前へ目次 次へ 11/29 (二)-7 「いい人じゃねえか」 渋沢はそう言うと、盛り付けておいた自分の分の小皿にある、ポン酢のかかった春菊を箸でつまむと口に入れた。 「でしょう。夜逃げした後は、どこかでおかみさんと二人で小料理屋開いたそうで。でも去年、店をたたんだとか。もう八〇も過ぎて体もしんどいからって引退したんだそうで。それで貯めていたお金の一部を、当時俺らみたいな中卒で雇われた者たちに配っているんだそうで」 「そんなこともあるんだねえ。六〇年も前の話なのに」 (続く)