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風船を掴んだ少年

 少年はいつも太陽の沈む先の事を思うと心が輝いて煌めきました。そんな少年の前に風船を集めているおじいさんが現れました。おじいさんは少年に言います。「君ならきっといけるよ。君の願う美しい世界へ」

 この物語は夢に輝く少年の物語です。

これは太陽の沈む先にあこがれて旅立った少年の話です。






 夜空に無数の星がある様に、少年の心にも無数の輝きがありました。


 少年の眼差しはいつもいつも遥か遠くの山向こうに沈む太陽を見ていて、沈む太陽の先に何があるのだろうと思うと、少年の心の輝きがより煌めくのでした。




 どうすればいけるだろう、あの太陽の沈む先のその先に。




 ある時、少年が街の煉瓦造りの裏道を歩いていると、大きな風船を集めている顎髭の生えたおじいさんに会いました。


 おや?と思い、少年は聞きます。


「おじいさん、そんなに風船を集めてどうするの?」


 おじいさんが髭に手をやって答えます。


「これかい、坊や。こいつを集めてあの空を飛ぶのさ」


 そう言って空を指差します。


「空を?」


「そうさ」


 老人が笑う。


「空を飛べるの?」


「飛べるさ。いいかい坊や。こんな話を知らないかい?遥か昔、ここよりも遠い遠い村に一人の少年が住んでいた。彼は蠟をたくさん集めてそれを固めて大きな翼をこしらえた。大きな翼があれば空を飛ぶ鳥になって、空へと飛びたてると信じてな」


「その人はそれでどうなったの?」


 老人は眼を輝かせて言いました。


「空を飛んだよ」


「本当?」


 少年の目が輝きます。


「ああ、高い山に登ってそれから風を待つと彼は大きく翼を広げ、やがて風に乗って空へと飛んでいったんだ」


「すごい」


 少年の頬が朱に染まります。それを見て、老人は首を縦に振りました。


「村の皆は彼の事を馬鹿にしていたが、彼は見事空を飛び、美しい青い海の向こうへ去って行ったんだ」


 少年の脳裏に美しい青い海の上へと翼を羽ばたかせて飛ぶ若者の姿が浮かびました。


「僕も行きたいな。その人のように!!そうすれば太陽の沈む先のそのまた先を見に行けるだろうから!!」


 少年が太陽に輝く空を見つめます。


「行けるさ。君なら」


 顎髭を撫でて老人が笑います。


「本当に?」


 言ってから老人が風船をひとつ少年に渡しました。


「こいつを君に差し上げよう。それで君もその彼のように空へ飛び立てばいい」


 少年は驚いて老人を見ます。


「おじいちゃんはいらないの?空を飛びたくないの?」


 老人は首を横に振ります。すると小声で少年の耳元に囁きます。


「私は既に昔、空を飛んだことがあるんだよ。そう、誰も知らない美しい美しいこの世界をね。だから誰よりもこの美しい世界の秘密を知ってるんだ。だからもういいのさ」 


 老人の眼差しが輝きます。


「思っていたんだ、もしかしたらここでこうしていたら誰か同じように空を飛びたいと思う若者が来ないかとね。そうしたら君が来た。それに年若い君の方がこの風船を使って上手く風に乗って空を飛べそうだしね。だから君にこれを譲ろうと決めたんだ」


 言ってから少年の背を優しく叩きました。


「さぁ行きたまえ、この青い空の下を、あの蠟でできた翼をはためかせて青い海を飛んだ彼のように」


 それを聞くや否や、少年は大きな風船を手にして大地を蹴って跳ね上がりました。すると風船はするすると音も立てず空へ空へと舞い上がって行きます。


「飛んでる、飛んでるんだ!!」 


 少年は風船を握りしめて、小さくなっていく老人へ向かって、急いで手を振りました。


「おじいさん、おじいさん。ありがとう!!僕は行くよ、輝く太陽の沈む先を今から見に行くんだ。ありがとう、ありがとう。おじいさん。僕は幸せだよ」


 少年の姿が見る見るうちに小さくなっていきます。その姿をいつまでも手を振って老人は見つめていました。






 やがて遥か遠くの山並みに太陽が沈み、夜がやって来ました。老人は道の側で腰を下ろしていると山で仕事をしていた家族が帰って来ました。するとその家族の後ろから小さな孫娘がおじさんの側にやって来ました。


「おじいさん今日の夕暮れに輝く一番星、すごく輝いていたね」


「そうかい?」老人は首を横に振りました。


「見なかったの?」孫娘が言います。


「見なかったよ」言ってから顎髭を触りました。


 すると孫娘が「おじいちゃん、これ」と言って萎んだ風船を渡しました。


「これね、帰り道で見つけて拾ったの。おじいさんの集めている風船じゃないかと思ってね。これでいくつめかな。風船をこうして拾ってきたは。おじいちゃん、ちゃんと風船をしっかり空へ飛ばないように大事にしてね」


 孫娘の言葉におじいちゃんは大きく頷きました。


「そうだね。でも、時折風船も空を飛びたくなるんだよ。だって広い空があるんだよ。夢をもった人が側にいたら、そんな美しい世界を一緒に空を飛びたいと思うだろう」


 孫娘は少しわかんないという感じで首を傾げるとおじさんの膝の上にのりました。


 おじいさん手にした萎んだ風船を見つめて夜空を見上げました。


 夜空には孫娘が言うようい光り輝く一番星が見えました。


「ねぇ、イカロスおじいちゃん。見えるでしょう?輝く一番星が」






 夜空に無数の星がある様に、少年の心にも無数の輝きがありました。


 少年は太陽の沈む先のその先を見ることができたのでしょうか?


 伝え聞くところによると、少年は空から墜落してその魂を憐れんだ神様が星にしたとも言われていますので、もしかしたら少年は星になって輝いたのかもしれません。


 しかし、本当の事は誰も知りません。


 もし遠くに沈む夕陽の側で輝く一番星をあなたが見つけたら、少年の事を思い出してくれませんか。


 そう思うと少年はいつでも夢を持って輝いているのだと思うでしょうから。



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