初日の冒険者登録
自然といくつかのグループに集まって相談を始める。
おれも羽村と谷口の所に行って、近くでグループを組んでいた小橋たちのグループと男女3対3で暫定的にパーティーを組むことになった。
「よろしくね」
小橋は自分からは目立たないようにしている素振りがあったので向こうから声をかけてきたときはびっくりしたのだが、6人というのはパーティーとしてはちょうどいいし、前衛として男がいるのは向こうとしても助かるのだろう。
声をかけ辛いのか周りのグループは男性のみ、女性のみで4人から10人くらいまでの集まりが多いようだ。
「お、おう。よろしく」
嬉しい反面緊張もする。
いつまでも街の外にいても良くないので立ち上がると、学級委員長の田中が声を上げて皆の注目を集めた。
「まずは町へ向かおう。みんな腰にポーチが付いてるだろうけど、こちらのお金が入っているようだからそれぞれ確認して管理するように」
言われて気づく、服もこちらの世界の一般的なもので簡素なものに変わっていた。
服の中に隠れるようにおなかの前に固定されたポーチにはお金とナイフと火打石が入っており、それ以外は自分の財布もスマホも向こうの世界に置いてきたのだだろう。
街に入る時、門番に止められるかと思ったが、おれたちに興味もない様子で素通りすることができた。
見張っているのはモンスターだけのようだ。
「冒険者ギルドとかあるのかな」
小橋が隣の杉沢と話している。
小橋と一緒に仲間になったのは杉沢と馬淵だ。
小橋が中肉中背なら杉沢は少し背が高くて細身、馬淵は2人に比べるとぽっちゃりだが太っているわけではない。
「ラノベだよね」
女子の間でも一般教養としてオタク知識はあるのか。
この世界もテンプレートな世界観なら、予備知識がある分生活に慣れるのにそう時間はかからないだろう。
冒険者ギルドはほどなく見つかった。
剣と盾のシンボルが描かれた看板に日本語で冒険者ギルドと書いてある。
言語で困ることはなさそうだ。
中はかなり広く、受付が市役所のようにずらっと並んでおり、受付の前は広くスペースが取られている。
「空いてるね」
今は空いているが、混んでいる時間は受付の前に大勢並ぶのだろう。
冒険者ギルドにありがちな酒場が併設されているわけではない。
グループごとに受け付けに並ぶ。
冒険者ギルドの登録はギルドカードに署名して、ただそれだけ。
ランクが上がればにスキルを保有している証明、あと犯罪歴も明記される。
高ランクになったりスキルを習得した時にギルド職員に証明すると、ギルドカードに記載される。
依頼を受ける時の条件がある場合はギルドカードを提示するそうだ。
「スキルを習得したら報告してくださいね、『収納』や『鑑定』があると輸送や採取の依頼で有利ですから、まずこの2つを目標にされるといいですよ」
おれたちはスキルレベルのボーナスがあったため『収納』や『鑑定』をとっている奴は少ない。
でもスキルポイントを余らせている奴はいる。
「『収納』と『鑑定』取りました」
そんな声がする、声を出した中江に注目が集まる。
「ウインドウオープンでスキル習得画面とか出せるからよ」
外からは見えないが中江にだけ見えるホログラフのようなウインドウがあるのだろう。
指をスイスイ動かしながら中江が言う。
「おれはステータスのコマンドで出たぞ」
他の声もする、コマンドは一つではなくステータスやコマンド画面を開きたいという意思に反応しているのか?
なら。
・・・出た、コマンドがなくても念じるだけでステータス画面が体の前に浮き上がる。
指でタップすると反応して、スキルポイントを触るとスキル習得画面に行くようだ。
それも念じるだけでいいのかもしれない。
おれに余剰スキルポイントはないが周りでは次々に『収納』と『鑑定』を取っているようだ。
「待って、待ってください。皆さんスキルポイントをお持ちなんですか? ギルドカードを作ったこともないのに?」
冒険者ギルドの受付のお姉さんがあわてて周りを見回している。
奥の方にいた職員が「ギルド長を呼んで来い」と言って近くにいたものが階段に駆けていった。
「勇者が現れたというのは本当か!?」
階段からガタイの良い男が現れて職員に確認する。
職員は頷いておれたちを指さした。
「あんたらか? ずいぶん多いな。この人数では会議室にも入らんか。
おい、訓練場を開けておけ。職員も最低限を残してそっちだ」
おれたちを見て職員に指示を出す男。
おそらくギルド長だろう。
「皆さんこちらです。スキルポイントをお持ちの皆さんにギルド長からお話があります」 受付のお姉さんがおれたちを案内する。
冒険者ギルドの中を突っ切って建物の裏に抜けると土の踏み固められた広場があった。
訓練場と呼ばれていたそこでは隅の方に数人だけいた冒険者がギルドの職員に言われて外に出ていくところだった。
「あー、ゴホン。きみたちは初心者でありながらスキルを持っているということだったな。
しかもその場で割り振ったと」
ギルド長に尋ねられ、代表として委員長の田中が頷く。
おれたちが優遇されているのは知っているけど、聞いた話とちょっと違う。
一般人でも初期ポイントとして10スキルポイントを持っていると聞いたんだけどな。
「初めからスキルポイントを持っている冒険者は貴重なんだ。
中には10ポイント近いスキルポイントを持っている者もいてね、勇者や勇士なんて呼ばれている。
まさかいないと思うが、8ポイントを超えているものがいるなら名乗り出てくれ。
国に推薦して、騎士団に取り立ててもらうことができるからな」
先生が言っていたこちらの世界の一般人というのは、一般人の中でも上の方のエリートだった。
しかし、騎士団か。
名誉はあるのだろうし、こちらの世界では勝ち組の成功者なのだろう。
「どうする?」
「いや、やめとこうぜ」
「一般人ってそういうことかよ」
「騎士団はなんか違くないか?」
「堅実すぎるよな」
まわりがざわざわする。
エリートと呼ばれる水準がスキルポイント10であるならおれたちの100ポイントは人外の領域で、この世界では目立ってしょうがないだろう。
極振りしたものに至っては1000ポイント相当のスキルを持っているのだ。
ここに骨をうずめるつもりの奴もいるだろうが、大部分は1か月程度の観光気分でいるものが多い。
一人で冒険者ギルドに来た場合なら、調子に乗って自慢しまくる者もいるだろうが、大部分の意見がポイントの多さを隠そうと考えているなら、一人だけ足並みを乱そうという奴もいなさそうだ。
「いや、そこまでは。
・・・個別で後から相談に来るものがいるかもしれないが、今は普通の冒険者として扱ってほしい」
「そうか、知り合いがいると言い出しにくいものかもしれんな」
田中が空気を読んでスキルポイントを過剰に持っていることは明かさずに話を進めようとする。
「騎士団もいいか能力があるなら冒険者としてやっていくのも一つのやり方だ。
冒険者ギルドとしても能力のあるものを歓迎しよう」
ギルド長はそう話を閉め、職員たちは冒険者登録の手続き、並びにスキルの確認とカードへの記載を行う。
受付で並ぶ時よりも職員の人数が多いのでスキルの確認まで含めてすぐに登録が終わった。
「どうする?」
「まあ依頼を見てからでいいんじゃね」
おれたちのほとんどはスキルの登録をするときに、スキルレベル2以上の物を申告せずにカードへの記載を行った。
火魔法をスキルレベル2で登録したものは、その後職員に囲まれてパーティーの紹介やクエストの依頼内容などをしきりに勧められていた。
「すごいね」
小橋がおれのそばに寄ってきて話しかけてきた。
「うん、でも大っぴらにしない方がいいかもな」
「そう?」
「スキルポイントは多いけど、まだレベルが全然ないから油断すると危ないよ」
「そっか、そうだね。ねー、羽村君はどうするといいと思う?」
おれと話していた小橋が羽村に向き直って尋ねる。
おれも小橋も羽村のいるところに集まってパーティーを組んだので、羽村がリーダーのような立ち位置になっている。
「そうだな、騎士団は窮屈そうだから冒険者をやって様子を見るのがいいんじゃないか?
それからでも他の仕事も考えられるしよ」
羽村が鼻の穴を膨らませて方針を語る
「そうだね、みんなもそれでいい?」
小橋が女子グループに確認を取る。
谷口も文句はないようだ。
スキルの証明はパーティーで誰か一人が持っていれば条件付きの依頼も受けられるというので代表して羽村が『鑑定』と『収納』を習得した上でギルドカードに記載されることになった。
パーティー名は「ビギナーズ」として登録。
変更は簡単にできるらしいし、一か月たったら残るものと帰還するもので欠員が出るだろうしで、その時に見直しすればいいだろうということになった。
「依頼見ようぜ、もう戻ってもいいんだよな? ですよね?」
おれたちに移動を促す羽村、近くにいたギルド職員にも確認を取る。
「はい、手続きは終わりましたので冒険者ギルドに戻っていただいて結構ですよ」
羽村はみんなを連れて冒険者ギルドに戻る。
依頼の載っている掲示板にはおれたちより早く手続きを済ませたクラスメイトのパーティーが群がっているようだ。
「出遅れたな、初心者向けの依頼なんかだいたい同じもんだろ」
谷口が言うようにセオリー通りなら、ゴブリンの討伐や薬草の採取だろう。
「数はいっぱいあるよ、これなんかちょっと遠いけど洞窟内のゴブリンの討伐だって」
小橋が見つけたのは初心者を抜け出したくらいの冒険者向け。Fランクの依頼だった。