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呪われた黒狼



「殿下! リリアーヌ様! お下がりください!」



 ケニスの叫び声と共に彼の剣がガチィン! と音を立てる。その鋼に牙を阻まれているのは――



「狼?!」


「なぜマデュルの森に?!」


「しかも普通の狼ではありません! ……くっ!」



 巨大な狼の攻撃を防ぎながら剣を振るうケニスの声に必死さが滲む。なんとか距離をとり、体勢を立て直すが、狼は引くことなくこちらに狙いを定めている。

 グルグルと唸り声をあげる口からは止めどなくヨダレが流れ続け、尋常ではない。


 狼。マデュルの森には生息しないはずの獣。


 しかもその姿は通常の狼よりも2回りは大きく、何か黒いモヤの様なものを纏っていた。

 ギラギラと赤く禍々しい瞳がラウールとリリアーヌを捉える。



「リリアーヌ! 俺の後ろに!」



 空中に作り出した水球。炎。触れたものを傷つける風の(やいば)

 背後にリリアーヌを庇いながらラウールが次々に攻撃魔法を繰り出していく。



「殿下! 私なんか庇わずにお逃げください!」


「民を、それも友人の女の子すら守れなくて何が王族か!」



 が、絶え間なく発動されるラウールの火炎魔法にも狼は怯まない。火を恐れるはずの獣が逃げないばかりか、毛先を焦がすばかりで致命傷を与えられないのだ。


「どうして……!」


 焦るラウールの声に、リリアーヌの心は後悔でいっぱいになった。


 どうして、マデュルの森に来たいと言ってしまったのか。

 どうして、もっと万全の対策を整えておかなかったのか。



(こんなことなら爆弾とか、もっと強力な兵器を調合できるようになっておけば良かった……っ。あぁ、でも“呪われた黒狼”の弱点は雷だ……!)


 リリアーヌは黒いモヤ――瘴気を纏った巨大な黒い狼に見覚えがあった。

 あれは、ゲームでヒロインが遭遇するはずだったイベントに出てくる“呪われた黒狼”だ。



 ゲーム(ラビ学)の世界で主人公であるヒロインが、聖女の力を発動させるきっかけの浄化イベント。


 それは魔法学園に入学して1ヶ月が経った頃、その時点で一番好感度の高い攻略対象と共に、ヒロインが“穢れ”に呪われた獣に遭遇するイベントだ。

 そのイベントでヒロインは浄化の力を持つ聖女として目覚め、アーヴァンド王国に広がる『穢れ』の解決を目指す物語に発展するのだが――


(アーヴァンド王国に穢れが広がるのはヒロインが魔法学園に入学してからのはずでしょう?!)


 自然を破壊された精霊の怒りや、人間の負の感情が(おり)のように溜まり具現化し発生する穢れ。

 それに触れてしまった動物や人間が黒いモヤに包まれ、呪われた状態になる。そうなると理性を失い、周りを攻撃するように暴走してしまうのだ。


 その状態から解放するためには、対象を浄化するか息の根を止めるしかない。


 だが、今こうして“呪われた黒狼”に対峙するリリアーヌは当然、浄化の力のなど使えないし、ラウールもまだ黒狼の弱点である雷魔法を習得していない。


 どうしたら。

 どうしたらこの状況を打開できるのか。


 ドクドクとうるさいくらいに心臓が耳元で鳴り、冷たい汗が背中を流れていく。


 その時、ぎゅっと胸元を握りしめたリリアーヌの手に硬い感触が当たった。


「これは……」


 ラウールが現時点で使える火水風の魔法。

 そして自分の胸元にあるネックレス。



「――殿下、もしかしたら、この状況をどうにかできるかもしれません」




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