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6日目の休息後

11月分 1つ目

「主人、ご主人」

 少し眠ってしまったようで、キアの声で起こされて目を覚ます。

 身を起こすとベッドの上に正座した2人が見える、キアがニアの肩を抑えているのは土下座しないように後ろに引っ張っているように見えた。


「土下座は禁止ね」

 ニアの体から力が抜けてキアも肩から手を離す。


「だロ」

 キアが得意げにニアに言う。

 おれが土下座を求めていないことを察して、ニアを止めていたようだ。


「お休みをさせていただきありがとうございます。

 少し頭がすっきりとしました」

 常に首輪をつけて圧迫されていたら眠りも浅いだろうから、刷り込みや強迫観念がなかったとしても首輪を外したのは良い判断だった。


「おれにとってもちょうどいい休みだったよ」

 うとうとしたのがその証拠だ。


「おなかすいただろ? 晩飯とったら明日の事話そうか」

 部屋の外に出るので2人には首輪をしてもらう。

 サイズぴったりの締め付ける長さではなく、留め具の間を紐でつないでその紐を首の後ろで結ぶようにして身に着けてもらった。


 人目がない所ではネックレスのようにぶらぶらにぶら下げて、人前に出る時には紐の根元を結ぶようにすれば締まっている時でも紐の分少しだけ余裕が出来て前よりは苦しくない。

 おれが付けるとまた刷り込みのようなものが、ぶり返すかもしれないので自分の首輪は自分で着けてもらう。

 これなら奴隷モードになったとしても、対象となる主人は自分自身だ。


 食事を済ませて部屋に戻ると2人とも首輪を外す。

 ネックレス状態でぶら下げるのは急に人に会うかもしれないときだけだ。


「食事に味を感じたのは久しぶりかもしれません」

 部屋に戻ってベッドに腰かけたニアがぽつっとつぶやいた。

 昨日も同じような食事だったから、繊細なニアにとっては従魔として首輪をつけているのは精神的に結構な負担になっていたようだ。

 それでも従魔になるのを選んだのは街で休息できない負担が限界に達していたからか。

 それに野宿ではろくなものも食べられていなかっただろう。


 キアは不思議そうな顔でニアのつぶやきを聞いていたからニアほどには負担を感じていなかったように見える。


 放っておけないなと思う。

 仮の従魔契約をした時は街で数日休んだらお別れするつもりだったが、今の言葉を聞くと元の生活に戻すわけにはいかないと感じてしまった。


 本契約をしてこれからも一緒にいることになって本当に良かった。

 もちろんお互いにとってメリットがあることからの打算的な付き合いの面もあるが、メリットがなかったとしても相手の望みをかなえてあげたい。


「まず呼び方を統一しようか。

 ニアとキアはそのまま名前でいいんだよな。

 問題はおれの呼び方だけど」

 ご主人様と呼ばれるのはこそばゆい、2人とも気を付けている時はご主人だったり主人だったりで『様』や『ご』が取れたりするが『主人』と言う所は残ってしまっている。


「ボクがいいの考えたゾ、『マスター』ってどうダ?」

 おお、かっこいいな。剣の師匠みたいな響きがある。

 実際は付け焼刃でスキルをただ上げただけの素人なんだけど。


「マスターですか? どうです? マイマスター」

 なぜだ!? ニアが言うとエッチな関係に聞こえる???

 そんな関係はないのだけど、他の人が聞くと絶対に誤解するぞ。


 それにニアからマスターと呼ばれるってことは魔法の師匠ということになるのかな?

 剣の師匠で魔法の師匠。本当に実力があればかっこいいけど、従魔に無理やりマスターと呼ばせているイタい主人にならないかな?


「うーん、かっこいいけど剣の腕はキアの方が上だろ?

 パーティーを組むわけだし無難に『リーダー』でいいんじゃないか?」

 剣術のスキルレベルは同じ3だけどパラメーターや2刀のスキル、根本的なレベルが全然違う。

 『リーダー』という呼び方は良い落としどころじゃないだろうか。

 方針を決める立場ではあるけど、メンバーからの意見も取り入れるほどほどに対等な関係だ。


「『リーダー』カ? ご主人が決めたならいいゾ」

「『リーダー』、マイリーダーですか? うちも異存ありません」


「じゃあ、それで頼むよ」

 名前で呼んでもらうとどうせ様付になるだろうからな。

 

 時間もできたことだし気になっていたところでも聞くか。

「ステータスの名前の横にジョブというか職業欄があるだろ?

 キアたちみたいにおれもなにか職につけるのか?」

 ギルドで聞いた時は他の街の神殿に行かないといけないってことだったが他の方法もあるのだろうか。


「神殿で就職することになりますね。30レベルを超えると職に就くことができます」

 やっぱりギルドで聞いた時と同じか、おれはレベルも足りてないし、まずはレベル上げからだな。


「あと、気になってたのは魔法だな。

 ニアみたいな高レベルの術師が属性のスキルレベルごとに1つづつしか習得できる魔法がないのが少なすぎるんじゃないか?」

「はい、ステータス上の魔法の数ですね。魔法の名前も数も変わっていませんが、レベルが上がることで制御できる範囲や力が変わってくるのです。

 1レベルのものが使う風魔法の『そよ風』は手で扇いだ程度の風しか出ませんが、50レベルにもなるとパーティーを守る範囲で極寒や灼熱の地での気温を快適に保つことができます。

 術者一人に集中すれば体に空気を纏って水中に潜ることもできますよ」

 『そよ風』なんてなんの役に立つのかと思っていたが、過酷な環境での行動には必須の魔法だった。

 それこそ別の名前を持っていてもおかしくないほどに。

 『環境調整領域エアコンべや』とか『水中呼吸あわだま』みたいな別魔法が出来てもいいのにステータスに表示される魔法としては『そよ風』だけだということだ。


「威力と範囲が変わるなら攻撃もできるってこと?

 だとしたらスキルレベル2で覚える『風蛇バインド』は覚える意味あるの?」

「もちろん。『風蛇バインド』では物を掴むことができます。

 『そよ風』で攻撃しても歩みが遅くなる程度、不意を突いてやっと短距離を吹き飛ばせるくらいです」

 そういうことか、効果対象が違ってくるのか、いや対象に対する影響力が段違いになると言った方がいいか。


「術者のイメージによってコントロールされるってことか」

「そうですね、基本的な使い方は魔法を覚えた時に身についていますが、そこからの応用ができるかどうかで魔術を専門にするものと補助的に使うものの役割が別れると言えます。

 うちにはできませんが、『風蛇バインド』で自分を掴んで飛行する者もいるんですよ」

 思った以上に自由、魔法というより超能力に近いか。

 各属性に対して何ができるか、自分で考えて使わないといけない。

 おれの取った光魔法は光を生み出すのが『灯りライト』で、運勢を高めるのが『感謝』、バフと継続回復、属性耐性を高めたのが『祝福ブレス』。

 『祝福』なんかは効果が完成されていていじる所が見つからない。

 反面、『感謝』は漠然としすぎていてどこから手を付ければいいのかもわからない。


 もしかしたら、『感謝』をカスタマイズした派生魔法が『祝福』なのか?

 そう考えると片方取っただけでもう片方も自動的に覚えたことの説明がつく。


「別の魔法に見えるけどベースが同じ魔法なら、重ね掛けはできないってことだよな」

 前に『感謝』をかけた上から『祝福』をかけたことがあったが、前にかけた方は上書きされて消えてしまったのか。


「重ね掛けですか? 土魔法の『堅牢アーマー』の場合『堅牢』同士の重ね掛けはできませんが、『堅牢』の派生の『強靭』を一緒にかけることはできます。

 『強靭』という魔法は装備の耐久力を高める魔法ですね」

 『堅牢』で防御力を上げて『強靭』で耐久力を上げることはできるのか。

 効果の内容が重ならなければ同時に使えるようだ。


「そうか」

 だとしたら『感謝』と『祝福』は両立できるな。


「ニアの職業って『術師』ってなってたけど、『魔法使い』とは違うのか?」

 うろ覚えだけど、ギルドで聞いた時は節約できるスキルポイントも30%だったはず。

 なのにニアは50%節約しているように見える。


「これは、その、内密にしていただきたい話ですが・・・」

 ニアに頷いて先を促す。

「一時期お世話になったエルフの里の神殿を利用したんです。本来エルフ以外が転職することはないのですが、当時スキルポイントの捻出に悩んでいたうちは何日も頼み込んで何とか使わせてもらうことになったんです」

「うん」


「その神殿で転職できる職業は『木魔法術師』エルフ専用魔法です」

 木魔法というのは聞いたことがない、転職したニアも覚えていないようだし。


「エルフ専用なのでうちは『木魔法』は覚えられません。

 でも、木魔法を覚える前提条件の風魔法と水魔法は持っていたんです。

 木魔法術師に就職したことで風魔法と水魔法のスキルポイントは戻ってきました。

 うちの望み通りになったのですが、木魔法を持っていない、覚えることも出できないため職業の表示はただ『術師』になっています。

 そういうことなんです」

 そういうことらしい。

 

 エルフ専用の『木魔法』は風魔法と水魔法を育てることで覚えることができる。

 上級魔法の『雷魔法』や『氷魔法』みたいなものだろう。

 ただしニアはエルフではないので木魔法を使えず『木魔法術師』を名乗ることはできない。

 それで『術師』になっているということだ。


「風魔法と水魔法に恩恵があるなら火魔法と土魔法には制限があるのかな?」

「はい、スキルポイントの消費が2倍になりますね」

 2種類の魔法が半分、それ以外の2種類が2倍。

 釣り合っているようにも見えるが、4種類覚えようとするとスキルポイントの消費量は軽減も制限もないときに比べて1.5倍になる。

 とはいっても4種類全部覚えるのはどっちつかずで弱くなるから、やはり専門職に就いた方が強くなるだろう。


 おれの場合はしばらく光魔法を集中して育てよう。

 光魔法術師、何て職業の神殿があれば転職したいところだが、一般的な魔法使い以外の、特に上級の属性の術師の職業は一般には公開されていないかもしれない。

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