、信じてもらえばいいだけの話だ。


 さて、認めてもらったのは良いけど、この後どうしようか。直ぐに発ちたいところだけど、正直疲労もあるし、お腹も空いてるんだよな。僕がそう、逡巡していると、青年が声をかけてくれた。


「良かったら今日は泊まって行ってくれ。明日までに日持ちする食料とか用意しておくよ」

「それはありがたい。お言葉に甘えます」


 嫌、本当にありがたいよ。本当に。



「ジョンは、凄いね」


 夕食を終え、寝床についたその時、ダンタリオンがそんな風に口ずさんだ。


「神を殺して、村の皆からも信用を得て、本当に凄い」


 そんな、褒め称えるような発言。僕は黙って、彼の言葉の続きを待った。


「だから、僕も頑張るよ。いつか、君と対等になれるように」


 彼はそう、前向きな言葉を紡いだ。遥かな実力差を目の当たりにしても、全く折れずに、ただそう言ってくれた。

 だから、僕は君のことが好きなんだ。君を助けたいと思ったんだ。


「…うん。待ってるよ、いつまでも」


 僕は、そう返して目を閉じた。

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