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5日目の回復

10月分、2つ目

 襲っているのはゴブリンが5体にでかいのが1体。

 オークかゴブリンの上位種か?

 襲われているのは犬を連れた美女?

 こんな森の中で着物に短刀で立ち回っている。


「加勢するぞ」

 無言で狩りをしているなら横殴りはマナー違反だが、一度叫び声も上げているし苦戦もしているようだからいいだろう。


「お願いします」

 関西風のイントネーションで了承ももらい、まずは『灯り』の魔法をオークらしき魔物の顔にぶつける。

 

 グアア。

 取り巻きのゴブリンは大したことないがゴブリンの数を減らそうとするとオークが邪魔をしてくるようで着物の人も苦戦していた。

 

 オークを無力化してしまえばゴブリンを片付けるのはたやすい。

 おれと着物の人、そして着物の人の犬はゴブリンを片付け、目が潰れて両手を乱暴に振り回しているオークの膝の裏に切りつけて、膝をついた所を首の後ろに切りつけてとどめを刺した。


 ハアハアと息を切らして座り込む着物の人。

 横には傷ついて寄り添う犬がいた。


「大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。MPが切れてしもうて」

 MPがあれば回復できるのにと言った様子で犬をなでる着物の人。


 着物の人には傷はなさそうで、おれもMP回復薬は渡すことはできない。

 いや、あるんだけど。


 犬の方はじわっとしみ出してくるように出血しているから早めに治療が必要だろう。

「犬ならいいか?」

 他の人、ましてや女性におれの唾液ブレンドの全回復薬を与えるわけにはいかないが、瀕死の犬に気を使うこともないだろう。


 試験官のようなポーション瓶を取り出し、犬の傷口に垂らして残りは口元に寄せて飲ませる。


「回復薬ですか? 助かりました、ありゃ?」

 ありがとうと言いかけて着物の人は犬の傷口に塗られたポーションをクンクンと嗅いでペロッと舐めた。


 「いけません、それはおれ専用です」とも言えずに犬の様子を見守るが、思っていたようには回復しない。

 不思議に思いポーション瓶に残っていた薬を『鑑定』してみた。


『劣化全回復薬

 使用対象のHP、MP、状態異常を少量回復する』


 劣化してる!

 時間経過でダメになるのか。

 まだ1日もたっていないのに、全部がダメになる勢いだ。

 犬の出血は止まりそうだが全快には程遠い。

 追加で必要になるかもしれないから、薬草と毒消し草を口に含んで『全回復薬』を生成する。


「あの、この薬ですけど」

 効き目の弱さを不思議に思ったのか着物の人がこちらを見る。

 口に物を含んでいたおれは受け答えが出来なくて、ちょっと待ってと手のひらを向けて犬に向き合う。


 口の中で『全回復薬』が生成された感触を確認して犬の口をガッとつかんで流し込んだ。

 犬相手とは言え乱暴な態度のおれにビクッとして引いた眼の着物の人。

 仕方ないんだ、口に物を含んでいたから説明ができなかったんだ。


 劣化してない『全回復薬』は犬の体をみるみる癒し、犬自身もMPを失っていたようできょとんとした目をこちらに向けるとわんわんと吠えてぺろぺろと舐めてきた。


「信じられません、MPが回復しています」

 犬の様子からMPが回復していることを読み取った着物の人。


「その薬、うちにもいただけませんか? お礼もさせてもらいます」

 着物の人の言葉におれは犬をなでながら困惑してしまう。


「見ての通り、おれの唾液が混ざってるんです。

 本来は自分専用で、今回は瀕死だったから使っただけで、他の人に使えるようなものじゃないんですよ」

 使う相手が動物だったのもある。


「うちも瀕死です、隠してるだけなんです」

 そうは見えないけどな、着物の下が傷だらけならなんで着物が切れてないんだ?


「人相手にはできませんよ」

 ポーション瓶伝いならお互いに由来に目をつぶればいけなくはないかもしれないが、口移しとなると瀕死だとしても抵抗がある。

 さすがに死の瀬戸際ともなるとマウストゥマウスのようにできるかもしれないが、MP回復のためだけにやるのは無理だ。


「これならできますえ?」

 着物の人はボンッと霧を纏ったように真っ白になると、霧が風に吹き流されたそこには毛並みの美しい白銀の狐が佇んでいた。


「えっ、え?」

 うろたえてるおれの手の中では犬が身じろぎする。


「交代カ?」

 語尾がカタカナみたいな片言風のイントネーションで犬が喋った?


 腕の中でもぞもぞして犬が膨らんでいく。

 毛が引っ込んで行ったり抜けていったりして、1分もたたないうちにおれの腕の中には金髪の幼女?

 美少女が収まっていた。


 服装はほぼ裸のマイクロビキニ? 白い布地はほぼ紐で隠すべきところがほとんど隠せていない。

 先端を隠せばОK。じゃねえぞ?


「はしたないですよ、キア」

「変身を見せたのはニアの方だロ?」

「服装ですよふ、く、そ、う」

 服装を一文字ごとに区切るように言う元着物の人。ニアって言うのか。


「ちぇ」

 犬から生まれた美少女は変身を逆に戻したように毛が生えて、途中でまた人に戻った。

 服装はだいぶ布地が増えて上はチューブトップに丈の短いジャケット。

 下はショートパンツでスニーカーを履いてなぜかサンバイザーを頭に着けている。

 露出は多いが町中にいてもおかしくはないギリギリの格好だ。

 印象としてはチアガールのような見た目か。


 着替えを見てしまった様な気まずさに狐に変わったニアを見る。

 身をよじるように背中を見せてくると、そこには切り付けられたような傷が口を開けていた。

 出血は止まっているようだがたしかに瀕死だ。

 

 さっきは疑ってしまったが、変身で着物を生成しているなら傷口を隠すように着物を着ていることも説明がつく。


「大変だ、治しますよ」

 動物相手なら治すといったばかりだし、着物の美女であったことは頭から追い払い、『全回復薬』を生成して直接口に流し込んだ。

 口の中に残った『全回復薬』を舌に含ませて背中の傷口をなめると、ニアは背筋をピンとさせて痛みに耐えるように上を向いていた。


 『全回復薬』を生成中に犬だった美少女、キアはゴブリンの気配を感じたのかおれの腕の中を出て追い払いに行った。


 キアが離れると開いた場所にニアが潜り込んできて、おれの胸に顔を擦り付ける。

 家の猫を思い出しながら脇や腹をモフモフしていると、キアが戻ってきて不満げな声を出す。


「ボクの場所だゾ」

 慣れとは恐ろしいもので、その言葉で冷静に戻るまでは裸同然の美少女と抱き合っていたことや、美女が変身した狐をさわさわしていたことがとんでもないセクハラだと気付いた。


 狐を元の場所に戻し、潜り込んで来ようとする美少女を抑えて2人に向き直る。

 どうしてたんだおれは? 『全回復薬』に催眠効果でもあったのか?


「とりあえず無事でよかった」

 この先どうするか?

 街まで送って行けばいいかな、おれももう用事ないし。

 『全回復薬』の事は口止めするとして、なんかお礼するとか言ってたから、それを口止め料にすればいいか。


 それより、おれの方が口止めされそうな秘密を見てしまったようだけど大丈夫だろうか?

 口止めで息の根を止められたりしないだろうな。


「キアとニアだっけ? 街まで送って行けばいいのかな、あまり見ない種族だけど」

 獣人ってことだよな、人間形態になると耳も尻尾も隠れてるから人間との区別はつかない。

 実は街中にも何人かいたのだろうか。


「街には行かない。だロ?」

 キアがニアの方を向いて自分の返答を確認する。

 狐になっていたニアは首をかしげて再び霧を纏うと先ほどの着物を着た美女に変わった。


「街に入るには従魔契約が必要ですからね。でも」

 ニアは立ち上がると座っているおれをじろじろ見てペタペタ触ってくる。


「ちょっと、なにを」

 いやではないが反射的に身じろぎすると、ニアは真剣なまなざしで見つめてくる。


「うちは従魔契約してもいいと思います」

 思い、にアクセントの付いた関西風の喋りでニアが言った。

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