3日目の調合
1レベル上げるのに1週間ぐらいは覚悟していた。
下手したら採取では経験値が稼げないことまで覚悟していて、そうだったらリタイアルートだった。
リタイアルートが多すぎてうんざりするが、今回は回避できたようだ
「これなら明日の採取中にレベルアップできる」
今日の夜に10%増加分で78ぐらい貰ったとして・・・
残り143?
「143ぐらい今から行っても」
たいまつを掲げて採取作業もできなくはない。
「いやいや夜だよ」
昨日の醜態を思い出す。
夜間であれば魔物も出るかもしれない。
不意に戦闘状態にでもなればまた視界が塞がって、腰を抜かして転げまわるだろう。
「素振りでもするか」
部屋を出て宿屋の主人に裏庭を使わせてもらう。
店主? とは違うな女性なら女将だけど旦那とは言わないよな。
宿主はさすがに違うし、旅館の亭主で旅亭とかかな。
呼び方はどうでもいいやと裏に出て剣を構える。
剣技は素人、体育の授業で数時間剣道のまねごとをしただけだ。
上から下に振っても何が正しいのかわからない。
スキルで剣技を取っていれば戦えるだけの技術が身に着くのだろうか?
敵がいるものと仮定して上下左右に振り回し、汗がにじんで息が上がるころには100回ぐらいの素振りが終わっていた。
「す、ステータス」
『遊佐 蕗
レベル2
HP11
MP11
攻撃4
防御4
知性4
精神4
敏捷4
SP0
EXP529+250=779
NEXT1000
スキル(+)』
「変わってねえじゃねえか!?」
素振り100回で100上がるとは思っていなかったが、1すら上がらないとは。
「1上がってもしょうがないけどな」
欲しい経験値が143だとして素振り100回あたり1上がるのなら、素振りが約1万4千回分だ。
100回で息が上がっているのだから1日に何回もできないだろうし。
そんな仮定も無意味だ、だって1すら上がっていないんだから。
疲れたことで眠気も戻ってきた。
汗はかいたが体を洗うほどでもないので、顔と手を洗って寝床に戻る。
無駄な素振りと一日中していた採取のおかげで泥のように眠ったのだった。
朝の日差しに起こされぼんやりとしながらステータスを呼び出す。
『遊佐 蕗
レベル2
HP11
MP11
攻撃4
防御4
知性4
精神4
敏捷4
SP0
EXP779+78=857
NEXT1000
スキル(+)』
経験値は無事増加している。
レベルアップしなかったので起こされることもなかった。
昨日の場合も通知が立ち上がっただけで、音が鳴ったわけでもないからぐっすり眠っていればわざわざ起こされることもないのだろう。
夜が明けたなら採取だ。
無駄に素振りをしてしまうほどに経験値が欲しくてしょうがない。
行動が目に見える形で成果として手に入るのは初めてバイトをした時のような感じか?
おれはバイトしたこともなかったけど、採取のような単純作業で経験値に加えて金も手に入るのだから数分も無駄にはできないと、朝食をかっ食らって外に出た。
意気揚々と街を出る。今日の予定は採取の途中でレベルが上がって、手に入れたスキルポイントで『収納』のスキルを取得する。
あとはもう詰め放題だ。
買取価格が安い毒草もどんどん摘み取って冒険者ギルドに売ってしまえばいい。
我ながら気分の乱高下がはげしいなと感じるが、無理やりにでも気分を奮い立たせないと一人でいることとその原因を思い出してしまう。
そして気分の急降下はすぐ後におとずれた。
「上がらない? なんでだ?」
毒消し草を1本抜いてステータスを確認したが、経験値の欄に変化がない。
数本抜いて確認しても、薬草の方を抜いても変化がなかった。
不思議に思いつつ、気分は沈みつつも手は止めない。
経験値にはならなくてもお金にはなる。
日給2万5千円は高校生からしたら約4日分ののバイト代だ、感覚的には道に落ちているお金を拾っている気分だし、やめろと言われてもやめられないとこはある。
「経験値の取得条件が薬草なのは間違いないんだろうけど、取得タイミングがずれているのか?」
採取後数時間とか納品時とかか。
「納品時かな? 採取自体に経験値はなくてクエストボーナスのような」
だとすると経験値と取得金額がきりのいい数字で割れることも納得がいく。
採取の途中でスキルポイントを取得して『収納』を手に入れたら毒草も採取する予定だったが、同じリュックに毒消し草と毒草を入れるわけにもいかず、ひたすらに毒消し草を摘み取り続けた。
昨日の薬草のように時々口に入れてガム替わり食事代わりにしていたが、明日毒草を摘むときには気を付けないといけないだろう。
毒消し草だけでは回復しないので薬草も口に入れたりしていたが、混ざったせいなのかしつこく噛み砕いていたからか口の中で化学変化が起こった感じがした。
化学変化? 魔法変化か? 口の中に指を突っ込んで『鑑定』を念じると『全回復薬』が出来ていた。
口の中にある上に鼻に抜けた息から匂いも嗅げるので鑑定内容は効果まで表示している。
『全回復薬
使用対象のHP、MP、状態異常を回復する』
思いがけずMP回復薬を手に入れた。
MPの回復薬はかなり高価で、その上ベテラン冒険者たちが買い占めていくので店にはほとんど並ぶことはない。
「と言っても効果は低いんだろうけどな」
どこにでも生えている薬草と毒消し草の組み合わせだ。
薬剤ギルドだか、錬金ギルドだかでも初心者の練習に使われるような薬品なのだろう。
「それにしては見たことないけど」
一見便利だがMPだけ回復したいときなんかは使うのをためらってしまう。
「HPもMPもボロボロで毒を受けている時はありがたいだろうけどな」
薬を飲む余裕もなさそうだ。
瓶でもあれば吐き戻しておれ専用の薬にしたいがあいにく手持ちがない。
元の世界のペットボトルのありがたさが身に染みた。
そういえば空き瓶が貴重なゲームもあったな。
「それにしても全回復薬という名前は大げさだな」
まさか全量回復するわけないよな?
ゲームクリアまで使えないやつが作り放題となるとおれ専用とも言ってられない。
製法を隠して売る?
仲間がいたとして死にかけの時だけ使うとか。
瓶もないので口の中の全回復薬を飲み干した。
「まあ、普通か」
効果の感触としては薬草を単体で使った時よりは大きいが全回復しそうな力は感じなかった。
あくまでも全『種類』の回復薬なのだろう。
朝の予定では採取の途中でレベルが上がって『収納』を覚えるつもりだったが、予定が狂って毒消し草だけの採取になった。
コツをつかんだこともあって昼過ぎのまだ日の高い時間にリュックが一杯になり街に帰ることにした。
商人ギルドでは毒草は買い取らないので今日は冒険者ギルドに行くつもりだったが、予定が狂って『収納』が手に入らなかったため毒草の採取はできなかった。
なのでまた商人ギルドに行き毒消し草を買い取ってもらった。
収入は220エル。2万2千円といったところだ。
納品時点ではレベルは上がらず、換金をしようとしたところで上がった。
換金カウンターのトレーにのせられた銀貨22枚。
手を触れるまでもなく、目で確認しただけでおれの所有物になったと認識したようだ。
「確認しました。証明書のままで持ちます」
トレーを戻して証明書を返してもらう。
不思議そうな顔もせず証明書を返す担当者。
確認だけするものも多いのだろう。
不安な者もいれば、もちろん経験値を得るためにもだ。
「よし、上がったな」
『遊佐 蕗
レベル2+1=3
HP11+2=13
MP11+2=13
攻撃4+1=5
防御4+1=5
知性4+1=5
精神4+1=5
敏捷4+1=5
SP0+1=1
EXP857+220=1077
NEXT1500
スキル(+)』
ギリギリでスキルポイントが手に入り、予定していた『収納』が取れるようになった。
順調なようにも見えるが街の近くの薬草と毒消し草はほぼ取り切った。
明日は一応毒草を採取することができるが・・・
「そのあとどうしよう」