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6日目の謝罪

10月分、3つ目

「ご主人様ってこと?」

 背筋を伸ばしておれとニアを交互に見るキア。


 従魔というのは魔物を従える契約だろ?

 彼女たちは魔物の扱いなのか?

 見た目は人間だし、獣人って言うのはエルフやドワーフみたいに亜人の扱いで人権があるものだと思っていたが、この世界では違うのか。

 エルフやドワーフもまだ見てないな。


「契約はともかくとして、2人も街で休みたいだろ?

 その契約は振りだけにして街で休んだらいいよ。

 買い物とかもあるだろうし、用が済んだらあとは自由にしてもらえばいいし」

 契約となると自由が奪われるけど、2人とも気の休まらない街の外で寝るのは気が休まらないだろう。

 それで従魔という妥協を選ぼうとしているのか。


 おれの言葉にニアとキアは顔を見合わせる。

 キアは頷いてニアは微笑んだ。


「それではこれを付けていただけますか」

 ニアに輪っかを渡される。

 キアが後ろを向いて髪をかき上げたので首輪のようなものなのか?

 幅は1センチくらいの黒い皮の首輪で、紐をつなぐわけでもないし、おしゃれなチョーカーと言われても納得してしまうデザインだ。


 キアの首に巻き付けて留め金を留める。

 サイズはぴったりでまるで張り付いた様に固定された。


「うちにも頼みます」

 ニアの首にも巻き付ける。

 着物の人のうなじは何か艶めかしいものも感じるが無心で固定した。

 狐の時は白銀の毛並みだったが、人の姿になると紺の着物が似合う黒髪なのも馴染んでいてドキッとする。


 街に戻って宿を引き払う。

 安い宿だったが、狭い部屋に女性2人も呼べない。


 中間層向けの宿でシングルとツインを取ろうとしたがニアに押し切られて3人部屋になってしまった。


「ご主人様、従魔と部屋を分ける主人がどこにいるんですか?」

 部屋に入るとニアに怒られてしまう。


「そういうもの?」

「そうですよ、従魔でないと思われたらうちたちが危険なんですから気を付けてください」

「そうだゾ、ご主人様」


「その、ご主人様ってやめないか? なんかむず痒いんだけど」

「そうですか? でしたら何か考えておきます」

「わかったゾ」

 語尾のゾ、もやめて欲しいけど頼み事は一個づつにしないとな。


 キアは扉に鍵がかかることを喜んだ後、ベッドに横たわっている。

 野宿では交代で見張りをして、寝ている間も気を張っているためMPがなかなか回復しないという環境だったらしい。


 実力も出せないうえMPが枯渇した後は回復もできなくなって、出会った時は絶体絶命だったといっていた。


 それぞれが手桶一杯分のお湯を買って、風呂のような場所で体をきれいにした後は食事をとってまた部屋に戻る。

 手持ちが少なかったのでニアに金を出してもらう場面もあったが、一応おれがいることで街の施設を利用できることをニアも喜んでいたので、それほど引け目も感じていない。

 本当の主人だったら甲斐性なしではあるのだが。


「フキ様は冒険者として働いているのでしょう。

 うちたちとパーティーは組まないのですか?」

 相変わらず様付だが、ご主人様よりはましなのでスルーする。

 なにことも段階的にだ。


「パーティーって?」

 どうやら前に羽村たちと組んだ時はクエスト受注段階で自動的にパーティが組まれて、その後自動的に外れたようだ。

 自動的というか羽村が操作したのかな?

 クエストを受けた時にポップアップしたウィンドウではい、をタップした覚えがある。

 恒常的にパーティーを組む場合、手をつないだ状態でステータス画面から登録するらしい。

 冒険者ギルドでそんなこと言ってたかな? 聞き逃したかもな。


 ステータス画面を可視化して、パーティータブから2人を登録する。

 これで離れている時でもお互いの方向がわかり、敵を倒した時の経験値配分などもできるようになった。

 羽村たちと組んだ時は均等割りにでもなっていたのだろう。

 従魔や奴隷と組むときは主人が総取りするようなこともあるようだが、デフォルトの均等割りのままにしておく。


 横からのぞき込んで操作を教えているニアが「総取りでもいいですよ」と指さすが、操作ができるのはおれだけなので聞き流しておいた。

 顔が近くていろいろ当たっているが、おれは真の主人ではないので手を出したりはしない。

 反対側の隣ではニアとつないだ手の上に自分の手をのっけたキアがおれに抱き着くような近さで横にいる。

 うとうとして眠そうなので、ステータスの確認も切り上げてそれぞれのベッドに入った。


「おやすみなさい」

 フーっと意識が途切れる時、「いつでもどうぞ」と言われた気がしたが、眠気に負けてそのまま意識を手放した。


「・・・さま。ご主人様」

 夜中にゆさゆさと揺らされて目が覚める。

 目を開けて体を起こすとおれを揺すっていた手は離れ、薄暗い部屋の灯りの中で床に土下座するニアとキアの姿が見えた。


「申し訳ありません!

 ご主人様の経験値を奪ってしまいました」

「なに?」

 寝ぼけた頭で何を言っているのか理解できない。

 経験値を奪ったりするスキルとかあるのか?


「えーと、いや、落ち着いて」

 自分にも2人にも落ち着けと言う。

 とりあえず確認か、頭を振ってステータスを開く。


『遊佐 蕗

レベル 4+3=7

HP 15+6=21

MP 15+6=21

攻撃 6+3=9

防御 6+3=9

知性 6+3=9

精神 6+3=9

敏捷 6+3=9

SP 401+3=404

EXP 1622+1743=3365

NEXT 3500


スキル(+)』


 減るどころか増えてる?

 増えすぎ?


 まず増える前のレベル自体上がってる?

 レベル3で1400ちょっとだったはず。


「あ、オークか」

 2人を助けた時にオークとゴブリンを倒して、その時に貰った経験値でレベルアップしてたのか。

 戦闘後に確認もしてなかったし、戦闘中や睡眠中はおやすみモードとか運転中モードみたいなもので通知が立ち上がらないのだろう。

 それでもパーティーを編成した時に気付いてもよかったが、見逃してしまったのか。


「経験値は減ってないよ。

 おれも増えてるから頭上げて」

 土下座してプルプル震えているニアと意味が解らず付き合いで土下座をしていたキアに頭を上げるように言う。

 キアはすぐに頭を上げてにぱっと笑うが、ニアはまだ頭を下げたままだ。


「増えたのは元々ご主人様が持っていたスキル? の上昇でしょう?

 その上昇分を奪ってしまったのではないですか?

 ごめんなさい、うちがパーティー編成なんか勧めたばっかりに」


 土下座を続けるニアの前に膝をついて、肩を押して顔を上げさせる。

 床は涙で濡れ、顔はぐしゃぐしゃで額なんか強く押し付けたせいか赤くなっている。


「美人が台無しだよ、元々増えた分より余計に増えているから気にしないで。

 むしろおれが奪っていることになってるよ」

 膝立ちで頭を抱きしめて、背中をポンポンとする。

 自責の念が強すぎて自傷でもしかねない危うさがあった。


 キアもニアの横から抱き着いてなぐさめる。

 キアがいつも通りで良かった、2人ともがこんな状態だったらおれの方がパニックになる所だったよ。


 えぐえぐと泣いてしがみついてくるニアをぎゅっと抱きしめたり、頭をなでているうちに落ち着いてきたのか、しがみついてくる力が弱まってきた。

「本当に?」

「本当だよ」


 ステータス画面を開き、スキル画面までをニアたちに見せて自分のスキルを解説する。 本来であれば自分の経験値の9%分しか上がらないから、ニアたちとパーティーを組んだことで10倍以上余計に経験値がもらえたと説明した。


「ご主人の属性耐性低すぎ!」

 キアは別の所に驚いていた。


「つまり、ご主人様の『所有経験値増加』がうちたちにも適用されて、うちたちの元々の経験値が全員増えたうえでまた再分配されたということです?」

「そうなんだろうな」

 動揺でご主人様呼びに戻っているが、今それを注意するときでもないだろう。

『所有経験値増加』の動きはおれにもわからないが、おれに影響する経験値の動きがすべて適用されるということだろうか。


 おれ自身の経験値が『増加』された時にパーティー効果で全員に分配され、その時に分配先の経験値を再計算したとかだろう。

 増えてくれてよかった、分配しただけでニアの言ったようにおれの貰える経験値が減っていたら自責の念でニアが潰れていたかもしれない。


「だとしたら経験値の配分割合は変えましょう。

 ご主人様の総取りでよろしいのでは?」

「いや、2人のレベルが上がらなくなるだろ」

 なんというブラック契約。


「うちたちはもうなかなか上がりませんから、今回頂いた3レベル分で3年は働けますよ」

 ニアたちは結構高レベルなようだ、9%の経験値で3レベル上がるのだから30レベル以上。

 いやおれを含めた3人の平均レベルが30以上になるということだ。


 1743も増えてたから9%のもとになるのは2万弱。

 おれの経験値は誤差程度として、3人の合計が6万弱なら2人の経験値は平均3万弱。 レベルに換算すれば60レベル弱!?

 天上人じゃねえか。


 それだけ強くてオークに苦戦するか?

 けがを負ってMPを枯渇した原因か別の敵だったとしても。


 とは思ったが、おれも剣術に100スキルポイントをつぎ込んでいるからそれなりに強いのか?

 スキルポイントの恩恵は予想した以上なのかもしれない。

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