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シンシア=カルブンクルス

 メインヒーローに続いてライバルキャラも登場するなんて、自分の人生には何が起きているのだろうか?


 リリアーヌは信じられない気持ちで目の前の少女を見つめた。


「――あなたがリリアーヌさん? ……あなたが開発したって言う、ボールにもなるほど弾力のあるプディング、美味しかったわ。錬金術ってお菓子なんかも作れるのね。お父様もお母様もあなたのこと褒めてたのよ。特にお母様はヘアオイルのおかげで髪の艶が10代の頃に戻ったって大喜びしてた。……けど、想像していたより平凡な子。もっと素敵な子かと思ったのに、すごく残念」



 まさか自分の調合したお菓子や化粧品が公爵家でも好評だったとは。


 いや、王の耳に届いていたのだから当然と言えば当然なのだけれど。

 その縁で公爵家夫人主催のお茶会に母と共に招かれるなんて、人生とはわからないものである。


 平凡な子。と辛辣な言葉を吐いた薔薇色のドレスの少女――シンシア=カルブンクルスは、言い返してこないリリアーヌに拍子抜けしたような表情を浮かべている。


 サラサラと腰まで流れるホワイトブロンドに勝ち気な水色の瞳。白い肌を引き立たせる流行最先端のデザインのドレス。

 6歳で既に、数年後には大輪の薔薇に負けない美女になることを予感させる少女。


 彼女は、メインヒーロー(王太子)攻略ルートでライバルとしてヒロイン(プレイヤー)の前に立ちはだかる公爵令嬢シンシア=カルブンクルスだ。


(けどやっぱり、ゲームで見てた時とちょっと印象が違うなぁ……?)


 確かにリリアーヌの目の前にいる美少女は前世(ゲーム)の記憶の中のシンシアと色彩は同じだし、キツい言葉も言われたが、まとうオーラが違う。


 ……言ってしまえば毒々しさが足りなかった。


 ゲームのシンシアに比べれば、今一緒にいる彼女は勝ち気な女の子の範疇だ。


(王太子ルートで出てきた時はもっとこう、今時とってもオーソドックスなライバルキャラですごい意地悪……を通り越して陰険な感じだったのよね。まぁ、そのシンシアにザマァをする部分も含めてラビ学はヒットしたわけなんだけども。まだ子供だからかなぁ?)


 それともリリアーヌ(自分)は彼女の恋のライバルではないから当たりが柔らかいのだろうか?


「あらあら、ダメよシンシア。そんな風に照れ隠しをして。本当は噂の錬金術師の女の子に会って、お話しするのを楽しみにしてたじゃない。ごめんなさいねリリアーヌ。シンシアはちょっと素直じゃないところがあるの」


「お母様!」


 そう公爵夫人(母親)にたしなめられてシンシアが唇を尖らせた。ゲームでは見たことのない、無防備な表情を母親に向ける。


(公爵夫人の前だとそんな顔もするのね。……でも、公爵夫人って、ゲームでは違う髪色だったよね……?)


 シンシアの母親であるカルブンクルス公爵夫人。娘を優しくたしなめた彼女は、シンシアと同じホワイトブロンドで、それもまたリリアーヌのゲーム(前世)の記憶と食い違う。


(設定資料集ではシンシアの母親は黒髪だったはず)


 爆発的なヒットを飛ばしたラビントス魔法学園物語。

 そのゲームの「魅力的なキャラクターたちのプロフィールや学園の詳細が知りたい!」というファンの声に応えて、公式からは何種類もの設定資料集やファンブックが発売されていた。

 

 特に『完全網羅! パーフェクトファンブック!』とPRされた分厚い資料集には、シンシアの両親の設定表まで掲載されていた。そこではシンシアの母親は黒髪で、そして継母だったはずだ。


 しかし今、微笑ましいやりとりをしているシンシアと公爵夫人は、髪の色も瞳の色も同じで、どう見ても血の繋がった親子だ。


(シンシアの母親が継母だった理由ってなんでだったっけ……? パーフェクトファンブックが発売されたのは私が高二の時だったから、あんまり思い出せないな……)


 17歳で終わってしまった前の人生。その最後の方の記憶は、熱に浮かされていて霞んでしまっている。


「良かったら今度ゆっくりお話を聞かせてねリリアーヌ。シンシア、ちょっとこちらに来てお母様と一緒に伯母様にご挨拶してちょうだい」


「わかったわお母様。リリアーヌ、あなたにはもっと聞きたいことがあるのだから、わたくしがまた戻ってくるまで帰ってはダメよ。絶対よ」


 深紅、ピンク、白、黄色。様々な色の薔薇が咲く庭園で開かれたお茶会は華やかに賑わっていた。

 主催である公爵夫人とその娘のシンシアは忙しそうだ。リリアーヌの母も、交流に勤しんでいる。


(私はどうしようかな……。シンシア以外に同じ年頃の子はいないし……。あ、花壇に生えてるあの草、うちでは見たことのない形をしてる。調合の材料に使えないかしら)



 

「――やぁ、リリアーヌ。何を見ているの?」




 突然の声に驚いて振り向くと、護衛を連れたラウールが背後に立っていた。






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