缶コーヒーはなぜ苦い 〜夏祭りのビターな思い出〜
星が綺麗だ。
窓の外を覗きながら、らしくないことを呟く。
俺は今、屋根裏部屋で一人佇んでいた。
電気はつけていない。今はただ、暗闇に包まれたかった。
〜数時間前〜
今日、少し離れた神社で夏祭りがあったので、クラスのみんなで行くことにした。
俺はある決意を胸に秘めていた。
恋愛成就のご利益があるあの神社で学園のマドンナに告白する。
約束の時間より前に待ち合わせ場所まで向かうと、既に彼女は友人達と一緒に集まっていた。浴衣姿がとても可愛い。
少し遅れたやつを待って、その後はみんなで一通り屋台を回った。
験担ぎにくじ引きを引いたらみんな5等以上なのに俺だけ6等だったのはかなりショックだったので。
落ち込んだままではいられないと気を取り直し、あの子に告白しようとして…
あれ?あの子は?
辺りを見回してもどこにもいない。少し境内が広いので迷子にでもなったのだろうか。
一瞬慌てたが、そういえばさっき落ち込んでいる間に、後は各自自由に回っていこうという話になっていたのだった。
ちょっとトイレと偽って友人から離れる。
屋台には…いない?なら裏手かもしれない。
人混みを掻き分けてやっと裏手に曲がれると思った時、何やら話し声が聞こえる。
片方はあの子、もう一人は…部活の先輩?
「返事、決まった?」
「ああ、悪りぃな、待たせて」
「ううん、気にしないで。むしろ思ってたよりも早くてちょっと驚いてる」
返事?何の?
「その、ドラマみてーに気の利いたセリフは言えねぇけど…」
「俺も好きだ。俺でよければ、ぜひ付き合ってほしい」
「!…グスッ、よかった。嬉しい」
「えっ、おい。何で泣いてんだ⁉︎その、確かにもっとかっこいいこと言えたらって俺も思ってるけどそんな酷い言い方だったか⁉︎」
「グスッ、違くて…、嬉しくて、つい…」
……。
ああ、そうか。
もう既に好きな人がいたのか。
呆然としている間にも彼女達は抱き合い、口付けを交わしていた。
2人とも夢中になっていて、覗き見をしている俺には気づいていないらしい。
俺はそっと、その場を離れた。
そのまま祭りはお開きとなり、各自解散となった。
あの後2人が付き合うことになったのはすぐにバレ、みんな祝福していた。先輩は同級生達からやるじゃねぇかと肩を小突かれていた。
俺は先輩に、おめでとうございます、と冷えた缶ジュースを渡した。
そして深夜になり、俺は屋根裏部屋で星を見ていた。
缶コーヒーの蓋を開ける。
ブラックはとても苦かった。