4日目のやり直し
冒険者が利用しない街の入り口を通ったおかげで街の近くに生えている薬草を比較的安全に採取出来ていた。
これ以上街から遠ざかれば、魔物との戦闘も避けては通れないだろう。
そう考えると『収納』より『剣術』を取った方がいいのか?
多少戦えるようになったところで、戦闘中にパニックを起こすのをどうにかできるとも思えないが。
商業ギルドの中で座って未取得スキルを前にぼんやり考えこんでいたおれは、スキル一覧に違和感を感じ隅々まで見ることでその変化に気付いた。
「ん? んんっ!?」
キャラクターの作成時にはなかった項目がある。
『スキルリセット』
作成時はリセットするまでもなくやり直しが可能だったし、『鑑定』を取得するときには迷わずに取得したので見逃した。
「ありがたいけど、悩ましい??」
今困っている、各属性の大弱点。
大弱点のペナルティーと引き換えにおれは属性当たり100のスキルポイントを得ている。
1ポイントの消費で100ポイント分のペナルティーが帳消しになるなら願ったりかなったりだが、そんなことにはならないだろう。
リセット自体出来ないか、スキルポイントにマイナス100の借金を負うことになるかもしれない。
借金であれば抜け出すことは不可能だ。
『収納』を取得することも、他のスキルをリセットすることも、おおよそ100レベル上昇するまで封印されることになる。
で、本命? の所有経験値増加スキルのリセットだが。
一番おれにとって都合がいいのはプレゼントで上昇した分もスキルポイントに還元されて戻ってくること。
必死に工面してつぎ込んだ1000スキルポイントが戻ってきて、プレゼントされた上昇分は予想では1万スキルポイント弱に相当する。
さすがに都合がよすぎるというかバランスが壊れる。
プレゼントされた上昇分はスキルポイントに還元されずに消滅することも覚悟しなければいけないだろう。
最悪はリセットされるけどスキルポイントは戻らない事。
すべてを失ってペナルティーだけ残る。
その仕様の場合ペナルティーを消す時にも借金は残らないかもしれない。
「今やるのはリスクがでかすぎる、情報さえあれば」
電話があれば女神先生に聞きたいところだが。
「・・・聞けるな」
女神先生には無理だが、スキルポイント1で使えるスキルリセットなら冒険者の間では使った人もいるだろう。
冒険者ギルドで事情通の職員にでも話が聞けたらスキルリセットの仕様がわかるかもしれない。
プレゼントされたスキル上昇分はわからないな、クラスメイトの誰かがプレゼントされた上昇分をリセットしてくれればわかるけど、その情報は冒険者ギルドには流れないだろう。
「おれにもか」
仲のいいグループで情報共有していれば流れてくる情報かもしれないが、比較的仲の良かった羽村たちと気まずい別れ方をしているから今のクラスメイトと接点がない。
羽村たちがおれの醜態を話していれば他のクラスメイトにも役に立たないお荷物と思われていることも考えられる。
「へこむなぁ」
おれだけが気付いたレアスキル、みたいな考えで調子に乗っていた。
すべてを話していればまだましだったかもしれないが、人を信用できなかったこともおれの愚かさだったような気もしてしまう。
関係の再構築に遅すぎることもないだろうが、現状はお荷物のままだからこちらからも声をかけづらい。
「明日は毒草を採取して冒険者ギルドに行くか」
毒草だけは嫌がられるかもしれないな。
商人ギルドでは毒草は買い取ってくれない。
納品しなければ経験値にはならないから嫌がられるのも仕方なしだ。
数量の上限はあるかもしれないが、初回だしリュック一杯分は買い取ってもらえるだろう。
宿の下に降りて昨日と同じように剣の素振りをする。
ステータスに影響しないことは昨日確認したが、不安のため何かをせずにいられない。
スキルの剣技もいつごろ取れるかもわからなくなって、スキルに頼れない戦闘が発生する恐れもある。
だが、何より思い通りに体が動くことが楽しいのだ。
身動きが取れない不自由と恐怖、失ってはじめてわかるペナルティーなしに体が動くことのありがたさを汗ばむほど剣の素振りをすることで感じていた。
翌朝、部屋に差し込む日差しで目を覚ますと真っ先にステータスのチェック。
『遊佐 蕗
レベル3
HP13
MP13
攻撃5
防御5
知性5
精神5
敏捷5
SP1
EXP1077+108=1185
NEXT1500
スキル(+)』
増加量が100を超えるようになって心強い。
「5日で1レベルか」
理想は毎日500上がって、毎回レベルアップすることだな。
早朝から街の外に出て毒草を摘む。
スキルリセットの事が気になって何度か毒草を口に入れそうになる。
「はっ!?」
いつかやるだろうとあらかじめ毒消し草を口に含んでおいたので、本当に口に入れてしまった時には命拾いした。
あわてて毒消し草ごと吐き出して、新しい毒消し草を口に含む。
吐き出した毒草と毒消し草の混合物を見る。
全回復薬の時のように変化した様子はない。
指で触れて『鑑定』しても反応はしなかった。
「長時間噛まないと変化しないのか? そもそもこの組み合わせでは変化しないのかな」
毒草と毒消し草の組み合わせでできる物の想像がつかない、状態異常薬か?
何かができるにしても毒草を口に含み続けることは、外で一人の時にやるもんじゃない。
好奇心は封印して腰を上げる。
摘んだ毒草はリュックに半分もないが、元々ちょうどいい時間になるまでの暇つぶしみたいなものだ。
街へ戻り冒険者ギルドに向かうがなぜか緊張する。
フードをかぶって背を丸めて、冒険者というより盗賊のようなあやしさで受付に話しかけた。
「毒草の買取をしてほしいのだが」
「はい、依頼を受けたものですか?」
そうか、冒険者ギルドでは依頼を受けてから採取という形式だった。
「いや、受けてからの方がいいか?」
「大丈夫ですよ、納品直前でも依頼を受理しますから」
そういって受付の席で手持ちの依頼票に必要事項を書き込む。
「はい、これをもってあの部屋で納品してください。
中に担当者がいますので」
依頼票を渡され案内される。
どこで聞くか?
納品の担当者よりは受付に聞いた方がいいだろう。
「ちょっと質問良いですか? スキルの項目にスキルリセットというのかあったんですけど、使うとスキルポイントが戻るんですか?」
良いかどうかの返事をもらう前に、畳みかけるように質問してしまう。
「使った対象は戻りますけど、スキルリセットの1ポイントは戻りませんよ。
貴重なポイントですからスキルリセットを行う人は少ないですね」
1ポイントを使って1ポイントが戻ってくるのはまるっきり無駄だし、使わないスキルだったとしてもそのままにしておく方がいいだろう。
10ポイントともなると熟練者だし、スキル以外の立ち回りやコツなども習得しているだろうから致命的な戦力ダウンになりえる。
「なるほど」
戻ってくることがわかれば最悪は避けられる。
「ありがとう。
あと、スキルリセットをペナルティーレベルに使ったらどうなるのかな?」
「ペナルティーレベルに使ってはいけませんよ。
重いペナルティーにはそもそも使えませんし、軽いペナルティーの場合スキルリセットで1ポイント使う上にリセットされたペナルティーが1ポイント消費してしまうので、ペナルティーそのものにスキルポイントを使った方がいいんです」
そんなバカなことはするんじゃないとばかりに語気を強めて忠告してくれる。
「そうか、わかったあっちだね」
気圧されたおれは依頼票を持って案内された納品場所に向かう。
重いペナルティーに使えないというのはスキルポイントの借金はないってことだな。
スキルポイントをためてからなら使えるだろうが、その場合も普通にペナルティーを解消するよりもスキルリセットの1ポイント消費が無駄になるということだろう。
毒草の査定も少量で毒草でも邪険にされることはなく淡々と査定してもらった。
安かったのは仕方ない。
約50枚売って2千100円相当。
薬草とかの5分の1ってところだ。
ちょっとではあるが経験値ももらっておいた。
『EXP1185+21=1206』