5日目の祝福
10月投稿、1つ目
スキルを活かすためにはまずおれ自身のレベル上げが必要のようだ。
経験値を稼げる依頼をこなして、それから成長の方向を探っていこう。
『EXP1314+100=1414』
薬草の納品で次のレベルが見えてきた。
残った時間でまた薬草を積んでもいいし、このまま時間を過ごして『所有経験値増加』の発動を待ってもいい。
「でも、リベンジしたいよな」
一度出た冒険者ギルドの扉を引き返して依頼の並べられた掲示板の前に立つ。
目立つところにあったゴブリンの討伐依頼が常時受け付けていることを確認した。
薬草などと同じように依頼を受けずに討伐しても問題ないということだ。
防具屋に向かって鎧を見繕う。
前回使ったハードレザーアーマーと中盾を揃えると金がなくなってしまうが、宿代はあと数日分先払いしてあったので思い切って買ってしまった。
街の外に出てゴブリンの生息地へ向かう。
街道を少し離れると薄暗い森の中に魔物の気配を感じるようになる。
今はまだ日が出ているから森の中に引っ込んでいるが、日が沈めば街道も安全ではなくなるだろう。
自分に『感謝』の魔法をかけて森の中に踏み込んだ。
何かがいる気配はずっとしている、緊張を絶やさずに足を進めると、不意に視界がキューッと絞られた感覚になる。
戦闘状態だ! おそらく先に敵に見つかったのだろう。
相手に先に見つかったことを察知できるならこの大弱点も使いようはあるか、と思いながら前回よりは落ち着いた頭で『灯り』を自分の剣の先端に貼り付ける。
途端に周りが昼間のように明るくなり視界の制限も解除される、しかし足元がゴツゴツして歩きにくくなったことはそのままだ。
「気になるものは早め早めにだ!」
大弱点で足を引っ張りそうなものはすぐに解消すると決めていた。
周りを気にしながら左手の指の前にスキル画面を呼び出して、ちょうど指先の前にある土魔法―3の横にある+ボダンを2連打する。
土属性スキルは火属性と同じように弱点ではなくなり土魔法使用不可だけが残ったはずだ。
途端に足元がしっかりする。
戦闘中に転んだら大変だ、これは必要なものだろう。
『SP 500-99=401』
『灯り』に身じろぎした影が木のそばにいる。
薄暗いままだとわからなかったがゴブリンのようだ。
それを目にしたおれは一気に駆け寄り、一刀のもとに切り伏せた。
他にはいないか? と周りを見回した後、剣を鞘に納める。
『灯り』が鞘に隠れて周りが薄暗くなるが視野の狭窄は治っていて普通に見渡すことができる。
「闇属性の大弱点で敵に見つかっているかを確認できるの便利だな」
戦闘開始と終了がはっきりわかり『灯り』の魔法ひとつで解消できる。
敵に闇属性の攻撃持ちが現れるまで残しておいてもいいかもしれない。
「それよりも」
ステータスを開いて経験値を確認する。
前回ゴブリン1体で100以上もらえたので期待してしまう。
『EXP 1414+20=1434』
? 思ったより増えてない?
いや、異常に少ない。
前回は3体で481、1体当たり160ぐらいはもらえてた。
それも、6人パーティーでだ。
単純に6人で割ったとして元々の経験値は1000を超える。
「それはそれで多すぎるんだよな」
納得がいかず画面をツンツンしていると増えた経験値である20の所にポップアップが浮き上がる。
『取得経験値内訳
名称 ゴブリンL1
基本経験値 60
対象人数 1/1
レベル係数 1/3
人数割り 1/1
初回撃破 0』
「おお? 詳細か。
基本が60で対象人数は1対1ってことだよな、レベル係数ってのは相手が1レベルでおれが3レベル、・・・3分の1になってるのか!」
人数割りでの減衰は無し、初回撃破は怪しいがそこまで大量に取得はしないだろう。
「魔物撃破時じゃなくてクエストの報告時だろうな」
薬草でもそうだった、クエストも受けずに魔物を倒すよりは何かしらを受注して討伐した方が経験値が上がりそうだ。
クエストの方でも初回達成特典があったりしたのだろう。
その時の経験値がいくつなのかはもうわからない、わかった所で再現もできないのだから気にしてもしょうがない。
「魔物を根絶やしにする勢いで経験値を稼ごうとしても効率が悪いってことか」
レベル差の減衰もある、常に新しい魔物を探してクエストを受け続けろってこと?
難易度が急激に上がらないか?
プレイヤーの成長は結構ゆっくりだからついていけなくなるぞ。
「ついていけなくなったらそこが成長の限界ということにされてしまうのか、もしくは成長の壁か」
長期化しそうなスランプだな
まだ何体か相手にできる余裕はある。
でも戦えることはわかったしクエストを受けないと非効率らしいから一度町に戻ることにした。
「こんにちは」
「はいこんにちは」
街に戻り冒険者ギルドでゴブリン討伐の受注をする。
常時依頼だったので薬草と同じように事後に報告しても構わないらしかったのでさっきの1体を報告しておいた。
『EXP 1434+20=1454』
『取得経験値内訳
依頼達成 20
初回達成 0』
「そんなもんか」
依頼達成の獲得経験値は魔物撃破時の経験値と同じ、トータルで2倍になるから報告するのはありだけど飛びぬけて多くもなかった。
で、こっちにも初回特典があって、前回の経験値が多かったのはこれのおかげだろう。
「この程度なら薬草狩りの方がうまくないか?」
『鑑定』は必須だが1日で200は稼げる。
ゴブリン相手だと5体?
難しくはないがレベルが上がればまた経験値の減衰も起きるだろう。
「しばらくはハイブリッドでいいかもな」
薬草を刈りつつちょっと奥のほうまで行って、魔物に出会ったら倒して報告と言った感じか。
街中でポーション用の瓶を仕入れて『収納』にしまっておく。
薬草狩りをするならついでに自分用の『全回復薬』を作るためだ。
街を出ると薬草を摘みながら森の奥へと入っていく。
明るい場所があるなと近づいていくと、以前におれが枝に貼り付けた魔法の『灯り』だった。
「持続時間長いな」
永続ということもないだろう、発動時には日差しのような明るさがだいぶ和らいでいる。
魔物にとっては迷惑だろうが、一定間隔で『灯り』を貼り付けておけば帰り道にも困らないおれ専用の道ができる。
薬草を探しながら森の中を歩くが、森の奥だからと言って薬草が大量に生えているわけでもなかった。
どうやら森の中に入ると草より木の方が勢力が強く、栄養分も日差しも木が奪い取っているようだ。
薬草の育つ条件として、森と平地の境目というのなら森の中に開けた場所があれば、そこには大量に薬草が生えているんじゃないかと思い、どんどんと森の奥へと入っていった。
大分歩き、そろそろいくつめかの街灯代わりの『灯り』を貼り付けようとした時、「きゃー」という女性の叫び声と、「ワンワン」と犬の吠え声が聞こえてきた。
「だれか襲われてる?」
とっさに裂けだす。
この辺りの魔物はそれほど強くないはず、それにおれも以前よりだいぶ強くなっている。
蛮勇でないことを確認しながら自身に『祝福』の魔法をかける。
少し走り、喧噪を遠巻きにしているゴブリンを後ろから切り捨てる。
あれ? 戦闘状態に入ったよな?
会敵して剣を抜く前に視界が狭まらなかったし、風が肌にチクチク刺さる感じもない。
『祝福』の効果か?
攻撃バフと継続回復だけと思っていたが属性への耐性も上昇するのだろうか。
もし上がったとしてもせいぜい1段階、だがおれにとってはスキルポイント数百に相当する。
喜びと後悔を振り払って喧噪の中心を目指す。
「見えた」